16 少年とブラックホール
【冒険者ギルド食堂】は、冒険受付カウンター風のカウンター席や、壁に幾つも貼られた魔物討伐依頼書、魔族の手配書や魔道具風置物などの小道具満載な内装で、ボーボルド家の男達が来たら、感動して、通い詰めそうな店だった。
一昨日オープンしたばかりということで、「一族での一番乗りはきっと僕達ですよね!」と、レーリスはご機嫌だ。「兄様達にお会いできたら、自慢します!」と、ニッコニコ笑っている。
店内の雰囲気と一番乗りを果たしたであろうことに感動しつつ、大盛りの「本日の特製異世界ギルドランチ」をぺろっと平らげた現在食べざかりのレーリスは、「凄く、美味しかったです!」と、食事を終えた感を醸し出していたが、その視線は壁にあるメニューに釘付けだ。
アーリエアンナはといえば、まだ、上品に肉肉ファンタジーバーガーに齧り付いているところだ。
平民に完璧擬態しているので、「ああ〜!姫様が凄え大盛り平らげてるぞ!」と噂になることはないだろうが、「うわ〜、あの女、汚ったねぇ食いしてるなぁ!」と思われた後に、「こないだの下品な食い方の女!あれ、アーリエアンナだったらしいぞ!侯爵家の恥だな!」とか、身バレした上で噂されでもしたら、大変なことになるから。
恥ずかしいというより、母や祖母にバレたら、ヤバイ、マズイ。
長いお説教をされた上に、食べ歩き禁止の刑などに処されたら、大変困る。
私から、食べ歩きを奪おうなんて非道を、あの方達なら、涼しい顔で命じられること確実ですから。
人生の楽しみが半減……なんて、恐ろしい!
ダメダメ、町娘でも、お食事は綺麗に!
あら?レーリスはもう食べ終えたの?流石男の子。早いわねぇ。
待たせてごめんね。姉様頑張って早く食べ終えますからね!って、何をモジモジと?
おトイレなの?1人で行ける?
「あの、姉様?」
「なあに?」
「その、僕、まだ結構お腹が空いてるというか、もっと色々食べられるかもしれない、と、思うのですけど」
おトイレじゃなかったのね。
「………追加注文お願いしたら?」
「はい!あの店員さん、肉肉ファンタジーバーガー1つと、骨付きマンガ肉特大1つ、オレンジポーション水差しサイズジュース1つ、お願いします!」
大盛りの特製ランチ食べてたの、あれ?気のせい?
お腹の中、どうなってるの?
胃袋がブラックホールってやつ?マジ?
「そ、そんなに頼んで、お腹は大丈夫なの?」
「はい、余裕です!まだまだイケます!!あ、もう出てきました!」
「はいよ〜、うちは味とスピードが自慢だよ!肉肉ファンタジーバーガー1つと、骨付きマンガ肉特大1つ、オレンジポーション水差しサイズジュース1つ、お待たせ!」
アーリエアンナがバーガーを食べ終えた頃、レーリスも追加料理をブラックホールに収納し終えていた。
「姉様、今日はもう夜まで何も食べないのですか?」と聞かれたので、「デザートを食べる予定はあるわよ」と答えると、「じゃあ、あとは我慢します」との謎の返事があり、お姉様はちょっとビビってしまった。
食べ盛り恐るべし、うちの可愛い弟のお腹が裂けたらどうしよう。
そんな心配をしちゃうお姉様であった。