53
レギアスの村に到着した。
村の中はプレイヤーの数が少なめといった所か。
イベントを進める者、レベルアップを狙う者が活発化しているのだろう。
ただ、ちょっと気になることが1つある。
村の入り口から見慣れない色のマーカーが見えていた。
それはグレーの逆三角形である。
思わず視線を凝らして【識別】しようとしたが、視線が途切れてしまい【識別】できなかった。
一体あれは何だったんだろう。
もしかして。
【看破】の説明を見たらビンゴだ。
さっきの色のマーカーは【変装】【偽装】といったスキルを【看破】によって見破った場合のものでした。
なんと。
ではあれがプレイヤー・キラーだったのか?
もう確認する術はないのだが。
いかんな。
今後は気にしておくとしよう。
「あら、こんにちは」
「こんにちは。いやもうこんばんは、かな?」
「そうですね。今日もアイテム持込ですか?」
「勿論」
ミオの屋台とフィーナさんの露店はすぐに見つかった。
露店でもリックが接客中である。
こっちは目礼だけで済ませておく。
優香は料理中にも関わらず余裕の構えだ。
理由はすぐに分かった。
今日のメニューが煮込み料理にスープだからだ。
【鑑定】してみるとこんな感じだった。
【食料アイテム】猪肉の煮込み東坡肉風 満腹度+25% 品質C+ レア度1 重量0+
縞猪の肉を一旦軽く茹でた後で蒸し煮したもの。
香草の風味で肉の旨みを引き立てている。
一緒にパンがついてくるのだが、できればご飯が欲しいです。
野菜スープはあっさりとしたものだ。
併せて満腹度は35%になる。
うん。
旨いよね。
「おらー!来たぞー!」
「おっす!」
「ただいま」
「あらキースじゃないの。いらっしゃい」
「こんばんは」
食事を終えようかといったタイミングでフィーナさん達が帰ってきたようだ。
サキさん、レイナ、ミオ、篠原、それに初めて見るプレイヤーの6人である。
やや疲れたような様相なのは狩りに行っていた証か。
フィーナさんもサキさんも片手に盾を持ち、革鎧で身を固めている姿でデザインもお揃いだ。
腰に下げているのがフィーナさんのは恐らく斧、サキさんは剣だろう。
なかなか勇ましいな。
「ども。また来てます」
「いらっしゃい。あ、ヘルガ。この人はサモナーのキースさんよ。うちの馴染み客ね」
「はじめまして」
「キースさん、この娘はアルケミストのヘルガ。うちのギルドに所属してるわ」
「どうもはじめまして」
アルケミスト、か。
錬金術師の弓使いのようだ。
いや、背負っている弓と矢筒に目がいくのだが、腰にはメイスも見える。
ローブの下には革鎧もしっかり装備している所を見ると、状況によって前衛もやるのだろう。
「アデルちゃんから聞いたわよ?NPCに弟子がとられちゃったみたいじゃないの」
「いや、サキさん。彼女達は弟子じゃないですし」
「似た様なものじゃないの」
「いやいやいや」
「そうそう、依頼されてた装備はちゃんと渡してあるわよ?」
「そうでしたか、色々とお世話様です」
「いいのよ、依頼なんだし」
「依頼といえば今日も持ち込みがありまして」
「見せて!」
ミオの目の前で机の上に売りたいアイテムを並べていく。
ここ数日、溜め込んでいた物ばかりだ。
馬肉と血潮牛蒡、それに結構な数になった銀鶏の卵は別口にしておいた。
どうせミオが攫って行くだろう。
そして大量の邪蟻の針と甲、それに銀鶏の翼、黒曜石は少々、縞狸の皮も2枚ある。
本命は銀鶏の極彩翼と野生馬の皮だ。
野生馬の皮に至っては6枚ある。
装備の更新をするには十分な量だと思う。
フィーナさん、ミオ、そしてレイナが机の周囲に集まっていた。
ミオはいつの間にか立ち食いしている。
メニューにはない串焼きのようだ。
優香が苦笑しているのが視界の端に見えていた。
馬肉は逃げないから座って食べなさいって。
「これはまた。ほんの数日でこれ?」
「まびぐばぜんぶもじい!」
「ミオ。先に食べ終えなさい」
早速ツッコミが入った。
まあ当然だよね。
「野生馬の皮は何か作るの?」
「私の装備を更新できれば。出来たら闘技大会に間に合ったら最高なんですけど」
「闘技大会って。貴方出るの?」
「ええ。何故かそういう事に。誰かさんの陰謀でして」
「残念だけど先客がいるの。予選日までの予定は既に埋まってるわ」
あちゃ。
それは有り得る話だよな。
