第25話 成り行きで冒険者に……

「まず冒険者ギルドなんですけど、基本的にどの街でも同じ作りになっているんです。

 左に見えるアレは依頼掲示板ですし、その横が依頼受付ですね」

「じゃああの右側の方は?」

「右側の方は魔物素材の買い取りとか採取物の納品場所ですね。

 で、あの真ん中の受付は依頼についての相談だったり自分に合った装備とか宿の紹介とか色々聞く事が出来る総合受付ですね。冒険者登録もあそこで出来ますよ」

「んで冒険者登録をすれば身分証になるわけか」

「そういう事です。それじゃ、登録しに行きましょうか。

 あっ、見て分かる通り酒場と併設されてますけど、この時間帯に飲んでる人には気を付けてくださいね。依頼に失敗したりしてヤケ酒してる人達が多いので」

「お、おぅ……」


 辺りを見渡してみれば、そこには酔い潰れてる人達がチラホラ見えており、仲間と思われる人が介抱している。

 かなり大柄な人も酔い潰れてて、介抱が大変そうだな〜……なんて思っていると、若干焦点が合ってなさそうな目と目が合ってしまった。


「あぁん? んだよこの子供はぁ……! 知らねぇ顔らが冒険者になろうって口かぁ? 冒険者ってのはよぉっ! んな簡単な仕事じゃねぇんだよ!」

「あぁ、注意したばかりなのに……しょうがないですね」


 顔を赤くしたガタイの良いハゲ……スキンヘッド? の男がズンズンと歩いてきた。

 ケンカか?と思ってそっと武器錬成の準備をしようと手を動かし——武器錬成を発動させる前に男と俺の間にレティが割って入った。


「ちょっとオズさん! 暴力は駄目ですからねっ! と言うかお酒を飲むなら迷惑のかからない所でって言ってるじゃないですか!」

「あぁっ⁉︎ うるっせ、ぇ……んだ…………っ! レティの嬢ちゃん⁉︎」

「はぁ、酔い冷めましたか? ほら、正気に戻ったなら絡んじゃったゼノさんに謝ってください」

「ゼノ? この新人の坊主か?」

「はい、そうですよ」

「そうか、レティの嬢ちゃんが付いてるって事は訳アリか……いやぁすまなかった、ゼノの坊主。ちょっと今気ぃ立っちまっててよ」

「あぁ、大丈夫。別にそこまで気にしてないからな」


 あと坊主はお前じゃいって言いたいけど、此処での坊主って子供って意味だよな。

 ……まぁ、今の俺の姿って中学生程度に見えてそうだししょうがないんだけども。


「あぁ、それなら良かった。ついつい怖がらせちまったのかと……んじゃぁ俺は飲み直してくるわ。またなぁ、レティの嬢ちゃんにゼノの坊主」

「ちゃんと迷惑かけない程度に留めておくんですよーっ!」

「わぁかってらぁ!」


「……本当に分かってるんですかね? あれ。

 と言うかすみません、ゼノさん。オズさん——さっきの人は素面だとそこまで悪い方では無いですし、むしろ頼りになる方なのであまり怖がらないでくださいね」

「ん? いや、別にそこまで怖くは無かったな。あの男程度なら無力化できそうだったし」

「ほぇ? そうなんですか? 凄いですねゼノさん……オズさんってCランク冒険者でガタイも良いですし、迫力がありますからよく子供に泣かれてるんですが……


 ま、まぁ大丈夫そうならさっさと登録終わらせちゃいましょうか。まだまだこの街で説明しておきたい所とかありますから」

「ほいほい」


 レティに案内されて総合受付へと行き、書類に自身の事を記入……代筆してもらい、自分の魔力を魔道具に流して登録は完了っぽい。

 割と簡単に冒険者登録が終わってしまったわけだが……色々大丈夫なのだろうか。ほら、セキュリティとか治安とか諸々が。


 登録した事で渡された木の板には『Gランク』と書かれており、ちょっと力を入れるだけでペキって折れてしまいそうだ。これは気をつけないとかな。


「無事に冒険者証も作れましたね。今後街を出る時はその冒険者証を見せれば門を通る事が出来ますよ。

 よしっ、それじゃあ街の案内しますからついてきてください!」


 レティに腕を引っ張られ、街へと駆り出される。


 最初に来たのは宿屋。

 レティ曰く、比較的安価でありながらもセキュリティがしっかりとしているのだとか。

 その代わりに夜食等が出ないらしい……が、近場に食事処があるお陰でほぼほぼ問題がないらしい。


「あれ? そう言えばゼノさんってお金持っているんですか?」

「……持ってないな」

「あー、ですよねぇ。一応着てる服とかは結構しっかりしてますし、売れそうではあるんですけど……一着しかない服を売るのはよろしくないですね。

 ……分かりました。今日と明日と明後日、この三日間は私が宿代を立て替えてあげますから、その期間中に稼げる様にしましょうか」

「は? いやいや、そこまでして貰うつもりは……そもそも俺的には野宿でも良いわけで——」

「野宿なんて1番ダメですからね⁉︎ 寝ている間に身ぐるみ剥がされるなんてよく聞く話なんですから絶対に駄目ですっ! この街は野宿出来る程治安が良いわけじゃないんですから……全くもう。とりあえず立て替えておきますからね」


 レティの手によってやや強引に宿を取る事になってしまった。

 お金……お金、か。やっぱり冒険者としてゴブリンとかを狩って資金調達すれば良いのだろうか? それで立て替えてもらった分の宿代も払って、あとはお礼……


 と、考えているうちに受付が終わったらしいレティが戻ってきた。


「それじゃ、次の場所に行きましょうか。

 そうですね……やっぱり冒険者にとって必須な場所優先の方が良いですかね?」


 レティが率先して動いていくのを追いかけながら、そっと宿屋を見る。


 …………龍になった俺が、宿に泊まるなんて大丈夫なんだろうか。

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