32.高度な結界を、高度な技術で破る
私たちは森で見つけた、ゴブリンの巣へと潜っている。
私と愛美さんの中には、この先にいる人物について、一つの仮説が成り立ってる。
その真相も……この先に行けばわかるだろう。
「む? これは……」
先頭を進むアメリアさんが、ぴたりと、足を止める。
「どうしました?」
アメリアさんがしゃがみ込むと、床に触れて言う。
「ここ、さっきも通ったところだな」
周囲を見渡すも、わからない。同じところを通った……?
「みゃー」
『【たしかにあたしたちの匂いがするわね】ですって』
ましろが床の匂いを嗅ぎながら言う。人間より鋭敏な嗅覚をもつ、猫がそう言うんだから、そうなんだろう。
「でも一体どういうことでしょう……?」
すると愛美さんが言う。
『もしかしたら、【迷いの結界】を、敵が張ってるのかもしれないですぅ』
「迷いの、結界?」
結界のエキスパートにして、先輩聖女である愛美さんが、説明してくれる。
『結界スキルで、空間を分断(切り取り)、同じ空間内をぐるぐると回るように、トラップが仕掛けられてるんだと、思います』
「なるほど……」
感覚としては、理解できた。ようするに、空間を一部切り取って、その中に私たちが閉じ込められてるイメージだ。
『迷いの結界は、円環の形をしています』
「なるほど……わたしたちは円環内をずっと回ってるということだな」
『アメたんの言う通りですぅ』
……結界って、そんな使い方ができるんだ。奥深い……。
防御だけでなく、こんな風に色々できるなんてっ。ちょっと……いや、だいぶ面白いぞ。
「ふにゃあ?」
『【じゃあ結界をあたしがぶった切れば解決ね?】そ、そうもいきません。ましろ様は結界の形を、把握してない。壁までの距離とか、結界の端っこがどこにあるか、どこを切れば外につながるのか、わかってない。だから、攻撃しても無駄に終わるかと』
「ふしゃー!」
『【じゃあどうすればいいのっ!】ですって。それは……やすこにゃんに頑張って【結界破り】をしてもらうしかないですぅ』
けっかい……やぶり?
『さっきやすこにゃんがやった、結界をぶち破り、壊す技術のことですぅ。大丈夫、あなたならできますよぉ。基本的に、高度な結界の使い手であれば、どんな結界も破れるので』
私の結界スキルは、愛美さんのと併せて、レベル10。
つまり、レベル10以下の結界は全て破壊できるということだ。
……レベル100の結界だったら、壊せないけど、大丈夫かな。
でも、さっきの隠しの結界は、私で壊すことができた。
ここの結界の使い手は、明らかに私(私たち)より、結界スキルが下。
なら……いける。
「やってみましゅ」
『OK。じゃあ、まずは結界の形を把握しましょう』
「どうやってでしゅか?」
『一番簡単なのは、自分を中心として結界を広げるやりかたですね。内側から風船を膨らませる感じです。そうすれば、我々を覆ってる結界(殻)にぶち当たり、形がわかります』
なるほど、結界を広げ、当たったところが、私たちを包む結界ってことか。
私は目を閉じて、結界スキルを発動。
『も、もっとも、徐々に形を変えていきながらの結界の構築って、かなり難易度がた、高いんです。いくらやすこにゃんが結界の天才でも、さすがに一発で成功は……』
パリィイイイイイン!
『な!? なな、なんですってええええええええええええええええ!?』
よくわからないけど、愛美さんが驚愕していた。
「大聖女どの、どうしたのだ?」
アメリアさんの問いかけに、愛美さんが答える。
『け、結界……やぶっちゃいました。やすこにゃんが』
「「えええええ!?」」
そんな、まだ私結界を広げることしかしてないのに……。
『信じられないことですが、わ、わたしでも難しい徐々に形を変えながら、広げる結界術を、やすこにゃんは完璧にこなしてました。そして、やすこにゃんの結界のほうが強度が上だったので、そのまま内側から結界を破ったのです……』
……あれ?
