20 骨格標本の話
「やあやあ、すまんね。呼び出してしまって」
援軍にはアルヘナの所属するクラン・エトワールに頼んでみた。来たのは丁度ログインしていたという4人。
本来なら10人以上いるというが、大規模クエストでもない限り全員そろうのは稀だとか。
「兄さん……。今度は街中で何を見付けたんですか? あんまりポンポン死ぬようなことにはならないで下さい」
「こんにちは。あら、この場合こんばんはかしら。ナナシさん先日はどうも」
前回より更に闇色強調される革装備とマントとなった盗賊のアルヘナと、対称的に白さが際立つ神官のエニフさん。ゲーム内時刻は夕方に近い。こんばんは、でいいと思うよ
「デネボラ。魔術士。よろしく」
「貴方がアルヘナのお兄さんでビギナーの人ね! 私はアニエラ。騎士を目指しているわ。よろしくね!」
紺色のツバ有り三角帽子に、裾が大きく広がる紺色のマント。これぞ魔女だという格好の黒縁眼鏡を掛けたデネボラさんと名乗る女性。
何かの紋章入りの白い盾と白い剣。軽装の金属鎧を装備した元気いっぱいの女性はアニエラさんと。
黒、白、紺、白と君たちのトレードマークはしまうまか何かかね?
ああ、エトワールだったな。しまうまの星なのかもしれん。
「なんか変なこと考えてませんか?」
「ないない」
勘の鋭いアルヘナの追及をかわし、改めて3人へ向き直る。彼女の頭へポンと手を置くのも忘れずに。
「改めて、呼び出しに応じてくれてありがとうございます。アルヘナのリアル兄でナナシと言います。ビギナーの人という呼び名は、出来れば勘弁してもらいたい」
最後のひと言で吹き出すものが半数。やはりビギナーの人が浸透してやがるな、まったく。
時刻は子供たちを送り届けてから1時間半後、噴水の前へ集合したところだ。
日没までは遠いが、西の空にはオレンジ色が出始めている。
アレキサンダー込みで5人+1匹PTを組み、問題の場所へ移動する前に今回の不審者の説明をしておく。
パーティ内会話は他の人には聞こえないので、存分に大きい声を出しても構わないそうだ。
「……という訳でその不審者の正体を暴いて、排除したい。協力してくれ」
「……」×4
頭下げて頼んだら、アルヘナはジト目。他の3人は唖然とした表情である。
え? 俺がなんかやったかい?
「やー、シテアドなんか普通秘匿して個人でどうにかしようとする人が多いのに、他人に頼る人なんか珍しいわね!」
「ビギナー5レベルの人間にどうしろというのだ。相手がなんだか分からんのだから尚更だ」
アニエラさんにそう正直に返す。俺の攻撃と防御なんか雀の涙もいいところだしな。
「なんでまたそんなに低いんですか、兄さん?」
「さっき死んだばっかりなんだよ! 薬草拾いに行ったら狼に食われて」
悲しくなるから同じこと繰り返させんな。ちくしょうめ。
「呼んでくれれば、手伝う」
「ありがとう?」
デネボラさんにボソッと呟かれた後、エニフさんに「デネさんが自主的に手伝うと言うなんて、珍しいですわ」と肩を叩かれた。
なんとなく憐れまれている気がする……。
目的地に着く前に子供たちが居ないか周囲を確認しておく。
見た感じは居ないようだが、隠れてるとかないよな?
問題の倒壊しかけた家屋からは、丁度ボロ布を被った不審者が這い出てくるところだった。
少し離れた路地から俺たちが覗く中、その不審者は手探りな状態で動き始める。
「確かに不審者ね!」
「何か探しているのでしょうか?」
手にした物を手当たり次第に確認しているっつー感じだな。
アルヘナが短剣を抜くと同時に、全員が戦闘準備を始める。
「では兄さん、声を掛けてきてください」
「え! 俺っ!?」
「このクエストを発動させたのは兄さんでしょう? 他の人だと反応しない可能性がありますので」
「だ、大丈夫なのかなあ……」
全員で路地から出るが、俺とアレキサンダーだけが不審者へ近付いていく。
不審者はというと、足音で俺たちの接近に気付いたのか動きを止めた。
「へい、おっさん。何か探し物かい? 俺で良ければ手伝ってええっっ!?」
俺が声を掛けた瞬間、ボロ布の奥に赤い光が灯り、両腕を広げて掴み掛かってきた。俺は後ろに倒れるように体を沈めてそれをかわす。
その顔面にアレキサンダーが突撃をかましたのを見て、横へ転がって不審者の間合いから外れる。
アニエラさんが盾をガンガンと叩いて注意を惹き、デネボラさんが撃ったファイアーアローがボロ布を焼失させた。現れたのは人体骨格標本である。
「「スケルトンッ!」」
「理科室の怪じゃないか」
「兄さん! 力の抜けることを言わないでください!」
怒られてしまった。
エニフさんが「ターンアンデッド」を使えば、スケルトンが一瞬だけネガ反転したようになり、動きが鈍くなった。
アルヘナからあんまり強い威力の攻撃をしないように、と言われているので、その辺に落ちている石やレンガを後頭部に投げ付けている。なるべく誰かに攻撃したタイミングを狙ってだ。
「アレキサンダー、足元を邪魔してやれ」
俺がそう促すとアレキサンダーはスケルトンの歩みを妨げるように、脚部へ攻撃を集中させる。
アルヘナはアニエラの防御の合間を縫って攻撃を仕掛けているようだが、効果は薄そうだ。
「なにこれかたーい!」
「私たちより高レベル。苦戦必須」
「あらあら、どうします?」
「ちょっと兄さん! このクエストってもっと後に発生するものじゃないんですか!?」
「俺が知るか!」
東の街道の熊より強いということか?
エトワールフルメンバーなら兎も角、足手まといの俺が混じってるせいで攻撃力が足りないらしい。
何かないかとステータスを開いてみると下の方で点滅するスキルが1つあった。
使ってみるか?
PV12万越えとブックマーク1200件越え、ありがとうございます!
次回ようやく例のスキルの出番。