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戦力の向上は間違いなくある筈だ。
ある筈なんだが。
別の問題が発生しつつあった。
通路で戦うには手狭になってきたのだ。
通路の中央あたりでウッドゴーレムのジェリコを配置。
その両翼にオレ、そしてヴォルフとみーちゃんが位置どって前衛を形成していた。
ジーンとトグロは空中から支援と後詰めをする。
それが今までの基本だった。
そこにうーちゃんと三毛が追加である。
多いって。
ジーンとトグロは空中だったり場所を選ばず滑り込んでいったりで気にしなくて良かった。
だが狼と虎だと戦闘を展開するにも場所をある程度占拠する事になる。
味方の存在が戦うにあたって邪魔になるのだ。
いや、オレが後ろに下がって後方支援していれば済む話なんですが。
そんなつもりはない。
場所がないなら作るまでだ。
キノコ6匹が出現した際、その後方を遮断する形で囲んで戦うようにした。
なんとか辻褄は合うようだ。
無理やりだったけどね。
それに、だ。
アデルとイリーナ、それに各々の召喚モンスターで6人パーティを組めるようになっている。
オレ、いつまで面倒見たらいいのかね?
冒険者ギルドに一度確認しておいた方がいいかもしれない。
広間に出た。
最初の広間だな。正面の出入り口の上には青い人魂が見えた。
そしてまたキノコだ。
ラッシュファンガスがいないとはいえ6匹とか多いって。
ただこの広間であれば頭数10で戦うには互いが邪魔にならない。
多少ダメージを喰らうが問題なく排除できていた。
さすがに狼と虎の追加があっただけに攻撃力の向上は明らかだ。
殆どオレの出番がなかったし。
キノコの攻撃を捌いていただけだった。
そして出口だ。
一旦『ユニオン』を解除してアデルとイリーナだけで通れるのかも試してみた。
出る方は問題ないようだ。
続いてオレもこの迷宮を出る。
再びアデルとイリーナだけでは迷宮に入れない事を確かめたらレギアスの村へと向かった。
ジェリコは戦闘では実に役立ってくれたのだが、森の中を踏破するにはあまり向いていなかった。
いや、壮絶に向いていない。
行軍があまりに遅くなるので、帰還させた。
代わりにフクロウの黒曜を召喚しておく。
森の中、夜の行軍を続けていった。
帰り際に何度かイビルアントの襲撃もあったがさっさと全滅させていく。
わざと仲間を呼び寄せて稼ぐ時間も惜しかった。
だが時折、黒曜が何かを気にする素振りを見せる
その対象は樹上だった。
前もそんな反応を示した事があったよね?
黒曜とジーンに樹上を見に行って貰う。
すると樹上には魔物がいたのだった。
どうやら暴れギンケイ(メス)らしいのだが。
フラッシュ・ライトはアデルの頭上に残してオレ自身はノクトビジョンの呪文で暗視を付与する。
木は針葉樹のように真っ直ぐな木ではなかったので登るのはさほど苦にならなかった。
出来るだけ音を立てないようにして登って見る。
何があったかと言えば、どうやら巣のようだ。
巣に鎮座しているのは間違いなく暴れギンケイ(メス)である。
こっちに気がついていないようでパッシブだ。
夜の生態はこんな感じなのか。
いや、樹上に巣を作るのは魔物だからそうなのかも知れないが。
実際にいるギンケイの生態は知らないからどっちなのかは分からない。
だがこいつだって討伐対象なのだ。
ロッドを取り出して慎重に狙う。
一気に魔物に突き入れた。
樹上から魔物が落ちていく。
落ちていった魔物に黒曜とジーンが襲い掛かっていくのを樹上から確認する。
奇襲を受けて魔物はあっさりと屠られてしまった。
まあそんなもんだろう。
で、巣の中なんだが予想通りに卵があった。
それも2つである。
ただ枝が細くて先に進めないし手が届かない。
一旦退却である。
「イリーナ、上に暴れギンケイの巣がある。トグロに取りに行かせたいが」
「卵ですか?」
「うん。2つあった」
「いける、と思います」
「頼む」
そしてトグロが半ば飲み込むような形で持ってきた卵はアイテム扱いのようだった。
大きさは普通の鶏卵に比べてやや大きい。
【素材アイテム】銀鶏の卵 原料 品質C レア度2 重量0+
暴れギンケイの卵。普通の鶏卵と同様に食用に出来る。
但し生食はお勧め出来ない。
やっぱり食べるのね。