「別に間に合わなくてもいいですよ」
「それなら受けていいわね。でもこの量だと何を作るにしても間違いなく余るわよ?」
「そうですか。いや、そうですよね」
「サキ。先に食事を済ませてからにしましょ?ごめんなさいねキース」
「いえいえ、お構いなく」
そうか。
今のオレの装備で更新するといっても野兎の胸当てくらいのものだ。
どうしようかね。
実に悩ましい。
「すみません。裏手で召喚していいですか?」
「いいわよ」
こういう時はやれる事は先に片付けてからの方がいい。
フィーナさんに断りを入れて残月達を屋台裏へと連れて行く。
残月の馬装具を外して帰還させる。
同時に鷹のヘリックスも帰還させた。
もう夜のシフトに移行しておこう。
あ。
そういえば新しい召喚モンスターを今ここで決めてもいいよな?
召喚モンスターのリストを仮想ウィンドウに呼び出し、ジェリコの下の行を選択する。
そして召喚できるモンスターのリストが別ウィンドウで表示された。
そして何かがおかしいのに気がついた。
候補が増えている。
ウルフ
ホース
ホーク
フクロウ
ウッドパペット
バット
ウッドゴーレム
ビーストエイプ
鬼
赤狐
タイガー
バイパー
スケルトン
スライム
スケルトン?スライム?
いや、確かに森の迷宮の先で【識別】したし、実際に戦った相手ではあるが。
どっちも強いというより面倒な印象の方が濃い。
それが味方にできるのか。
微妙だ。
心強い味方?
なんだろう、この脱力感。
むしろ頼りないだろ、スケルトンとかスライムとか。
一応、説明くらいは見ておこうか。
【スケルトン】召喚モンスター 戦闘位置:地上
人間の骨格だけのアンデッド。攻撃手段は武装による。
体格は人間と同等。前衛も後衛もこなす事が出来る。
人間が使う武器はどれも使いこなす事が可能。
夜目は非常に利く。
核を2箇所とも破壊されない限り延々と自己回復し続ける能力を持つ。
日光の下では弱体化するので注意を要する。
【スライム】召喚モンスター 戦闘位置:地上、壁面
元々は錬金術により生み出された合成モンスターと言われている。
主な攻撃手段は特殊能力の溶解。
移動は自分の体の表面張力と形状変化、そして重心変位による。
移動速度は遅いが壁や天井を這う事が可能。
大きさはやや変動する。重量は人間並み。
物理攻撃は基本的に無効化する。火に対しては極端に弱い。
うん。
なんか面白そうではあるのだが今回はパスかな。
前々から候補に考えていたモンスターにしておこう。
「サモン・モンスター!」
地面に描かれた魔方陣の中に人に似た姿のモンスターが出現する。
体格はオレよりやや小さい程度だ。
だが胸板は厚いし筋肉の盛り上がりも凄かった。
そして目が爛々と輝いている。怖いって。
閉じた口から僅かに犬歯がはみ出ているのも怖い。
オレが選んだのは鬼だ。
名前も付けておこう。
召喚モンスター
護鬼 鬼Lv1
器用値 16
敏捷値 13
知力値 9
筋力値 16
生命力 17
精神力 11
スキル
[ ] [ ] [ ] 受け 回避 隠蔽
武器スキルがない。
その代わりに[ ]がある。
[ ]に目を凝らすとメッセージが現れた。
《武器スキルまたは防御スキルを指定して下さい》
へえ。
プレイヤーがスキルを指定出来るのか。
これはちょっと面白い。
候補をざっと見る。
今、オレの手持ち戦力で不足しているのは何か。
後衛がいないのだ。
この際だ、メイン武器は弓にしよう。
だが弓だけでは心配だ。
矢が尽きた時の事を考えたらサブウェポンが要るだろう。
手斧、そして小盾を選択した。
場合によっては前衛も任せていいだろう。
召喚モンスター
護鬼 鬼Lv1
器用値 16
敏捷値 13
知力値 9
筋力値 16
生命力 17
精神力 11
スキル
弓 手斧 小盾 受け 回避 隠蔽
これでいいか。
そして気がついたのだが装備がない。
パンツ一丁だけだ。
買い与えないといけないのか。
足の裏を見ると靴みたいになっていて、スリッパでないと履けそうにない。
それ以外は人間用の装備がそのまま使えそうである。
「なんか凄い召喚モンスターじゃないの」
「そうですか?」
「ちょっと怖いわよね」
「ないわー」
うん。
女性陣には当然不評だろう。
フィーナさんは凄いと言ったが、その顔付きが何かを物語っている。
サキさんの感想はまあいいとしてミオは酷いぞ!
