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23 少年は甘えたさん

 宿で食べた夕食が美味しかったとレーリスはご機嫌だ。

 成長期で胃袋ブラックホールなのは理解したけれど、可愛い弟のキャラが、食いしん坊になっている気がして、複雑なアーリエアンナ。食いしん坊で可愛いね、とはいえない食べっぷりに、かなり、ドン引きぃ〜!してる。


 上級宿では、寂れた部屋を期待して、一番安い部屋を借りてみたが、普通に広くて美しい宿部屋だった。上級なので当たり前だが、ちょっと無念なアーリエアンナ。


 そして食後、2ベッドルームの宿部屋の居間のソファーで、5人前を収めたのに全くぽっこりしていないお腹を見せて寝転がるレーリスの頭は、アーリエアンナの膝の上にある。

 誰もみていないから、久しぶりに甘えたいらしい。頭撫で撫でもしてくれというので、お姉様はちょっと重く感じる頭を見下ろしながら、撫で撫で撫で撫でしている。この、甘えたさんめ!ニヤニヤ。


 うっとりしながら、そのまま寝ついたレーリスは、結局ソファーで朝まで過ごした。

 文句を言われたアーリエアンナが、もうお姉様には、レーリスをベッドに抱っこで運ぶのは無理よ。と返してみれば、抱っこされた姿を想像したのか、それとも抱っこして欲しかったのか。赤くなった顔でエヘヘと照れ笑いしたレーリスがいた。


 うん。抱っこは無理だけど、まだまだうちの弟は可愛いね!


 さて、翌朝。早朝に宿を出発した2人は、馬車道を走り、昼前にはハイエリアの端に到達した。ここで一度街が切れ、森を抜けることとなる。


 昔は全てが土の道で、馬車や騎乗で通れる場所はほんの少ししかなかった。天気の良い日の早朝、荷物を馬と自身の背に乗せ出発し、かなり早く歩いて、薄暗くなってきた頃に出口に到着だったらしい。歩みが遅いと、月明かりを頼りに、狼と、野盗を警戒しながら、複数の集団が固まりながら歩いて、真夜中に到着も珍しくなく、悪天が続くと、月待ちの客で森の側の宿屋は繁盛したとか。


 森の中の道は平坦ではなく、難所もある。


 だが、今では、両端の街に面したところからしばらくは石畳が敷かれているし、道幅が広げられた箇所も多い。崩れやすい斜面沿いの道は、斜面を広範囲に渡って削り取ることで道幅を広げ、安全に通れるようになった。


 昔は斜面の上から野生動物が飛び降りてきたり、追い剥ぎが土や石と共に雪崩のように襲ってくる危険箇所でもあったので、道幅を広げる際に、道との境に杭と金属製の網を設置し、無法者が上から走りおりて来ただけでは道に出てこれないような工夫もなされている。


 他にも、月明かりが届きにくい場所での伐採、湧き水などにより滑りやすい場所に橋を渡したり、迂回路を作ったり、と、数百年の努力で、森の道はかなり通りやすくなった。


 どんなに治安が良くなっても、道を外れる者は皆無ではないので、街にも森にも、悪党集団はいるが、街歩きで絡まれることはあまりない。王城から近いハイエリアとの間にある森、その下のミッドエリアのあたりまでは、街で組織された自警団や個人で雇う護衛がいれば十分対応できた。


 ハイエリア、ミッドエリアは、商業と手工業と牧畜、果実栽培の街で、そこそこ裕福な住民が住んでいる。ミッドエリアとこれまた森を挟んだ向こう側にあるローエリアは、林業と農業と鉄鋼業、そして大規模な各種製造工場があり、住民の収入は安定はしているが、雇用主以外は裕福というほどではない。また、血の気の多い若者の比率が高いので、揉め事も多い。対策として、治安維持のために貴族の演習場と滞在施設、王都外に仕事でである機会が多い役人のための役所兼滞在施設なども配置されている。


 王都は王城を中心に円を描くように広がっているので、広さはローエリアが一番広い。

 12の公爵家が領土の監督を2家を1組として6分割にした範囲の国土と領地を担当しており、貴族の住まいは担当エリアの方角にあるが、その方向にある王都の街の管理は王城に住む王家担当なので、王族である公爵家も配下の侯爵伯爵家も、王都ではただの住民だ。


 王族の仕切りだけでは対処不能な不測事態に備え、王族も含めた全貴族の下屋敷が、ローエリアとミッドエリアの両方に()()されている。かなりの数だが、広い王都なので、各家の下屋敷は隣り合うことなく、エリア全域をカバーできるように考えた場所に建てられている。それにより、王城や自家の本邸との行き来は難しいが、王城から離れたエリアで、何か大きな問題が発生した時には、常駐の下屋敷の者たちが集まり、適切に対処することができるようになっている。


 基本的には王家の下屋敷が働き、人手が足りない時には親族である公爵家の下屋敷メンバーが動く。

 大災害や疫病でもなければ、声がかかることがない侯爵・伯爵家の常駐貴族達は、女性達や本邸からの依頼や命令が届かない限り、それほど忙しくはなく、一族の中で一番暇な人間集団として、鍛錬やら私的な嗜好を追求したりと、割と自由気ままに過ごしている。


 激務に励む本邸付近の一族は、暇なら子供の教育をしろと、年単位で「少年集団」を預けたりしているのだが、それが侯爵家以下の貴族家が壊れる原因のひとつになっているのでは?

 自由を満喫できる下屋敷で少年期を過ごした上で、ストレス満載のハイエリアで大人として仕事することになるので、逃避で、夢見る少年のような性質を持つようになるのではないか?


 と、密かに気づい人がいるとかいなかったとか。

 王城に住んでるらしいとか、そうでないとか。


 ま、とにかく。気づいても、気づいてなくても。

 どんまい!である。

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