いや、このゲーム世界は食材が多いような気がする。
もう一つの卵も回収すると先を急いだ。
レギアスの村までもう一息であった。
さすがに屋台も露店も半分ほどが店仕舞となっていた。
ミオの所の屋台もフィーナさんの所の露店も同様であった。
初入手のアイテムを見せて意見を聞きたかったが明日にしよう。
「二人とも明日は大丈夫かな?」
「いけます」
「大丈夫!」
「では明日はミオの所で朝食としよう。その後であの森の迷宮で謎解きだな」
「「はい」」
「私はこれから少し作業もあるから掲示板への書き込みは任せるよ。但し重大なネタバレはなしで」
「分かりました!じゃあイリーナちゃん任せた!」
「んもう!書き込みは私がやってもいいけど一緒にやりましょうよ」
ふむ。
いつも通りのボケとツッコミである。
情報提供は任せておくとして、だ。
オレの頭の中は明日の事で埋め尽くされ始めていた。
謎解きも大体は予想が付いている。
経路も頭にあるから検証するだけだ。
不安があるとしたら時間だ。
魔物を排除しながらだとどうしても長くあの迷宮にいる事になる。
途中で魔物が出ない広間があるから休憩が取れるのがせめてもの救いだが。
アデルとイリーナが宿に入るのを見届けるとオレも師匠の家に向かう。
途中でアリにも遭遇するが黒曜とジーンの奇襲にヴォルフの追撃で殆ど始末をつけていた。
オレの出番がない。
いや、アリに接敵する速度が一番遅いのがいけないんだけどさ。
サモナーとしては喜ばしいのだろうが、何も出番がないのは寂しい。
とても寂しいものだ。
師匠の家に辿り着くと真っ先に地下の部屋に向かった。
目的はポーション瓶だ。
今日の朝、ポーションは23本あったと思うのだが、残っているのは2本だけだ。
森の迷宮は長期戦にならざるを得ない。
もう少しないと厳しいだろう。
空瓶は全て回収してある。
確か地下室には空瓶がいくつか残っていた筈なのだ。
地下の作業場は何故か久しぶりな印象があった。
非常によく清掃されていてる。メタルスキンの仕事だろう。
空瓶はあった。
10本単位で8列もあったのだ。
さすがに全部使うつもりはない。
10本。
いや、15本追加としよう。
それからポーション作成を進めた。
合計34本。
MPにそう余裕がある訳ではないので手作業だ。
できるだけ品質Cで揃えたい。
リキッド・ウォーターで水作成をしておき、傷塞草5本でポーション10本分の作成をやってみる。
久しぶりだったせいか、品質Cの中に1本、品質C-が混じっていた。
中々難しいな。
次も傷塞草5本でポーション10本分の作成を挑んでみた。
今度は全て品質Cで揃えることができた。
《これまでの行動経験で【精密操作】がレベルアップしました!》
お、いい感じで補助スキルもレベルアップしてくれたようだ。
次も傷塞草5本でポーション10本分の作成を挑む。
今度は品質Cの中に2本、品質C+が混じっていた。
思惑通りにはいかないものである。
空瓶を増やして更に傷塞草5本でポーション10本分の作成を挑む。
品質Cの中に1本、品質C+が混じってしまう。
むう。
作りすぎた。予定数の34本から6本オーバーである40本が目の前に並んでいた。
そのうち4本は品質Cから外れている。
持ち運ぶ数にしてはやや多いが、背負い袋に入るギリギリの数だ。
アデルとイリーナにいくつか持たせておこう。
傷塞草と苦悶草のいれてある麻袋に採集した分を入れておく。
ついでに荷物の中身の整理もしておいた。
原木多すぎ。
《アイテム・ボックス》でなければ間違いなく運搬できない量だ。
明日の朝はこいつの始末をどうするか、フィーナさんと相談したい所だ。
念のため原木とキノコのスクリーンショットを添付してメッセージを出しておく。
本当にこれ、どうしろと。
栽培するにしても結構管理が大変な気がするんだが。
一通り整理をつけると上の部屋に戻って召喚モンスターを帰還させた。
ベッドに潜り込むとログアウトする。
明日もやる事は多い。
お楽しみはこれからだ。
ログインしたら朝日が見えかけていたでござる。
昨日はちょっと遅くなった事もあったんだが、これにはちょっと焦った。
早々に装備を身につけてヴォルフだけを召喚しておく。
今日は森の迷宮に行く予定だ。
ジーンとジェリコを召喚するのは迷宮に行ってからの方がいいだろう。
《フレンド登録者からメッセージがあります》
