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珍客続き

 アレックスと通り一遍の挨拶をした後、ローザは思ったことを口にする。


 世の中には言わなければ、わからない人間とはいるものだ。

「殿下、お越しくださるのは嬉しいのですが、馬車がそこにありますと、ほかのお客様が店に出入りできません」

 ガラス越しに店の外を見ると、物見高い人たちが王家の大きな馬車の周りに集まっている。

 それをアレックスの護衛たちが追い払う。


 立派な営業妨害だ。


 しかし、アレックスに悪びれたふうはなく。

「ああ、店の宣伝になるかと思ってね」

「宣伝ですか?」

(六頭立ての馬車を店先に置くことが?)


「そう、王家御用達だと思われて、店に箔がつくではないか?」

 そう言って綺麗な王子様スマイルを見せる。


「はあ、そういうものでしょうか」

 ローザは今一つ納得がいかない。


「今日王都で評判のバスボムを母に送ろうかと思ってね」

 母ということは王妃だ。と、見せかけてエレンのために買っていくのかもしれない。


 いずれにしてもローザに関係のない話だ。客は客である。

「なるほど、そいうことでしたら、殿下こちらの商品がお勧めでございます」

 ローザは迷わず店で一番高価な金箔入りバスボムを売りつけた。


「ありがとう、ローザ。これならば母も喜びそうだ」

 その後もアレックスはまだ何か話したそうな様子だったが、ローザは馬車の移動を主張した。


「こちら、目抜き通りから外れておりますので、大きな馬車が止まっておりますと、往来が途絶えてしまいます」

 つまり他の店の迷惑になるのだ。


 さすがのアレックスも長居はできないことを察したのか帰っていった。


「お嬢様、大丈夫ですか?」 

 アレックスがで店を出て行くと同時に、店の奥からヘレナと売り子がひょっこりと顔を出す。

「ええ、早々におひとりいただいたわ」

「さすがお嬢様です」




 その後はいつも通り、客足も戻って来た。さすがに王家の馬車には周りの住民たちも驚いたようだ。


 売り子やヘレナからそんな話を伝え聞く。


「それで王家の馬車がきたお陰で、うちの評判は少しは上がったのかしら」

「一部では、王族も買いに来るバスボムを扱っているすごい店だと言われているようです」

 ヘレナが無表情で告げる。


「で、他ではなんと言われているの?」

「往来の邪魔だからもう来ないでほしいと言われております」

「ですわよね」

 当然である。ローザは少々うんざりした。




 数日後、ローザが帳簿をつけていると、再び売り子が慌ててバッグヤードに飛び込んでくる。

「お嬢様、大変です!」

 今日の彼女は心なし、目を輝かせ頬を上気させている。


「何? また六頭立ての馬車でも来た?」

 ローザがい訝しげに聞く。

「いえ、今度はグリフィス公爵閣下がいらっしゃいました」

「それで、店の前に大きな馬車とか止めていない?」

 ローザが気になるのは、そこだ。選民意識が強い者は扱いに困る。

 とはいえ、少し前のローザもそうではあったが。

「なかったと思います」

 売り子が興奮したように何度もうなずく。


 仕方なく、ローザは店に出ることにした。

 確かに店の前に馬車は止まっていない。ローザはそのことにほっとする。

「ようこそお越しくださいました」

「いや、今日は客としてではなく、君に聞きたいことがあって来たんだが」

(私には別に言いたいことはないんだが? というか客ではないなら、お引き取り願おう)

 だが、店に入ってきた以上、ただで返すわけにはいかないとローザは思いなおす。


「あらあら、せっかく店にきたのですから、みていってくださいな。ちょうど、男性用に開発した商品がございますのよ」

 ローザは有無を言わせぬ勢いで、最近試作品ができたばかりの無香料のバスボムを勧める。


「閣下にはぜひともお買い求めいただき、感想を伺いたいですわ!」

「わかった。周りの者にも配って宣伝をしておこう」

 苦笑しながらもバスボムを大量に購入してくれた。さすが公爵位を持っているだけあって太っ腹である。


「ああ、それとこちら金箔入りでして、ご婦人に贈ると喜ばれますわよ」

 ローザはさりげなく店で一番高い商品をすすめる。


「あいにくそういう女性はいないなのでね」

 一番高い金箔入りを売りつけられなくて残念だったが、無香料の商品を大量購入してくれたので、今回はそれでよしとする。


「それでお話というのは?」


「できれば、人目のないところで」

「承知いたしました。それでしたら、バックヤードへどうぞ。何のおもてなしもできませんが」


 ローザはしぶしぶバックヤードに彼を案内したのだった。


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