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小雨はやんでいたが、曇り空は相変わらずだ。
さっき死に戻りを見ているだけに不吉な空に感じてしまう。
おっと。
まずは確認だ。
コール・モンスターを使って周囲の状況を確かめてみよう。
すると恐ろしい状況になっている事が判明した。
これは。
状況が完全に一変している。
ブラックベアもスノーエイプも群れを形成していた。
群れの数は3匹から7匹だ。
1匹だけで行動している個体がいなくなっている。
これは酷い。
練習台として1匹だけ呼び寄せるしかないではないか。
そして他にもおかしな事があった。
ユキヒョウがいるのだ。
コール・モンスターで誘導可能なのは1匹だけいる奴と3匹の群れだけだが。
それにブリッツもいる。
4匹の群れが1つあった。
これは運営にしてやられたか。
「祠からあまり離れないように。連戦はなるべく避けよう」
「え?」
「さっきまでと魔物の行動パターンが違っている。群れで来るから気を抜かないように」
「は、はい!」
「ステータス操作も最後の1匹になるまでは止めておくようにしてくれ」
「分かりました」
ちょっと面倒な事になった。
ロックワームのように何十匹も集って来る相手も脅威ではある。
だが個体だけで見たらさほど怖くはない。
だがこいつらは違う。
群れている数こそ少ないが、脅威としてはこっちの方がはるかに怖い。
試しにスノーエイプ3匹の群れのうち、1匹だけをコール・モンスターで誘導してみる。
3匹ともこっちに近寄ってくるようだ。
群れだと1セットになってしまうのか。
仕方がないな。
3匹ならまだ楽だ。
「1匹は任せる。裸絞めで仕留めるように」
「はい!」
残り2匹のうち1匹はオレが相手をしよう。
そして1匹は召喚モンスター達が相手をする。
問題はない。
最初はそう思っていたんです。
その異変は突如起きた。
オレがスノーエイプを仕留めた直後。
ラムダくんがスノーエイプにようやく裸絞めを極めたその時。
ジェリコがスノーエイプを殴りつけ、その一撃で仕留めたのだが。
そのサルの断末魔がカギだったようだ。
別の群れを呼び寄せていた。
5匹いる。
ヘリックスの目を通してこっちに殺到してくるサル共が見えていた。
「フィジカルエンチャント・アース!」
オレ自身に呪文を掛けて強化する。
ある程度、ダメージを喰らうのは覚悟すべきだ。
それにオレには召喚モンスター達がいる。
空中からヘリックスと黒曜が牽制、それに援護を。
ジェリコは壁役を。
そしてヴォルフは状況に応じた戦いができるだろう。
ラムダくんもプレイヤーズスキルはまだまだなのだろうが、ステータスは完全に化け物なのだ。
なんとかなるだろう。
10分ほど経過。
なんとか撃退出来ました。
スノーエイプって群れになったら凄く大変です。
オレと召喚モンスター達のパーティが屠ったスノーエイプは合計36匹。
ラムダくんが屠ったスノーエイプは合計8匹。
群れの数は8つであったように思う。
全滅寸前になると次の群れを呼ぶとか鬼畜かよ!