フィーナさんからだった。
送信されたのはオレがログアウトしていた時間か。
『朝食の時間が過ぎたら出発予定です。私がいない場合はリックと優香がいます』
そういえば今日フィーナさん達はレムトに移動するって話だった。
早めに話はしておきたい所だ。
朝の森を抜けて街道に出る。
既にいくつかのパーティの往来があるようだ、
レギアスの村からレムトの町へと向かう人々の中に知った顔はなかった。
村に着くと早速いつもの場所に向かってみる。
屋台はやっていた。
だが1軒だけだ。
規模は半分となっている。
優香が何やら調理しているようである。
裏手ではミオが何やら仕込みをしている。
いつもの様子と変わらないようで違っている部分がある。
裏手に荷馬車があるのだ。
「おはようございます、キースさん」
「おっす!」
「お二人ともおはようございます」
すると荷馬車の陰からフィーナさんとリックが顔を出した。
「おはようございます」
「あら、間に合ったわね」
「そこはなんとか」
リックと目礼を交わすと屋台裏のテーブルに座るように促された。
早速相談だ。
「概ねメッセで送ってある通りではあるんですが」
「結構な量があるって聞いたけど全部あるの?」
「いえ、アデルとイリーナも持ってますから全部ではないです」
「サンプルとして一通り出せるかしら」
「勿論大丈夫です」
オレが《アイテム・ボックス》から取り出したのはキノコ類に原木を一つずつである。
フィーナさんとリックが交互に【鑑定】をしている。
「リック、気になるのは運営の意図よね?」
「プレイヤーへのメッセージということなら分かりやすいものですね」
「今までにキノコ類の流通は?」
「あることはあります。でも基本は日持ちしませんし乾物は高値です。薬にも流用されてますね」
「食用としては?」
「基本は乾物じゃないと運べませんから。生での扱いは少ないですね」
「それにしてはレア度が低いのね」
「流通量は少ないですけど珍しくはないですからね」
やはりフィーナさんもリックもそう思っているのか。
キノコの原木栽培。
この世界で大量に流通してないとしたら商売になる。
「うちのプレイヤーズギルドのファーマーには通達は出しました。いくつか返信はあったんですが」
「もう?早いわね」
「栽培となると田畑の領分じゃないそうです。森、それも人の手の入った場所が必要ですね」
「ランバージャックがいないとダメってことよね。樵って少ないんでしょ?」
「唯一の伝手ならあります。うちのギルドの鍛冶師でツツミです、レムトでランバージャックから受注してます」
「連絡は?」
「ツツミからの返信待ちですね」
「リック。この一件はお願いしていい?私は予定通りレムトに戻るわ」
「問題ないです」
商人二人が色々と打ち合わせを進めている間にアデルとイリーナも来た。
「「おはようございます!」」
「おっす!朝食はもうちょっとかかるよ!」
「おはよう、アデルちゃん、イリーナちゃん」
この二人、ミオと優香とは何気に料理を通して仲良くなっちゃってるようだ。
さては餌付けされたか。
「フィーナさん、まずは持ち込んでいるものを全部出していいですか?」
「いいわよ」
「ちょっと量が多いかもしれません」
三人分の荷物からキノコの山と原木の数々を出していった。
「多かったわね」
「ちょっと予想外でした」
「【鑑定】がレベルアップしちゃったわ」
「すみません、朝っぱらから多くなってしまって」
「いいのよ。私達はマーチャントなんだし」
その一方でアデルとイリーナが優香とキノコ片手に何か話をしている。
「鍋!」
「鍋よね」
「出汁は?」
「キノコで十分」
「いや、縞野兎の肉がまだ残ってるし使わない手はない」
ミオも調理しながら会話に割って入る。
鉄板で勢いよく肉が焼けている音がするんだが大丈夫か?
それに鍋って。
陶器製の鍋に近い代物はそういえばレムトで売ってあったっけ。
いや、そうじゃなくてだな。
食う方向に釣られ過ぎだよ君たち。
リックに一通り計算を済ませて貰った。
ギンケイの卵やら細々としたものも買い取って貰っている。
100ディネ銀貨で80枚分といった所だ。
持ち込んだ量に比べたら物足りない気もするが、全部素材としてはレア度は低い。
そんなものだろう。
問題はキノコか。
全部食い尽くしたらマズいんじゃ?
