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暇だ。
ゴロゴロしながらの掲示板を斜め読みするのも飽きた。
外部リンクから現実世界の情報は見ることはできるのだが。
見てて楽しくなくなる。
目的を持って情報を取るのは問題ないのに。
ただ眺めているのは気が滅入る。
どうしても現実を直視する事になるのが辛いのだ。
ただただボーッと文楽が動いているのを見ていた。
暇だ。
誰かにテレパスで話しかけてでもお喋りしたくなる。
普段ならこんな事は滅多にないんだが。
《フレンド登録者からメッセージがあります》
おお。
暇潰しのネタが来たか?
誰からかな、と思ったらマルグリッドからでした。
そういえば依頼していた首飾りだが、納期は2日だっけか?
今日じゃないの。
『依頼品が出来上がりました。暫くはレギアスの村を拠点にしてます。朝なら必ず居ます。受渡はレギアスの屋台を希望』
作成した首飾りの画像と【鑑定】結果が添付されていた。
【装飾アイテム:首飾り】白銀の首飾り 品質C+ レア度3
M・AP+5 重量1 耐久値120
銀の玉鎖で作られた首飾り。銀製の鎖としてはかなり丈夫。
魔法発動用に強化されている。
【素材アイテム】ブルースピネル+ 品質C レア度3 重量0+
八面体の結晶を為す半透明鉱物。
正八面体に整形し研磨され、銀の台座に嵌め込まれている。
[カスタム]
台座に呪符紋様『格子』が刻まれている。
ネックレス、いや、首飾りか。
まあ呼び方はどっちでもいいんだが。
画像もあったので玉鎖もどのようなものか見る事が出来た。
小さな球が連なっているような鎖だ。
それにしても耐久値が高くないか?
台座に嵌め込まれたブルースピネルの画像もある。
原石とは比べ物にならないほど綺麗に輝いていた。
まあオレが装備したら皮鎧の下になる訳で無駄に綺麗とも言えるが。
【装飾アイテム:首飾り】白銀の首飾り+ 品質C+ レア度3
M・AP+8 重量1 耐久値120
銀の玉鎖で作られた首飾り。銀製の鎖としてはかなり丈夫。
魔法発動用に強化されている。
[カスタム]
ブルースピネルを嵌め込んだ台座を連結して強化してある。
※状態異常抵抗の判定が微上昇
2つアイテムを組み合わせたらあら不思議。
性能も良いのだが、それ以上に注目なのは状態異常抵抗にボーナスがある。
もっと早く入手しておきたかった。
往々にして準備が間に合わなくなる事ってよくあるよね。
おっと。
受け取りはどうするか。
さすがにこれだけの性能であるのならば、現在の探索を中断するだけの意味が十分にある。
明日の朝だな。
そうなると今日のうちにレギアス方面に戻っておいた方がいい。
だが最後のログインは風霊の村であり、リターン・ホームではここに跳ぶ事になる。
ステータス異常を回復しながらレギアス方面に戻るとなると、今日の午後はそれだけで埋まりそうだ。
まあそれでいいさ。
余裕は十分にある。
おっと。
返信しておこうか。
やはりメッセージは面倒だ。
テレパスを使おう。
呪文を実行するとウィスパー対象にマルグリッドを指定する。
『マルグリッドさん、今、時間はありますか?』
『え?ええ?』
『済みません。キースなんですが』
『え?』
『これ、時空魔法の呪文でテレパスを使ってます。いきなり申し訳ないです』
『え?ああ、これがそうなんだ?驚いちゃった』
いきなりで脅かしてしまったか。
済まぬ。
全てはオレが面倒臭がりなのが悪い。
『明日、レギアスの村に顔を出します』
『了解。あと魔石は2つ余ったからお返しするわね』
『いえ、新たに依頼もしたいのですが』
『え?』
会話を続けながら宝石類を取り出してスクリーンショットで画像を撮影して保存する。
【鑑定】した結果もハードコピーして保存。
別口でメッセージでマルグリッドさん宛で送信した。
『アイオライトが2つ、それにツァボライトね』
『どうでしょう?』
『ネックレスに付けると性能で上乗せになるとは思うけど、効率は落ちるけどいいのかしら?』
『そういうものなんですか?』
『ええ。師匠の受け売りなんだけど』
それに良く聞くと他にも複数の宝石をネックレスに付けて魔法の発動体にするには問題があるらしい。
シンメトリー。
対称性を損なうと阻害効果があると言うのだ。
理想は中央に最も強力な付与をしてある宝石を配置。
その両側に対称になるように、出来る限り品質の揃った宝石を配置するのが良い、とのことだ。
ブルースピネルなりツァボライトなりでもいいからもう1個欲しい、とはマルグリッドの弁である。
『理想はブルースピネルかしら?中央にツァボライトがいいと思うけど』
『はあ』
あれはレムトの町の北側の河原で拾った原石だった筈だ。
いや、探索にかまけて今まで土魔法の呪文、ダウジングをこっちで使っていないよな?