まあ猿ではある訳だが。
この連戦でオレ達の消耗は半端でなかった。
オレのMPバーは当初8割ほどあった筈なのだが、戦闘終了時には3割を切っていたのだ。
苦戦したなんてもんじゃなかった。
《只今の戦闘勝利で【時空魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【水魔法】がレベルアップしました!》
《【水魔法】呪文のウォーター・シールドを取得しました!》
《【水魔法】呪文のアクア・スラッシュを取得しました!》
《只今の戦闘勝利で【雷魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【氷魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【木魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【召喚魔法】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で【耐寒】がレベルアップしました!》
《只今の戦闘勝利で種族レベルがアップしました!任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
即決で生命力を上昇させる。
前々から決めてあって良かった。
またスノーエイプの群れに襲われないか、心配でしょうがないのだ。
基礎ステータス
器用値 16
敏捷値 16
知力値 20
筋力値 16
生命力 16(↑1)
精神力 20
《ボーナスポイントに2ポイント加算されます。合計で10ポイントになりました》
インフォの全てに目を通す心の余裕はない。
召喚魔法がレベルアップして召喚モンスターを1匹追加できるようになったのだが。
それ所じゃないんですけど。
そしてこういう時に限ってインフォが長いのであった。
《只今の戦闘勝利で召喚モンスター『ヘリックス』がレベルアップしました!》
《任意のステータス値に1ポイントを加算して下さい》
オレに続いてヘリックスもレベルアップである。
即決で行こう。
ステータス値で既に上昇しているのは敏捷値だった。
もう1点は器用値を指定する。
召喚モンスター ヘリックス ホークLv5→Lv6(↑1)
器用値 12(↑1)
敏捷値 23(↑1)
知力値 20
筋力値 12
生命力 12
精神力 12
スキル
嘴撃 飛翔 遠視 広域探査 奇襲 危険察知 空中機動
よし。
数字がそこそこ揃っているし十分である。
「一時撤退しよう」
「そうしましょう」
ラムダくんもMPバーに余裕がない。
3割をやや超えている程度だ。
群れって本当に怖い。
アイテムを慌しく剥ぎ取り土霊の祠へ退散である。
まさに敗走。
撤退ではない。
今回、いくつかの誤算が重なった。
群れとなって遭遇しているのはまだいい。
仲間を呼んで来るのもまだ許容範囲だった。
最大の誤算は斧持ちの個体が4匹混じっていた事だ。
あれさえいなければもっと楽だったろう。
その分、得られたものも多い。
色々と呪文も駆使したからか、魔法技能が幾つもレベルアップしている。
呪文も増えた。
まあ確認は後回しだな。
祠に戻るとさっきとまた違うパーティがいた。
彼等もかなりボロボロに見える。
ここに着いたばかりのようだ。
オレ達も別の一角を陣取って腰を下ろす。
ポーションをヴォルフ達に使っていく。
ジェリコにはライト・ヒールで全快にさせた。
オレもポーションを1本飲んでおく。
「ちょっと予想外の事態だったなあ」
「練習どころじゃなくなりました」
ラムダくんと愚痴をこぼし合うのも非生産的だが。
心理的には当然凹むよね。
「時間的に速いかもしれないがログアウトしていいんじゃないかな?」
「そうですね。そうさせて貰います」
ラムダくんがテント設営を手伝いながら、今後の予定をどうするか悩み出していた。
今の状態であればリターン・ホームで戻る事もできるのだが。
「私は明日の朝、作成依頼品の受け取りがある。今日のうちに転移して戻る予定にしている」
「はい。明日の朝ですがボクはこっちで狩りをやります」
「それでいいのかな?今のうちに戻ってもいいんだが」
ラムダくんが少し考える様子だったが、決断は意外に早かった。
「大丈夫です。経験値稼ぎをするにはいい相手ですから」
確かに。
ソロで相手をするにはリスクが高いが、その分だけ成長も見込めるだろう。
問題は明日、レギアスの村から土霊の祠まで、オレが辿り着けるかが不安だ。
残月の脚に期待しよう。
さすがにサルも残月の速度に追いつけないであろう
ん?
残月?
群れているスノーエイプ相手でもなんとかなるかも知れない。
あるアイデアが浮かんでいた。
だが今はよそう。
MPがもう少し回復してからじゃないと不安だ。
「そうだ。お願いがあるんですが」
「うん?」
彼の懸念は所持アイテムだった。
確かに。
かなり溜まっている筈だ。
聞けば彼もレベルアップの影響で《アイテム・ボックス》は大きくなっているそうだ。
同時に得ているアイテムが圧迫しているのも事実のようである。
遠征していると、どうしてもそうなるよね。
売り払いたい分のアイテムを預かる事にした。
雪猿の骨と皮だけだ。
その代わりといってはなんだが、携帯食を3食分、ラムダくんに渡しておく。
消耗品だし、まあ保険のようなものだ。
「では今日はこれで失礼します。ログインしたらメッセージで連絡しますので」
「分かった。じゃあ今日はこれで」
「お疲れ様でした」
ラムダくんがログアウトして行く。
こうなると暇になってしまうな。
ポーションの補充でもして時間を潰そう。
空瓶の分のポーションと回復丸の作成を終えた所で先刻思いついたアイデアを検討してみる。
スノーエイプの群れに対する戦い方だ。
残月のスピードとタフネスがあれば可能だろう。
他の陣容はどうするか?