「ゲヘ」
護鬼は低い声でそう鳴く事で意思を示した。
怒ってはいないようだが、気分がいい訳でもないようだ。
鬼は外観で損をしちゃいそうだよな。
識別マーカーはちゃんと緑だし問題はないとは思うが。
当面は頭から被るタイプのコートでも使わせるとしよう。
オレが雨避けに使っている物を《アイテム・ボックス》から取り出して護鬼に渡す。
頭部は出来るだけ隠すようにさせておくか。
「フィーナさんの所では弓矢は扱っていましたよね?」
「勿論。レイナも篠原も木工職人だし。彼らの作品は当然売れ筋」
「では弓と矢筒に矢ですね。矢は邪蟻の矢、蝙蝠牙の矢、黒曜石の矢を」
「数は?束単位にしてくれたら助かるんだけど。あと射程効果を伸ばしたタイプは割り増しになるわ」
「邪蟻と蝙蝠牙はそれぞれ2束で。黒曜石は1束でお願いします。当面は安い方で様子を見ます」
「そう。まあいずれ消耗する物だしそれでいいかもね」
先に矢の束を受け取った。
1束でアイテム重量1になる数で、邪蟻の矢は1束20本、蝙蝠牙の矢は1束20本、黒曜石の矢は1束12本だった。
当面はこれでいいだろう。
矢筒は汎用のものを選んだ。
そして弓だが、露店売りの品物を全部【鑑定】して一番良い品を選んだ。
唯一の品質B-の品物になる。
値段を聞いたら手持ちのお金で十分賄える金額だった。
どうせなら長く使える方がいいだろう。
【武器アイテム:弓】ニレの弓 品質B- レア度3
AP±0 破壊力±0 重量1 耐久値120 射程50
ニレの木で作られた弓。
サイズは標準的なもので取り扱いは比較的容易である。
[カスタム]
木皮と樹脂で強化し耐久値が向上している。
うむ。
最初の品としては上々ではなかろうか。
そして手斧と小盾だ。
まずは手斧。
フィーナさんのお勧めはギルドメンバーが作ったという鉈だった。
鉈、手斧扱いなのね。
物が良さそうだったのでオススメの鉈にした。
そして小盾。
木材に金属枠で補強したタイプで防御性の割りに軽い奴を選んだ。
無論、いずれも品質は良い事は確認済みである。
【武器アイテム:手斧】鈍鉄の鉈 品質C+ レア度2
AP+4 破壊力3 重量2 耐久値110 投擲可、射程10
切れ味よりも重量で叩き割る事に便利な武器。
道具としても色々と使える。
【防具アイテム:小盾】スギの小盾+ 品質C+ レア度2
Def+7 重量2 耐久値130
スギ板を重ねた小盾。軽くて取り扱いに便利。
[カスタム]
薄く伸ばした鉄板と木皮で表面を補強している。
弓と矢筒を背中に背負わせて、鉈と小盾を持たせてみる。
動いてみるように促して見た。
鉈も小盾も扱うのに問題はなさそうだ。
「鉈の鞘ですが盾の裏側に固定できますか?」
「ちょっと待って。レイナ!」
「ここで出来るよ!食事が終わったらやっとく!」
「じゃあお願いね」
「おっけ!」
食事を終えたサキさんが野生馬の皮を確認している。
「これで何か作る?」
「私の革鎧ですね。それにこの鬼にもです」
「え?装備させるの?」
「武器も防具もそういう仕様みたいです」
「へえ、プレイヤー側である程度デザインできるの?」
「ええ。こいつには後衛メインでやって貰うつもりです。頭の天辺から足元までお願いします」
「分かったわ。ちょっと動かないようにして貰える?サイズを測っちゃうから」