「結界破りって、たしかさっき、高度な結界師が結界にふれ、支配権を奪うことで発動する、って言ってなかったでしゅか……?」
『ええ、通常はそのやり方なんです。内側から張った結界で、外側の結界にふれて、外側の結界のもとへいき、ふれ、主導権を奪い破る……。そういうやりかたをするつもりだったんです』
でも……と愛美さんが続ける。
『やすこにゃんは、内側から膨らませた風船(※結界)で、外側を包み込む硬い結界を、力尽くで破ってしまったんです』
「それは、難しいことなのか?」
『めちゃくちゃむずいことですよぉ! 結界の変形はすごい集中力がいるんです! 広げれば広げるほど壊れやすくなるし! 壊れないように結界を広げ、内側から相手の結界を破壊するなんて力業、わたしにはできません!』
なんだか、難しいことを、私は無意識に行っていたようだ。
「にゃあん!」
『【そこの下僕よりヤスコのほうが上ってことね!】って、ええ、まあ、そういうことですぅ……がくし。これが本当の天才かぁ……』
と言っても、私の結界スキルレベルが高いのって、愛美さんからレベルを引き継いでるからだし。
「愛美しゃんがいなかったら、こんなしゅごいことできませんでした。ありがとう、愛美しゃん」
『ぬへへ~♡ そんなそんなぁ~♡ たとえ結界スキルのレベルが高くてもぉ、使い手に才能が無かったらこんな芸当できなかったですよぉ。やすこにゃんのほうがすごいですぅ~♡ まあ、スキルレベルを上げたわたしもすごいですけどねえ~♡』
スキルレベルと、使い手の才能って、別物なんだ……。
と、ふと思った。
『スキルレベルは、ポケ●ンのレベル、使い手の才能はトレーナーのレートみたいな感じですぅ』
なるほど……。いくら使うポケモ●が強くても、命令を出すトレーナーが弱ければ、宝の持ち腐れになってしまう、と。
「なーご、みゃあん」
『【アイミの場合力あっても頭がパーだから、宝の持ち腐れだったってことね】って、ま、まあそうですがっ。ひどいですっ。わ、わたしの頭はパーじゃあないですよぉ!』
「ふにゃ!」
『あっ、あっ、【口答えするな!】って、べ、別に口答えしてるわけじゃ……あっ、やめて、猫パンチやめて!』
……愛美さん、すごい人だとは思うけど、本人のキャラのせいで、すごいって感じがまるでしない……。
沈黙の大聖女って名前が残るくらい、偉業を成し遂げてきた人なのに……。
「とにかく、迷いの結界とやらから脱出できたんだな。なら、先へ進もう」
「そうでしゅね」
その後も、私たちは迷宮内を進んでいった。
雑魚ゴブリンたちは、アメリアさんとましろがワンパンしてくれた。
道中には同じような迷いの結界が張ってあったけど、愛美さんが全部それを看破、私が破壊、というコンボで進んでいき……。
ついに、私たちは最奥部へと、やってきた。
「ここが、このゴブリンの巣の最奥部……」
「ここに、ゴブリン王がいるってことでしゅね」
道中、一度もゴブリン王には出くわさなかったし。
「ふにゃあ」
『【さっさと終わらせるわよ】って、そ、そう簡単にいけばいいんですが……』
「うにゃ?」
『【何か気がかりでも?】ええ……ちょっと……気になることがあって……』
……考えていても、仕方ない。私たちは最奥部へと入る……。
入り口に隠しの結界が張られていたけど、私が結界破りを発動。
もうすっかり、私は結界破りをマスターしていた。
中に入ると、そこは広めのホールになっていた。
「ごぎゃご!」「ぎゃぎゃぎゃ!」「ぎぃいいあ!」
目の前には、この広大なホールを埋め尽くすほどの、大量のゴブリン。
そのさらに奧には玉座があって、そこに大きめのゴブリンが……たたずんでいた。
そう、玉座には、別の人物が座っていたのである。
『にくい……ころす……ゲータ・ニィガ……滅ぼす……』
玉座には、一人の女性が座っていたのだ。
長い黒髪に、血走った目。そして、透明な姿。
……髪の色と、そしてその透けた肌。私は……愛美さんと、同じ気配を感じた。
『やっぱり、敵は、我々と同じ存在』
「はい……召喚聖女、その、幽霊でしゅね」
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