第34話 ACD隊員の一日
朝6時、基地内全体にアラームが鳴り響く。
「レイ、早く起きねえと水嶋さんから説教だぞ!」
「……んぁ?」
同室になったダイスケに叩き起こされ、眠そうに目をこするレイ。
「布団を畳んですぐに着替えろ! 昨日あんだけ確認しただろ!」
「……あぁ、そうだ!」
ここでようやく、自分が今日からACDに入隊することになったことを思い出す。
「やばいやばい! 初日から遅刻はマズいぞ!」
急いで布団を畳み、隊員服に着替えるレイ。
「布団は綺麗にたため。後で鬼軍曹がチェックに来るからな」
「ひぇぇ、テレビで見た軍隊の通りじゃん」
急いで支度を整え、宿舎前のグラウンドに集合。
すでにほぼ全員の隊員が集まり、前には鬼と呼ばれる高田ゲント軍曹と水嶋部隊長が厳しい目を向けている。
「……集合時間5秒前。初日から少し気が抜けているのではないですか?」
「す、すみません……」
「声が小さいぞ!」
「はい! 申し訳ありません!」
さっそく高田軍曹の洗礼を受けるレイ。
「早速走り込みだ! グラウンド30週!」
「「はい!」」
一斉に走り出す隊員たち。レイもそれについて走り出そうとしたとき、高田軍曹に引き止められる。
「如月隊員。お前はこれを背負って走れ」
渡されたのは何かが入ったリュック。中を見ると眠りこけたモスが入っている。
「如月隊員は基本的に訓練を全てこのエイリアンとともに受けてもらう」
「えっ、どうしてですか?」
「ACDに協力するなら、如月レイとともに行動をさせろ。それがこのエイリアンの提示した条件だからだ」
強引にリュックを背負わされたレイ。そのまま高田軍曹に背中を押されて走り出す。
隊列に置いて行かれないよう必死に追いかけるレイだが、全速力を出してもなかなか追いつくことができない。
「この速度でランニングかよ……やっぱ軍人って体力半端ないんだな」
「おうレイ、頑張ってるみたいだな」
ようやく眠りから覚めたモス。リュックからひょっこりと顔を出した。
「ところで朝飯はまだか? オレ腹減ってんだけど」
「うるさい……こっちだって飯抜きで走らされてるんだぞ」
気づけば先頭集団が追い抜いていき、1周遅れになる。やがてレイのスピードはどんどん落ちていき、もはや走っているとは言えない状態になった。
「はぁ……はぁ……いきなりこれはしんどすぎる……」
「頑張れ頑張れぇ。オレがここで応援してるぞ」
(こいつ、よく考えたら結構重いんだよなぁ……)
それでもなんとか30周を走り切り、ようやく朝食の時間。
「君が今日から入って来た新人君?」
朝食を食べていると、隣に座った男女2人組が声をかけてくれた。
「あっ、如月レイです。これからお世話になります」
「あたしは黒瀬カナ、それでこっちのメガネくんが武智シンジ」
「自分も最近入ったばかりなので、よろしくお願いします!」
カナはボブくらいの茶髪で中背、シンジは黒髪に黒のメガネ、少しのっぽな背丈が印象的。
「たぶんあたしたちと同じルーキー隊所属になるから、これからよろしくね!」
(この人たちは、一体どうしてACDに入ることになったんだろう……)
そんな疑問は喉の奥に仕舞い込み、急いで朝食を平らげる。
その後ダイスケやかなたちに連れられ、午前の教室へと足を運んだ。
「授業も途中からの参加になるけど、わからないことがあったら何でもあたしに聞いてね」
「あ、ありがとうございます」
(カナさん、優しい人だなぁ……)
ギャルに近い人種だろうか。今までレイは関わったことのないような『陽』の人間。
そんなことを考えていると、教室に水嶋が入ってきて授業が始まる。
「それでは午前の授業を始めます……とその前に、今日から新しい隊員が入隊しました。如月隊員、挨拶を」
「あっ、はい!」
自己紹介の後、至って普通に授業は開始。内容は最新の研究によって明かされたエイリアンの種別、構成成分やそれに対する効果的な対処方法がメインであった。
現役大学生だったレイにとって座学は特に苦労することもない。
だが問題は、昼食後に行われる実技の講座だった。
「如月新隊員がいるので改めて説明しますが、我々は重火器を使わず、隠密にエイリアンを駆除することを目標とします。そのためには体術、武術の心得が欠かせません」
実技では柔道、空手、ナイフを用いた護身術などが授業される。どれもレイが学んだことのない物ばかりで、練習にはかなり苦労していた。
「それでは2人1組になって練習を開始しなさい」
水嶋がそう言うと、すぐ横にいたシンジがレイに近づいてくる。
「レイさん、良かったら自分と組んでもらえませんか?」
「わかりました」
シンジはまだ入隊してから日も浅く、筋肉もあまりついていない。レイの練習相手としてはうってつけ、だったのだが——
「おっと、レイの相手は俺だ」
そこに割り込んできたのは、同室の内海ダイスケ。
「細い奴同士がやったって質の良い練習にはならん。レイ、頑張って俺を投げ込んで見せろ」
「ああ、はい……」
仕方なくダイスケと組み手を始めるレイ。だが水嶋に言われた通り襟と袖口を掴み、いくら引っ張ってもダイスケの身体が動く気配はなかった。
「全然違う! 力の入れ方っていうのは、こうやるんだよ!」
「わっ!」
不意に襟を掴まれると、そのままレイの身体が宙に浮く。そのままバタンと勢いよく音を立てて床にたたきつけられた。
「ま、練習あるのみだな」
その後も実技練習は夕方まで続けられ、初日からレイの身体はボロボロになった。
「レイ、今日1日お疲れさん!」
夕食の時間になると、厳しかった高田軍曹やダイスケたちがねぎらってくれる。
1日必死に頑張った後に食べる牛丼は至高の味だった。
「どうだ如月隊員。この先もやっていけそうか?」
肩を抱えてくる高田軍曹に対し、レイは大きく頷く。
「はいっ、これからも一生懸命頑張ります!」
しかし翌日の朝には、レイはその言葉を後悔するのだった。
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