「はい」
護鬼に暫く動かないように念じて伝えておく。
直立不動になった。
いっそ見事である。
それでもサキさんは明らかに怖がっているのだが、なんとかサイズを測っているようだ。
プロだな。
おっと。
黒曜と護鬼だけでなく、もう1匹召喚しておかなければ。
召喚したのは戦力の要のヴォルフだ。
今日の夜の狩りは護鬼が加わるからな。
ヴォルフはある程度任せておけるから楽でいい。
暴れギンケイ(オス)相手でも1対1で負けることはあるまい。
1対1で苦戦必至なの魔物となると、はぐれ馬だけだろう。
フィーナさんが食事を終えたようだ。
相談するにはいい機会かも知れない。
「フィーナさんに相談しておきたい事があったんですが」
「あら、何かしら?」
「魔法関係です。新しい呪文とかもありまして」
「ちょっと待って」
フィーナさんが食事を終えていたミオとレイナ、それにヘルガに声をかける。
「ミオとヘルガは屋台を手伝って。レイナは露店をお願い。それにリックをここに呼んでね」
「おっけ!」
「うっす!」
「了解です」
我が意を得たかのように指示を出すと一気に人員が入れ替わった。
リックが机に来ると並べられたアイテムを興味深そうに見回す。
「リック。計算をお願い」
「はい。食材は別口で全部ミオが買い上げ、野生馬の皮はサキの所で持ち込み加工ですか?」
「その通りよ」
「やっておきます」
相変わらずですねフィーナさん。
姉御肌全開だ。
そしていつの間にか『ユニオン』申請がフィーナさんから来ていた。
当然、受諾する。
どうやらウィスパー機能で内緒話にするつもりらしい。
『これでいいわ。相談って何かしら?』
『まあ色々です。雑談だと思って聞き流してくれてもいいんですが』
『そうかしら?私の勘ではそうじゃないけどね』
それとなく表情を窺うが、いつもの笑みのままだ。
いや本当にこの人には敵いそうもないな。
『呪文で新しいものを取得したんですが』
『呪文?』
『ええ』
『ちょっと待って』
うん?
何やら悩んでいるようなんだが。
『今は止めておかない?貴方も闘技大会に出るんだし』
『どういう事でしょう?』
『大会の発表以降なんだけど。スキル関係で掲示板への情報書き込みが減っているのよ』
『へえ』
『当然だけど呪文もそう。大会では名前がバレるようなアナウンスはしない事になってるけど皆疑心暗鬼なのよね』
『疑心暗鬼、ですか』
『ええ。事前にスキル構成を知っている相手なら対策を立てて戦う事で勝率は上がるから』
うん。
まあそれはそうだ。
確かに未知の相手、手持ちのカードが読めない相手というのは厄介だ。
それだけに事前準備として情報収集するのは極めて重要なファクターになる。
作戦遂行時には既に勝利をしている状態こそが理想だ。
『貴方のスキル構成を暴くような情報は寧ろ聞かないほうがいいわ。書き込みたくなる誘惑に負けるかもしれないし』
『そういうものですか』
『そういうものよ。少なくとも私は私自身をそれほど評価してないわ』
『では大会が終わったら相談って事でいいですか?』
『その方が気が楽だわ』
『分かりました。でもこれだけは伝えておきたいんですが』
『何かしら?』
『PKです。どうもPKをやっていそうなプレイヤーを見破るスキルがあるんですが』
