90 夕食の話
嵐絶のクランメンバーに野営の見張りをやってもらう代わりに、食事を提供することになった。
まだ空腹度は実装されてないが、俺が用意してたら皆が物欲しそうな目で見ていたからだ。
人が多いので、スープ系でまとめて大量に作ることにしよう。
つみれ汁にしようかと思ったが、挽き肉を作る機械がないので断念した。
野菜を適当に切って肉と煮込めばいいか。
もう少しでかい鍋とかも、買うべきだったな。
あとルビーさんは魔導コンロも知らなかったようである。
そりゃあ外のフィールドで野営しようなんて考えるプレイヤーが、俺の他にいるとも思えない。
野菜のぶつ切りはシラヒメが前肢の間に細い糸を張り、それでバッサバッサとやってくれた。
キミは段々一家に1台的な立ち位置になってきてないかね?
こっちはリンルフの肉とフォレストスネークの肉とスコピオの肉を、一口サイズに切って鍋の中に入れる。
スコピオの肉はカニの身みたいだしな。肉と言っていいのかどうか。
オアシスから水を汲んできて、塩コショウで味を整える。
量が足りないので鍋を2つ使うことにしたのだが、コンロは1個しかない。
片方が食ってて片方を待たせるのもなんなので、どうしようかと考えていたらアレキサンダーがぽよんぽよんと寄ってきた。
「どうしたアレキサンダー? は? 鍋を頭の上に乗せろって? いいけど、どーすんだよ」
アレキサンダーの頭の上に鍋を乗せてしばらくすると、徐々にグツグツと煮え始めた。
「おい、ナナシ。なんでスライムの上で鍋が煮えるんだ?」
「原理は解ったが、やってることは器用な使い方だな……」
ジョンさんが唖然として湯気のたつ鍋を見つめている。
たぶん【炎魔法】の火力を調整してやっているんじゃないかなー、と思われる。プレイヤーには出来ない芸当だ。
いや、今まで目の前で調理してたから、覚えたのかも。経験か、経験なのか?
調理に特化するペットってなんなんだよ……。
小鉢かお椀となるものがあんまりない。
これに関しては嵐絶メンバー内に器を大量に所持してる人がいたので、そちらを提供してもらう。
因みになんでそんなのを集めてるのかと聞いてみたら、露店で並んでいるのを見て、衝動買いしてたらしい。趣味や嗜好は人それぞれだが、今回は助かった。
「旨っ!」
「うめえっ!」
「なんだこれ!」
「いくらでも食べられるぞ!」
適当に作ったわりにはなかなかの味に仕上がった。
俺のアイテム知識では料理の詳しい判別はつかない。精々料理名「野菜と肉のごった煮」と表示され、満腹度+30%と続くくらいである。
だが普通の鑑定を持ってる側は違うらしい。
「なんだこれっ!? 評価7とか出てるぞ!」
「「「は?」」」
鑑定の方には料理名と製作者名と評価と満腹度がでるらしい。
この前オロシに肉串を見せた時はそういうの無かったな。
バージョンアップの為に徐々に変更されてるってことなのかねえ。
「ところでスコピオの肉ってなんだ?」
「スコピオ倒したら、甲殻と肉を落とすだろ」
「え?」
「……は?」
おいいいっ!?
もしかして肉もレアなのか?
うわこれはまたやってしまったかもしれん。
「おい、ナナシ。スコピオに対してもきっちり吐いて貰おうか?」
「はいはい。分かりましたよ」
ジョンさんが凄みを効かせて迫ってくる。怖いからメンバー総出で取り囲むな!
スコピオのドロップ品について、毒針のスティレット共々情報を渡した。情報料は更に2万である。
「普通、アイツラは魔法で攻撃して弱らせるもんだがなあ」
「ナナシさんはどうやって倒してるんですか?」
聞かれても絶対理解できなさそうだが、ここに来るまでの戦闘を振り返るに、ええと……。
「アレキサンダーがハサミの片方押さえて、尻尾の攻撃をぎりぎりで避けて、もう片方のハサミを弾いたら顔面に向けてパワークラッシュかな」
グリースの特殊攻撃は言わない方がいいか。
「「「……」」」
ほら見ろ。黙っちゃったじゃねえか。
ジョンさんたち3人が俺の肩に手を置いてひと言。
「「「絶対おかしいから」」」
「ええぇ……」
馬鹿なっ、全力でゲームを楽しんでいるというのに。
なぜ昔に遊びに誘った貴広と同じようなことを言われねばならないんだ……。