「リック、とりあえず原木の一件はレイナが来たらもう一度話しましょう」
「ですね。原木の利用は木工関係でもありそうですし」
「今日はキース達ってどうするの?」
「森の迷宮の謎解きですね。あとはその先を少し進めたらとは思ってます」
「色々と先行してるみたいだけど戦闘は大丈夫なの?」
「まあそこはなんとか」
「ならいいわ。色々と掲示板に書き込んで貰えてるみたいだし助かるわ」
「まあ私がやってる訳じゃないですけど、やっておきます」
ミオがシイタケを鉄板で焼き始めている。
いい匂いが立ち昇っていた。
見るとシイタケの傘の内側にプツプツと水が浮いてきている。
そこに塩胡椒。
むう。
味見はまだか。
「おし。上出来?」
ミオが自分で最初に食べてしまっていた。
次々とシイタケを鉄板に並べて焼き始めていた。
「ミオ!全部使っちゃダメ!話は聞いてたでしょ!」
「ちゃんと余らせてるし平気だって。それにキース達がまた持ってくる事になるんじゃないかなー」
「貴方はレムトに一緒に行くんでしょ?ここの料理番は優香に任せておきなさい」
「むー」
ほう。
ミオもレムトに行く、ということは何かしら称号を得たのだろう。
いい事じゃないか。
「キースさんもこれを。朝食です」
優香がオレやフィーナさん、リックにもハンバーガーを渡していく。
いや、パテは生肉のスライスだからハンバーグではない。
食べてみたら馬肉だった。
【食料アイテム】香味馬肉サンド 満腹度+30% 品質C レア度2 重量0+
スライスした馬肉を魚醤と酢とハーブ類で漬け、パンで挟んだ料理。
非常に腹持ちがいい。
むう。
悔しいが旨いな。
でも馬肉は馬刺しこそ最強である。
そこだけは譲らん。
鉄板で作っている焼きそばもどきは販売用みたいだ。
鉄板の隅に寄せて作り溜めしていた。
しばし会話を中断して食事を進める。
オレよりも遅く食い始めたアデルとイリーナなんだが、オレよりも早く食べ終えていた。
そしてその目はシイタケに向いている。
分かり易い。
ミオが焼きシイタケを振舞ってくれたようだが順調に餌付けされてるように見える。
「じゃあ出発するか」
「「はい」」
アデルとイリーナを急かすと出発することにした。
ついでに露店で目に付いた携帯食を買い込んでおく。
【食料アイテム】携帯食(改) 満腹度+35% 品質C+ レア度2 重量1
パサパサしているが軽い割りに満腹度をそこそこ満たす食料。
干肉に猪肉が使われていて腹持ちがやや良くなっている。
持ち運ぶのに便利。水も同時に摂らないと効果は半減するので注意が必要である。
※連続使用可能。但し食べ過ぎには注意しましょう!
リック曰く、ミオと優香が自作した代物なのだとか。
生産職も色々と工夫して様々な商品を生み出しているようだ。
冒険する側にしても有難い事だ。
「じゃあ皆さん、行ってきます」
「「行ってきます!」」
色々と身軽になってレギアスの村を出る。
アデルがみーちゃん、イリーナが三毛を召喚して森の中へと向かった。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv6
職業 サモナー(召喚術師)Lv5
ボーナスポイント残22
セットスキル
杖Lv4 打撃Lv3 蹴りLv3 関節技Lv3 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv2 召喚魔法Lv6
光魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法Lv3 水魔法Lv3
火魔法Lv2 闇魔法Lv1
錬金術Lv3 薬師Lv3 ガラス工Lv3
連携Lv5 鑑定Lv5 識別Lv5 耐寒Lv2 掴みLv4
馬術Lv4 精密操作Lv4(↑1)跳躍Lv1 耐暑Lv3
装備 カヤのロッド 野兎の胸当て+シリーズ 雪猿の腕カバー
野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子(仮)、家畜の守護者、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv4
残月 ホースLv3 お休み
ヘリックス ホークLv3 お休み
黒曜 フクロウLv3 お休み
ジーン バットLv2 お休み
ジェリコ ウッドゴーレムLv1 お休み
同行者
アデル&みーちゃん
イリーナ&三毛