『え?貴方って【看破】を持ってるの?』
『取得済です』
『そうなの。やっぱり本当にあったのね』
フィーナさんは少しの間、考えて会話を続けた。
『掲示板では確定情報じゃなかったけど確定みたいね』
『確定していなかったんですか?』
『まだ噂でしかなかったから。PKで死に戻ると【保護】が取得可能になる可能性があるのは分かってたけど』
『【保護】ですか?』
『そう。PKで殺されてもアイテムやお金を奪われる可能性を低くするらしいわ』
『へえ』
なるほどね。
殺されたとしても対抗策が貰えるのならば、全く無駄にはならない仕組みなのか。
【看破】にしてもPK行為を返り討ちにしたご褒美のようなものかも知れない。
『さっきこの村の中で【看破】が効いたプレイヤーがいました』
『いたの?』
『ええ。顔までは確認できませんでしたが』
『そうだったのね。本当に油断できそうにないわ』
『生産職では何か対策をとっているんですか?』
『今は確実な方法はないのよね。町や村の間で移動するのは2つ以上のパーティでユニオンを組むのが鉄則ね』
『そうなんですか』
『対抗戦力を見せ付けるのが一番の抑止力よ』
『なるほど』
『他に何かあるかしら?』
『いえ、それだけです』
『ごめんなさいね。あまり役立ってないみたいで』
『いや大丈夫です。大会が終わったらまた改めて相談に乗って下さい』
『大会、がんばってね。私達は多分、本選になったら見に行くと思うわ』
『予選突破はできない可能性のほうが高いと思いますけどね』
『そうなの?』
『普通に考えたらそうだと思いますが』
『そうかしら?私の勘は違うって囁いてるわ』
『簡単に本選にまで勝ち進むとは思えませんけど』
『そこは自信がなくても全力を尽くしますって言うべきだわ』
『すみません。そこまで言い切れませんで』
『いいのよ。じゃあウィスパーは切りましょうか』
『はい』
内緒話を終えると目の前にミオがいた。
その顔はやめて。微妙に怖いです。
「む。ニヤけてないなら良し」
何が良しなんだか。
この娘の行動はどこまで行っても読めそうにない。
「キース、採寸終わったわ」
「鉈の鞘も盾の裏側に装着したよ!」
「お二人ともありがとうございました」
「靴だけはどうしようもないわ。無い方が良さそうだけど」
「脛当てはいけますか?」
「全然大丈夫。足りるわ」
「では作成の方ですがお願いします」
「おっけ。キースは革鎧、このモンスターには兜に革鎧に手甲に脛当てまでいけるわ」
「納期はどうです?」
「皮をなめすのは効率的に進むから短くて済むけど、4日は確実に要るわね」
「そうですか」
「出来上がったらいつも通りメッセージで連絡するわね」
「お願いします」
これで一通り用件は済ませた。
氷魔法の相談はできなかったが、大会が終わってからでいいだろう。
それに新たな召喚モンスターの護鬼がどういった戦いぶりを発揮するのかも気になる所だ。
「そうだ、キースにも知らせておかないと」
「なんでしょう?フィーナさん」
「実は原木栽培なんだけど。間伐材をとって手を入れた森を借りて試験栽培を始めるの」
「え?」
「心配しなくてもマジックマッシュルームは栽培しないわよ」
「そっちは別口で栽培が進んでます」
「え?え?」
アルケミストのヘルガが急に会話に割り込んできた。
別口って何?