ヴォルフなら十分、残月のスピードについていける。
ヘリックス、黒曜、ジーンのような空中を飛び回るモンスターは当然付いてこれるだろう。
ふむ。
陣容は限られるが、群れを効率良く仕留められるかもしれない。
考えているのは残月でスノーエイプから逃げながら戦う方法である。
全体攻撃ができる呪文は風魔法と水魔法、それに土魔法で取得済みなのだ。
距離を置きながらダメージを与えられないだろうか?
できそうな気がする。
だが懸念もあった。
結局、MPをかなり消費しちゃうんじゃないの?
何発当てたらスノーエイプが沈むのか、そこに全てが掛かっている。
もう1つ案がある。
防御呪文の活用だ。
闘技大会でオレ自身が体験している。
壁に突っ込んで喰らったダメージはかなり大きかった。
魔物をいかにして壁に突っ込ませるか?
誘導して罠に掛ける感じでいきたいんだが。
いや。
こっちの案もなんとかできるかも知れない。
呪文リストにちゃんと使えそうなのがあるじゃないの。
「申し訳ないが少し宜しいか?」
「はい?」
オレに話しかけて来たのはさっきのパーティにいた戦士だ。
分かり易い特徴があったのですぐに分かった。
ドワーフ戦士である。
良く見ると、背負っているのは金砕棒のように見えるんだが。
日本の童話なんかで鬼が持ってる奴だ。
但しドワーフの身長に合わせて短めのようである。
それでも凄いな。
ドワーフの筋力でこれが振り回されるとか恐ろし過ぎる。
「情けないのだが我々のパーティの手持ちポーションがもう尽きかけている。幾つか売って頂けないだろうか?」
「売る?」
「左様。代金を上乗せしてでもポーションが欲しいのだが」
「いや、その前に確認しないと」
オレの手持ちの傷塞草はどれほどあるだろうか?
《アイテム・ボックス》の中の傷塞草を数えてみたら11本ある。
ポーションにして22本分だ。
「作れはしますが限りはあります」
「可能な限りお願いしたいのだが」
「上限はポーション20個まで、2本単位で受けましょう。空瓶はどれだけありますか?」
「おお!助かります!」
彼のパーティメンバー達も慌てた様子でポーション瓶を取り出している。
おいおい。
ざっと見ただけでも30本はありそうなんだが。
「20本までだって!慌てるな!」
どうやらこのドワーフ戦士がリーダーのようだ。
なんとなくだが苦労していそうである。
「ポーションは幾らで購入してました?」
「1本で60ディネだったかな」
「空瓶があるし1本50ディネでいい」
「ええ?」
そう驚くような事じゃないんだけどな。
お金にそこまで執着がある訳じゃないし。
そもそもここはゲーム世界の中でもあるんだし。
「本当にいいんですか?」
「ええ」
思わぬ所でポーション作成依頼だ。
さて。
品質をどうするか。
丁寧に作り上げたら品質B-まで作れるだろう。
でもギルドで販売しているポーションは品質Cで揃えている筈だ。
あまり高い品質のものをここで作るのは如何なものか。
いや、あまり深く考えないでおくか。
錬金術の短縮再現を使えばいい具合に品質も落ちるだろう。
ポーション10本分の水をリキッド・ウォーターで用意する。
傷塞草5本を用いて短縮再現を行い、空瓶にポーション液を入れていく。
品質C+で揃っているようだ。
まあまあだな。
「もう出来上がったんですか?」
「まだ半分ですよ?」
「いや、そうじゃなくて」
疑問の声は無視して次の製造ロットに移行する。
これも品質C+で揃っていた。
品質管理的に言えば、品質が高くともその出来にバラツキがあるのは避けたいものである。
全部品質C+というのは満足できる結果であった。
「助かりました」
「いや、まだ終わってないから」
「え?」
そう。
まだ回復丸が作れるのだ。
抽出後の残滓に手をかざして短縮再現を行い、回復丸を2個作り上げた。
傍目で見たらでっち上げたようにも見えるだろう。
《これまでの行動経験で【錬金術】がレベルアップしました!》
レベルアップのインフォを華麗にスルーしてドワーフ戦士に話しかける。
