表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/116

アーネストの警告

 驚きのあまり声を失っているビアトリスに対し、アーネストは「君に話があるから待たせてもらった」と淡々とした調子で言った。


「俺が君の教室に行くと目立つからな。ここに来れば君に会えると思っていた」

「そうですか……」


 また少し痩せただろうか。かつての自信にあふれた態度はなりをひそめ、今の彼はどこか儚げで、存在感が希薄なように感じられた。


「あの、お話とはなんでしょう」

「母についてだ」

「王妃さまについて、ですか」

「ああ。母が余計なことをやっているようですまない。こんなことはもうやめるように伝えたんだが、大丈夫だから気にしないでいい、全部自分に任せておけというばかりでな。……あの人は、まだ何か企んでいるようだ」

「そうですか」

「すまない」

「いえ、アーネスト殿下に謝っていただくことではありません」

「まあ、どうせ俺では母を制御できないからな」

「そういう意味では」

「誤魔化さなくていい。俺も自分の非力さは自覚している」


 アーネストは自嘲的な笑みを浮かべた。


「俺は結局ずっと母上の掌の上だ。あのときも」

「あのとき?」

「いや……王妃教育のあとのお茶会で、君を泣かせたことがあったろう」

「はい」


 ――君は自分が偉いと思っているのか?


 大好きだったアーネストに突き放された日のことは、忘れようにも忘れられない。


「もし、あのとき俺が」


 アーネストはそこで口をつぐんだ。彼の眼差しはビアトリスではなく、その背後に注がれている。視線を追って振り返ると、ちょうどカインがこちらにやってくるところだった。


「君の待ち人が来たようだから失礼するよ。それじゃ」


アーネストはそう言うと、校舎の方に消えていった。




「ビアトリス! まさかあいつに何かされたのか?」


 あずまやに到着したカインが、勢い込んで問いかけた。


「いいえ、少しお話していただけです。王妃さまがまだ何か企んでいるようだと警告していただきました」

「そうか……」


 ビアトリスの言葉に、カインはほっと肩の力を抜いた。


「殿下は王妃さまにやめるようにおっしゃって下さったのですが、聞き入れる様子はなかったそうです」

「まあそれはそうだろうな。国王ですらあの女を御しきれてないところはあるし、アーネストの手には余るだろう」


 カインはため息をついて言葉を続けた。


「俺は子供のころ、母親のいるアーネストが羨ましかったが、今にして思えば、そんな良いものでもなかったのかもしれないな。俺は他人だからさっさと離れることができたが、アーネストはあの女が生きている限り、振り回され続けることになりそうだ」

「そんなことは」


 そんなことはない、とは言えなかった。

 だけどそうだと言い切る気にもなれなかった。

 ただアーネストの儚げな後ろ姿が、いつまでもビアトリスの脳裏に焼き付いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック4巻の書影です  書籍4巻の書影です
― 新着の感想 ―
[一言] 親の存在がまるで呪いだな
2022/10/06 11:54
[気になる点] あずまや←は何故平仮名なのでしょうか。 四阿もしくはガゼボで分からないと言う人は居ないと思うのですが。
2021/10/31 08:24 森の豚さん
[一言] うん。男がみんなどろどろ。(笑)。人間ていうのは、綺麗だけじゃないですが、それにしてもみんなヘタレ。トリシァだけがかっこいい。スッキリさっぱり、胃腸薬のような解決を望む!
2021/03/28 09:15 マリアマリーナ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