「元々、マジックマッシュルームは干した状態で港町に船で持ち込まれていたんです」
「こっちでも栽培ができればMP回復アイテムの価格も下がってくれるかもしれないわ」
「へえ」
うん。
そうなってくれたら便利だよな。
先に進むにしてもMPの減りを常に気にしないといけないのが現状だ。
先に進むのはいいんだが、ログアウトできるポータルがどこかに欲しい。
町なり村なりがどこかにありそうなものなんだが。
リックが精算した金額を受け取る。
革鎧作成依頼の前払いで差し引かれているので大した金額ではないが十分だ。
皆に一礼してその場を辞去する。
早速、森の中へ行こうか。
最初の相手は暴れギンケイ(メス)だ。
但しもう夕刻を過ぎていたので3匹の小さな群れが相手になった。
こっちにはまるで気がついていない。
護鬼が弓を引き絞り、矢を放つ。
無論、魔物がこちらに気がつかないよう距離を置いている。
命中。
同時に黒曜が奇襲を仕掛けて追撃した。
この先制攻撃だけで暴れギンケイ(メス)を仕留め切った。
弓を放つのを合図にしてオレとヴォルフも駆け出していた。
それぞれが残り2匹を相手にする。
当然ながら問題なく仕留め切った。
うむ。
最初の戦闘だけでは評価できないな。
もっと狩りを続けてみない事には分からない。
今度は氷魔法の呪文も試して見る。
メルト・アイスは戦闘向けではないのでパスするとして。
フリーズ・タッチとディレイだ。
結論から先に言えば、両方とも中々使えそうである。
フリーズ・タッチの呪文はダメージを与える事もできる。
さすがに他属性のLv3の攻撃呪文と比較したら大きく劣るが、これだって育てたら十分な戦力になるだろう。
使い方は火魔法の呪文であるパイロキネシスと同様だ。
接近していないと使えない。
レベルアップしたら長射程の攻撃呪文があるだろうし、Lv1ならこんなものだろう。
そしてディレイ。
雪豹の隠し爪と同様に敏捷値を下げる効果を与える呪文だった。
射程距離もそこそこにある。
暴れギンケイ(メス)には5匹を相手に試したら4匹が状態異常に陥った。
確実ではないが、支援効果としては十分と言えるだろう。
問題はオレの戦闘スタイルと噛み合わない所にある。
接近戦ならば雪豹の隠し爪を使って呪文詠唱なしで同様の効果が見込めるのだ。
この呪文はあまり出番はないかもしれない。
では次だ。
イビルアントの相手をしよう。
弓矢だとイビルアントは相性があまりいいとは言えない。
破壊力のある黒曜石の矢は有効だし、邪蟻の矢でも貫通できなくはない。
だが如何せんイビルアントは数多く沸いてきたりするので、矢を番える速さと正確さに不安が残る。
そういえばアデルとイリーナもイビルアントは苦手にしていたな。
蟻玉が怖いって事もあったのかも知れないが。
で、護鬼なんだが。
やはり苦手な相手になるみたいだった。
鉈と小盾にしてみる。
鎧はないのでフィジカルエンチャント・アースで防御を底上げしておいた。
その戦いぶりは壮観でした。
まさに獣。
いや、鬼か。
レベル1の時点で筋力値が今のオレを上回っているのだし、武器の鉈はAPも破壊力も高いから当然なんだが。
傍で見ているとどっちが悪役なのか。
心情的にはイビルアントが可哀想です。
実に楽しそうな表情でアリを屠って行くのだ。
頼もしいというか。
先が思いやられるというか。
正直、不安はあります。
アリの群れ相手にはこのスタイルで力押しするのがいいだろう。
暴れギンケイは弓矢でいい。
樹上の卵を強奪しながら護鬼の戦いぶりを観察したが、単体相手でも弓矢で問題なさそうだ。
いけるか。
森の奥に進んでパラレルラクーンとブラッディウッドとも戦わせて見た。
獣相手なら弓矢、防御力の高い相手なら鉈がいいな。
ブラッディウッドとの戦いは中々見事だった。
鉈で枝を払うかのように削っていく。
ブラッディウッドがまるで間伐材だ。
うん。
いけそうだ。
総合的に評価するならば、鬼は前衛でも後衛でも使えるオールラウンダーだ。
魔法が使えないだけである。
MPもそこそこあるので、闇魔法のダークヒールで回復させていけばかなり長期間活躍できるだろう。
壁役に特化したジェリコとは対照的だ。
夜の狩りをそのまま進めていく。
イビルアントと暴れギンケイを交互に相手をしていく。
イビルアントの群れ相手では護鬼が加わったので余裕ができている。
そこで、両手それぞれで隠し爪を握りこんだスタイルで戦って見た。