「これはいるかな?」
「か、回復丸ですか?でも手持ち金額が足りません」
「いや、お代はなくていい。私も手持ちで回復丸はあるからね」
「ええ?」
「その代わり話が聞きたいんだけどいいかな?」
ポーション20本分の代金を受け取ると彼等の話を聞くことにした。
まあMPが回復するまでの暇潰しのついでになる訳だが。
その話で幾つかの裏付けが取れたように思う。
イベントの影響だ。
その疑いは益々濃くなっていた。
このパーティはオレとは異なるルートでここに来ていた。
レムトの町の北、N1マップのキャンプからドワーフの旧鉱山を抜けてここに到着している。
正午になるまでは、ブラックベアもスノーエイプも1匹しか相手にしてこなかった。
それが正午を境に一変。
森の中でブラックベア5匹の群れに遭遇。
なんとか撃退した直後にスノーエイプ4匹の群れに遭遇。
そこから5匹の群れが追加になったそうだ。
土霊の祠の手前でブリッツ4匹の群れに襲われそうになったらしいが、ここに逃げ込んできたらしい。
ナイス判断。
あのヤギを相手にするのは面倒だ。
しかも4匹とか。
素早くて雷撃で攻撃してくる魔物を4匹とか、オレも嫌です。
他にもN1マップの様子も聞いておいた。
N1マップは旧ドワーフの住居と鉱山となる洞窟を探索することになるらしい。
そして門番はコボルトナイト。
並みのコボルトは雑魚同然だったらしいが、コボルトナイトはやたら強かったようだ。
支援呪文を使ってくるので、速攻がオススメらしい。
ふむ。
やはりこういう情報は生で聞くほうが性に合っている。
「我々は一旦全員ログアウトします。明日になったら改めてチャレンジするつもりです」
「そうですか」
ドワーフ戦士とその仲間達がテント設営を終え、次々とログアウトして行く。
これでまた暇になった。
まだオレのMPバーは半分になろうかといった所だ。
リスクはあるが、さっきのアイデアを外で試してみようか?
失敗して死に戻ったとしても師匠の家にまで飛ばされる筈だ。
うん。
トライしてみよう。
主人公 キース
種族 人間 男 種族Lv11(↑1)
職業 サモナー(召喚術師)Lv10
ボーナスポイント残10
セットスキル
杖Lv8 打撃Lv6 蹴りLv6 関節技Lv5 投げ技Lv5
回避Lv6 受けLv6 召喚魔法Lv11(↑1)時空魔法Lv4(↑1)
光魔法Lv5 風魔法Lv6 土魔法Lv6 水魔法Lv6(↑1)
火魔法Lv5 闇魔法Lv5 氷魔法Lv4(↑1)雷魔法Lv4(↑1)
木魔法Lv4(↑1)塵魔法Lv3 溶魔法Lv3 灼魔法Lv3
錬金術Lv6(↑1)薬師Lv5 ガラス工Lv3 木工Lv4
連携Lv8 鑑定Lv7 識別Lv7 看破Lv3 耐寒Lv4(↑1)
掴みLv6 馬術Lv6 精密操作Lv8 跳躍Lv3
耐暑Lv4 登攀Lv4 二刀流Lv5 解体Lv3
身体強化Lv3 精神強化Lv4 高速詠唱Lv5
装備 カヤのロッド×1 カヤのトンファー×2 怒りのツルハシ+×2
白銀の首飾り+ 雪豹の隠し爪×1 疾風虎の隠し爪×2
野生馬の革鎧+ 雪猿の腕カバー 野生馬のブーツ+
雪猿の革兜 暴れ馬のベルト+ 背負袋 アイテムボックス×2
所持アイテム 剥ぎ取りナイフ 木工道具一式
称号 老召喚術師の弟子、森守の証、中庸を望む者
呪文目録
ステータス
器用値 16
敏捷値 16
知力値 20
筋力値 16
生命力 16(↑1)
精神力 20
召喚モンスター
ヴォルフ グレイウルフLv1
残月 ホースLv6
ヘリックス ホークLv5→Lv6(↑1)
器用値 12(↑1)
敏捷値 23(↑1)
知力値 20
筋力値 12
生命力 12
精神力 12
スキル
嘴撃 飛翔 遠視 広域探査 奇襲 危険察知 空中機動
黒曜 フクロウLv5
ジーン バットLv5
ジェリコ ウッドゴーレムLv4
護鬼 鬼Lv4
戦鬼 ビーストエイプLv5
リグ スライムLv4
文楽 ウッドパペットLv3
同行者 ラムダ(本名オメガ)