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18 薬草の話


 うーむ失敗したな。

 ついしびれ草を目にして舞い上がってしまった。街中に戻ってから食えばよかったんだよ。


 どうもこういう時はポカをしがちだよな俺は、反省しよう。


 アレキサンダーも呆れたのか、俺の顔面に一撃いれてから頭上の定位置へ。


「ごめんよ、アレキサンダー」

 ひと言掛けると小さく頷いて、ぽよんと跳ねた。許してくれた、でいいのかな?


 今後は行動に関しては慎重さを密にしよう。

 ここは平和なコンクリートジャングルに覆われたリアルではなく、危険と隣り合わせの未開拓世界なのだから。


 反省点を心に刻み込んでから、噴水前のベンチから立ち上がる。


「まずはオロシの店に寄って、おばあさんの所かな」


 第2の街、ヘーロンとか言ったか。そちらが発見されてから攻略組はほとんどが移動したと聞く。

 でもこちらの街にはまだ多くのプレイヤーが残っているようだ。


 ヘーロンは小さい街だというし、流通の中継地みたいな感じなのかな?


 オロシの露店まで行くと、彼は意外そうな表情で俺を迎えてくれた。


「やあ、ナナシ。ずいぶん早かったね。見付からなかったのかい?」

「いや、見付けたが狼に殺られて死に戻った」


 真相は伏せる。きっと爆笑されるから。


「あー、アレの相手はソロだときついよね……。だいたい複数だし」

「こっちは一撃くらったら瀕死になるからな。防御と攻撃に難題を抱えてる」


「初心者用装備だけは耐久度の問題ないからね。買い換えるのも大変だろー?」

 やはり装備を整えるのも急務のようだ。


 世間話だけではなく、本題の薬草を渡そう。

 プレイヤー間でのみ行使できる売買用ウィンドウを開いて、薬草をきりがいい40本と毒草10本を乗せる。いつまで経っても反応がないのでオロシを見ると、目を丸くしてポカーンと口を開けていた。


「どうしたんだ? 多すぎて買い取れないとかか?」

「いやいやいやいや、こんなにいっぱいどうやって採ってきたんだい?」

「ふつーに森の近辺で」

「……え? ちょっと待って。鑑定だよね」


「鑑定だな」

 違うけど、面白いくらいに混乱している。


 もしかして鑑定というのは草1つ1つに識別を掛ける必要があるのか? 

 後日貴広に聞いたところ、草原全体に「?」の付いた草がならんでて、個々に判別しなければいけないらしい。


 そんな感じだというのなら、草原を見回しただけで区別出来る植物知識は便利なんだろう。

 ちょっとだけ優越感を感じるが、図書館の存在に気付いた者がでればそれまでだがね。


 真実を聞きたがるオロシを煙に巻き、無事ポーション2本と毒消し2本と交換をした。それだけだと合わないというので、お金も2000Gほど受け取った。


 ついでにオロシから「専属になってくれ!」とも懇願された。


「いやいや、マテマテ。専属って何だそれ」


「頼む! このとーり!」

 土下座されても意味がわからんのだが……。


「とりあえず訳を話せ、訳を」

「あ、ああ……」



 なんでもオロシくん、以前(β)は攻略組にいたそうな。

 でも本稼動になるにあたり生産に転向したところ、前のパーティから除名されてしまったらしい。


「酷い話だな」

「少なくとも相談はするべきだったかな……」


「ああ、ほうれんそうは大事だな。その大前提もなく戦場に放り込む人もところによってはいるからな」

「……(何があったか聞くのが怖い)」


 でも別の友人に依頼して薬草を集めて貰っていたのだが、攻略組が第2の街に移動してしまうと状況が一変したという。

 こちらの街に残っているプレイヤー陣には、鑑定の高い者が不足しているので薬草の集まりが悪く、ポーションの作成にも数が揃わないらしい。中にはちょびっとしか採って来れないのに「労力に見合った報酬を払え」とごねる者もいるそうだ。


「って調合持ちって他におらんのかいっ!?」

「あんまり居ないんじゃないかな? 今のところ各属性魔法に回復呪文はあるみたいだし」

「魔法万能だなあ」


「なんならナナシも作ってみるかい?」


 オロシに勧誘されてしまったのでステータスを開き、習得可能なスキル一覧を表示させる。植物知識を取得した時に調合は出ているのだが、SPが9も掛かるので問題外である。


「高過ぎる。俺にはSPの余裕がない」

 まだ1しかないしな。


「そっかあ。無理強いはしないから、もし君がよかったら教えるよ」

 機会があったら教えて貰おう。料理みたいに覚えられるかもしれない。


「それはそれとして薬草の件はだいたい分かった。とりあえず見付けたら優先的に持ってくる、で良いか? 俺も色々集めるものがあるんでな」


 基本的にギルドに所属していない俺には、簡単に金策できる手段がない。なのでこの提案は渡りに船だった。

 え、おばあさんのとこ? あれはもうボランティア的な意味があるわな。もう売るって決めちゃったんだからここでひるがえすのは体裁が悪いしな。


「ホントかい! ありがとう!」


 俺が妥協案で了承するとオロシは飛び上がって喜んでいた。

 分かったから拝むなというに!




 昔と違って風邪も治りが遅くなった。

 年ですな……。

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