当然、片手で隠し爪で戦うよりも状態異常を与える確率は高まる訳で。
それはちょっと楽しい。
一方的な虐殺である、
いくらでも仲間を呼び寄せるアリには悪いが、大量に呼んで貰った。
隠し爪で動きを鈍らせて蹴り潰す。
いや、踏み潰すだな。
完全に格闘で仕留めて行った。
《只今の戦闘勝利で【蹴り】がレベルアップしました!》
《【蹴り】武技の膝蹴りを取得しました!》
《【蹴り】武技の前蹴りを取得しました!》
ようやく蹴りもレベルアップしたのか。
そして武技なんだが。
MPを消費してまでわざわざ武技として使うまでもなくなっている。
普通に使ってるからあまり嬉しくないな。
だがちょっとした差もある。
踵を落としてアリを潰した感覚からすると、基本的な所で威力が上がっているように感じられた。
思わずニンマリとしてしまう。
いかんな。
オレにしてみた所で護鬼の事をとやかく言う資格ないよね。
時間は午後10時を過ぎていた。
短時間のうちに結構な数の魔物を狩ってきているが余裕はまだある。
傷塞草も黒曜石もそこそこ拾っていて獲物は時間の割りに多かった。
それでいてポーションはここまで使っていない。
もうこの周辺も狩場としてはやや物足りないか。
でも森の迷宮はいきなり難易度も高いし、夕方からあの場所となると遠いのが気になる。
少なくとも護鬼がレベルアップするのを待った方がいいだろう。
ではオレ自身の稽古でもしようか。
コール・モンスターでブラッディウッドを連続で狩ってみた。
無論、投げメインで相手をするのだ。
多少はダメージも受けるがそこは余裕が出来ている。
問題はない。
召喚モンスターのヴォルフ、黒曜、護鬼は見学である。
それも問題ない。
投げ技もやってみると久しぶりだよな。
勘が戻るのに2匹を要した。
コール・モンスターで次々と呼び寄せて稽古を続ける。
狩りを続ける、でした。
でも投げるだけですから。
魔物も物言わぬブラッディウッドでは稽古と呼んでしまって差し支えないだろう。
午後11時を過ぎた所で師匠の家に戻る事にした。
2階の部屋に戻って荷物を整理し、召喚モンスターを次々と帰還させていく。
護鬼も装備を外して帰還させる。
若干の問題に気がついた。
護鬼の場合、召喚していない時間は装備をオレが保管していなければならない。
《アイテム・ボックス》を圧迫するのだ。
残月の鞍もそうだが、今までは大した負担になっていなかった。
今はまだ残月と護鬼の分だけだ。
なんとかなるとは思うが、先々で召喚モンスターが増えたらどうだろう。
地味に圧迫するかもしれない。
今はいいが、召喚モンスターを増やすにあたっては気にしておいた方がいいだろう。
それにしても闘技大会は3日後になるのか。
なんとなく憂鬱になる。
装備を外して楽な格好になるとベッドに潜り込んで目を閉じる。
そしてログアウトした。
明日も朝早くから出勤だ。
何故か木工の仕事がやりたくて仕方が無かった。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv7
職業 サモナー(召喚術師)Lv6
ボーナスポイント残8
セットスキル
杖Lv6 打撃Lv3 蹴りLv4(↑1)関節技Lv4 投げ技Lv3
回避Lv3 受けLv3 召喚魔法Lv7
光魔法Lv3 風魔法Lv4 土魔法Lv3 水魔法Lv4
火魔法Lv3 闇魔法Lv3 氷魔法Lv1
錬金術Lv4 薬師Lv3 ガラス工Lv3 木工Lv2
連携Lv6 鑑定Lv5 識別Lv6 看破Lv1 耐寒Lv3
掴みLv5 馬術Lv5 精密操作Lv5 跳躍Lv1
耐暑Lv3 登攀Lv3 二刀流Lv2 精神強化Lv1
装備 カヤのバチ×2 雪豹の隠し爪×3 野兎の胸当て+シリーズ
雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+ 雪猿の革兜 背負袋
アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv5
残月 ホースLv3 お休み
ヘリックス ホークLv3 お休み
黒曜 フクロウLv4
ジーン バットLv4 お休み
ジェリコ ウッドゴーレムLv3 お休み
護鬼 鬼Lv1(New!)
器用値 16
敏捷値 13
知力値 9
筋力値 16
生命力 17
精神力 11
スキル
弓 手斧 小盾 受け 回避 隠蔽