もっといい宝石がどこかで入手できるかもしれない。
『参考になりました。また明日にでもお話をさせて下さい』
『了解。それにしても』
え?
なんだろう、区切られても困る。
『便利よね、このテレパスって呪文』
『面倒がなくて重宝しそうです』
『そうね。そうみたいねえ』
うげ。
何かを見透かされそうだ。
怖い怖い。
『そろそろ呪文の時間もないのでこれで交信終了しますね』
『了解。じゃあまた明日』
『はい』
いかんな。
オレの耳には彼女がクスクス笑っていた声が確かに聞こえていた。
どうも頭の上がらないプレイヤーが増えつつあるようだ。
しかも女性が多いし。
何かに呪われてでもいるのだろうか。
オレが寝床にしている廃屋周辺もあらかた文楽が片付けたみたいだ。
多少、見栄えが良くなった程度だが。
ここで文楽も帰還させた。
召喚モンスターがいると状態異常の回復は遅くなりそうな気がするからだ。
根拠はない。
単にそう思いたいだけなのかも知れなかった。
村に分かり易い異変が起きた。
オレの目には緑のマーカーが幾つも見えている。
他のプレイヤー達が来ていた。
それも結構な人数がいるようである。
村に入ったプレイヤー達は兜を脱いでリラックスする様子が見えている。
いやいやいや。
知り合いもいるし。
最初に入ってきたパーティは6名。
その先頭にいるのが与作だった。
闘技大会でオレと戦ったあのランバージャックだ。
他にもパーティメンバーに見知った顔がある。
ガラス工のフェイだ。
他のメンバー4名に見知った顔はない。
次に見えたパーティは村に入っても警戒を解いていないようで、顔は見えない。
前衛は装備から見てかなりの重装備に見える。
攻略組なのだろうか。
その次に入ってきたパーティは実に分かり易かった。
アデルとイリーナだ。
召喚モンスターは4匹しか見えていないからユニオンで組んでいないでパーティで来ているのか?
そう思ってたが違った。
上空から鷹が2羽、オレの肩目掛けて舞い降りてきていた。
こらこら、狭いよ?
左腕を上げてやると1羽がそっちに移動する。
間違いなく片方はイリーナの召喚したスカイアイだな。
【識別】しなくとも分かる。
もう片方がアデルが新しく召喚した鷹だろう。
初見のオレにも無警戒だがいいのかね?
最後にもう1つのパーティが到着していた。
フィーナさん達だ。
サキさんにレイナ、ミオ、篠原、不動が同行している。
いつも良く見る生産職メンバーだ。
「おっす!」
「あーやっぱりいたー!」
ミオもアデルも相変わらず元気だな。
こっちは死に戻った後だからそれどころじゃないです。
プレイヤー全員とも挨拶はしたが、初見のプレイヤーが多すぎて名前も覚えきれない。
まあ大事な事は自然と覚えるものだ。
どうでも良い事は自然と忘れるだろう。
そういう物なんだってば!
与作とフェイが所属するパーティは全員が生産職だった。
どうやら臨時で組んだメンバーらしい。
フィーナさんの所のプレイヤーズギルドは職を問わないそうだが、このパーティの特徴はその多彩さだ。
フェイはガラス工でありプレイヤー数が少ないレア職である。
更に石工のドワーフがいたのだ。
これに樵の与作を含めた3名が前衛になる。
後衛は錬金術師、農民、薬師と見事にバラバラだった。
そして全員が初見メンバーのパーティはやはり攻略組であった。
掲示板で情報を頻繁にやり取りしているメンバーらしい。
さすがに装備は充実されているように見える。
というか2人ほどは闘技大会の予選で見たような覚えがあった。
「あれ?キースさんの召喚モンスターは?」
「今は帰還させている。さっき死に戻ったばかりでね」
「え?」
死に戻った、というオレの言葉に真っ先に反応したのは与作だった。
え?
