岸田文雄首相は安倍、菅政権がうたった「全世代型社会保障改革」を踏襲する方針を示した。分配を通じた弱者への目配りや、年齢によらず能力のある人が負担する「応能負担」の理念には賛同する。
しかし、自民党総裁選で「分配重視」を口にしながら、すぐさま柱の金融所得課税を撤回した腰砕けぶりを見ていると、先行きに不安を感じざるを得ない。
消えた「令和の所得倍増」
先の衆院選で自民党は261議席を得たにもかかわらず、有力者の相次ぐ落選もあり党内に高揚感はみられなかった。投開票翌日の11月1日、硬い表情で記者会見に臨んだ岸田首相は、選挙中に掲げた「成長と分配の好循環」をどう実現するか問われると「『プッシュ型』の給付金で国民の生活を支えていく」と強調し、非正規雇用や子育て世帯など困窮する人に国の側から手を差し伸べていく考えを語った。
「新しい資本主義」を唱える首相は、その「実現会議」の10月26日の初会合で近く「全世代型社会保障構築会議」を発足させ、会議の下に公的価格評価検討委員会を設置すると表明した。看護や介護、保育に携わる人の収入を増やすことで国民全体の所得を向上させ、次の成長につなげるという。
安倍、菅政権は「自己責任」を前面に出し、国民の分断を招いた。こうした路線を、岸田首相が社会的弱者に対する包摂的なものに改めようとしている節はうかがえる。宏池会(岸田派)の創設者、池田勇人元首相は「所得倍増」を掲げ、「安保の岸(信介政権)」から「経済の池田」への転換を図った。岸田首相が池田氏を意識していると指摘されるゆえんだ。
それでも首相がぶち上げた「令和の所得倍増」は、周囲の慎重論の前にたちまち衆院選の公約から消えた。弱者への分配の原資になるはずだった金融所得課税も株価下落を不安視する勢力に反論できず、これも即座に引っ込めた。それでいながら、代わりの財源に関しては口をつぐんだままだ。
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