ほぼ全員がオレに視線を集中させていた。
疑問の声は与作から投げ掛けられる。
「何があった!」
「隣のマップでクマでも相手にしようかと思ったんだがね。蝶に状態異常喰らって一撃で死亡した」
「うわあ」
なんともきまずい空気が流れる。
まあそんな事も含めて色々と聞かれる事になった。
昼飯の用意をしている料理番3名を除いて軽く情報交換をする。
エリアポータル4箇所を開放していた事には呆れられたが。
ただ、オレがS1W1マップのエリアポータルを開放していた事は既に知っていたようだ。
「リターン・ホームを使えるプレイヤーでサモナーとか、今の所1人しかいないもの」
とはフィーナさんの言葉でした。
どうやらグーディが情報掲示板に書き込んでいたらしい。
ほう。
まあ実害がなければいいけどさ。
フィーナさん達が大挙してここに来たのは、ここを拠点にできるかどうか、確めに来たからだそうだ。
攻略組は生産職の支援を受ける事を前提に護衛も兼ねて付いてきたそうである。
ここ風霊の村に辿り着くまでの間、既に何度もラプターやツルと戦ってきているらしい。
護衛、ね。
与作がいるのならいらないんじゃないの?
そう思ったが口にはしなかった。
こっちも簡単に各マップの状況をレクチャーした。
半分、呆れられていたような気もするが、そこはスルーで。
「じゃあこの村の周辺には夜も魔物は来ないのね?」
「ええ」
生産者組は何やら楽しそうだ。
「ここは絶対にプレイヤーで手を入れていくべき!というか運営の意図はそれでしょ?」
「だが流通が問題だ。プレイヤーだけが行き来できてもなあ」
「東で見つかった漁村跡と状況が違う。船で行き来できる訳じゃないし」
「北か南で迂回は?」
「キースの話を聞く限り北は高山地帯、南は火山地帯でしょ?」
「やはり森の迷宮がネックか」
「だけど畑や放牧地にできる土地がこれだけあるんだから」
「待て待て」
会話は熱気を帯びつつも収拾がつかなくなりかけていた。
「いいから。ここは一旦ストップ!」
フィーナさんの鶴の一声。
それで一気に熱気が引いていく。
「当初のプラン、忘れてないわね?まずは当面だけでもここをより活用しやすい拠点にすること。いい?」
生産者組の皆が無言で頷く。
「攻略組の皆さんには南側の探索をお願い。絶対に隣のマップには足を踏み入れないでね?」
フィーナさんは攻略組に『お願い』しているが、オレには『お願い』に聞こえなかった。
「ラジャー」
「Si!」
「りょーかいっと」
攻略組は不敵な態度なのだが。
だがフィーナさんの指揮下にあるように見えてしまう不思議。
衣・食・住を握られたら勝てそうにありません。
「キースはどうするの?」
「レギアス方面に戻りますよ。依頼品も受け取らないといけませんし」
「あら?そう言えば今日出来上がる予定だったわね」
フィーナさん達以外のメンバーが不安そうな顔付きをしているんですが。
何なの?
「いや、キースさんの戦いぶりを見たかったんですが」
与作さん。
それ、オレもです。
貴方がどんな戦いを繰り広げるのか、大いに興味があります。
「昼飯が出来だぞっ!」
ミオの一声でオレ以外の意識は昼飯に向いたようだ。
まさにバッドタイミング。
もうメシは食ってしまっている。
「キースさんは?」
「もう済ませたからいいよ」
イリーナが声を掛けてくれるが断るしかない。
もうお腹一杯なのです。
昼食タイムが終了した。
与作を始めとしたパーティは編成を変えて北へと向かった。
ファーマーとストーンカッターが外れて、サキさんと篠原が入れ替わりで加入したようだ。
そして攻略組は南へと向かう。
残った生産者は村とその周辺の調査らしい。
「とりあえず村の中の資材を把握する所からだな。幾つかの建物を修復できるかも知れない」
ストーンカッターが不動を引き連れて村の中を調査し始めていた。
ここが拠点になるのか。
妥当といえば妥当なのだろう。
先程の議論にあったように、幾つか課題もありそうだが。
オレのデスペナルティからの回復具合はどうだ?
ステータスを確認しておく。
ステータス
器用値 16(-3)
敏捷値 16(-3)
知力値 20(-4)
筋力値 16(-3)
生命力 15(-3)
精神力 20(-4)
かなり回復したような気がする。
やはり召喚モンスターを帰還させたのは正解だったのか?
HPMPはいつものペースではないにせよ、徐々に回復しており全快に近い。
さて。
オレも早めに森の迷宮を抜けておこうか。
時間が余ったら師匠の家でポーション作成と実験の続きでもしよう。
「じゃあ私もそろそろ戻ります」
「え?ステータス異常は回復してるの?」
「出来れば急ぎたいので」
嘘だ。
本当は油断して死に戻りしてしまい、凹んでいる自分の姿を見られたくないのだ。
どうしても気分が沈んでしまう。
「ああ、そうだ。これは渡しておくよ」
思い出したのは蟻人の蜜だ。
食料になるアイテムならば渡しておいていいだろう。
ミオが凄い目付きになる。
食材にはいつもこういった反応なんだよな、この娘。
「いいの?」
オレは反射的に即答してしまう。
「いいよ」
「ダメ。対価はちゃんと払っときなさい」
フィーナさんはそう言うと簡単に計算を済ませてくれる。
僅かだが手持ち金が増えた。
「売りたいアイテムも他にありますが」
「ごめんなさい、さすがにここで買い取っても商売にならないから」
うん。
確かに。
聞けばリック達はレギアスの村にいるそうなので、帰る途中で寄ってみるとしよう。
さて。
ヴォルフ、残月、ヘリックス、リグを召喚した。
移動と攻撃を考えての布陣だ。
「うわ、4匹同時召喚!」
「え?それじゃあキースさんの召喚魔法のレベルって」
「うん、つい最近だけど10になったよ」
不意に会話が途切れた。
何か変かな?
「凄く速いんじゃないの?」
フィーナさんの疑問も分かる。
でもね。
100匹を超えようかという数の魔物を何度か相手にして生き残っているのだ。
偶然だぞ。
狙ってレベルアップしてきた訳じゃない。
「なんというか、大量の魔物に遭遇する機会が多くて」
「え?」
事情を話してみたらある推測がフィーナさんから提示された。
一種のモンスターハウスではないかと言うのだ。
で、モンスターハウスって何?
「手付かずで魔物が溜まっている状態だと思っておけばいいと思うわ」
もう呆れ顔もありませんでした。
恥はかくもんじゃないと思いますが、こればかりはどうにもなりません。
要するに。
マップにしろ迷宮にしろ、最初に足を踏み入れる者には大量の魔物が襲ってくる可能性があるって事だ。
それだけ覚えておけばいいのだろう。
礼を言って辞去することにした。
そんな短い合間にアデルはヴォルフと残月をモフりまくっていたのは言うまでもない。
村の勢力圏を離れる前にフィジカルエンチャントを4系統、メンタルエンチャント2系統を全て掛けた。
MPには余裕がある。
デスペナルティを軽減できるのであれば使うべきだ。
各ステータスを底上げしたらこんな感じである。
ステータス
器用値 16(-1)
敏捷値 16(-1)
知力値 20(-1)
筋力値 16(-1)
生命力 15(-1)
精神力 20(-1)
まあ戦えなくもない、といった所だろう。
今日は早々に師匠の家に戻って仕切り直しとしたい所だ。
オレはまるで逃げるかのように東へと進んでいた。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv10
職業 サモナー(召喚術師)Lv9
ボーナスポイント残8
セットスキル
杖Lv8 打撃Lv5 蹴りLv5 関節技Lv5 投げ技Lv4
回避Lv5 受けLv4 召喚魔法Lv10 時空魔法Lv2
光魔法Lv5 風魔法Lv5 土魔法Lv5 水魔法Lv5
火魔法Lv4 闇魔法Lv5 氷魔法Lv3 雷魔法Lv3
木魔法Lv3 塵魔法Lv2 溶魔法Lv2 灼魔法Lv2
錬金術Lv5 薬師Lv4 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv7 鑑定Lv6 識別Lv7 看破Lv2 耐寒Lv3
掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv7 跳躍Lv3
耐暑Lv4 登攀Lv3 二刀流Lv4 解体Lv1
身体強化Lv2 精神強化Lv4 高速詠唱Lv4
装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 雪豹の隠し爪×3
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
ステータス
器用値 16(-1)
敏捷値 16(-1)
知力値 20(-1)
筋力値 16(-1)
生命力 15(-1)
精神力 20(-1)
召喚モンスター
ヴォルフ ウルフLv7
残月 ホースLv5
ヘリックス ホークLv5
黒曜 フクロウLv5
ジーン バットLv5
ジェリコ ウッドゴーレムLv3
護鬼 鬼Lv4
戦鬼 ビーストエイプLv4
リグ スライムLv3
文楽 ウッドパペットLv1