28 側近誕生までの道は険しく
「はぁ……ピンクアータ様にも困ったものね。でも、こちらかはどうしようもないかもしれないわね。アーリエアンナ、ピンクアータ様からお手紙をいただいたり、訪問を受けたりは?何か、前兆はなかったの?」
ため息のあと、気を取り直したのか、お母様から質問が飛んでくる。
「ピンクアータ様からは、最初のルーガドロド家下屋敷から、キールスローン家の下屋敷に移られる前に、一度お手紙をいただきましたが、それ以来何も……」
宇宙人のきざしがわかるなら、苦労しませんからね。
「確か今は、キールスローンからまたどこかに移られたんじゃなかったかしら?」
「そうですね、キールスローンの後、オールドローン、スーリンドロの順に移られたと、聞いています。ただ、今現在の動向は不明です」
ピンクアータ・アスターダの父は、12ある公爵家のうちの1つのアスターダ公爵家の当主である。
我が国の公爵家の数は12家で固定され、代々王弟は公爵の座を継ぎ、王族として仕事をすることが決められている、その為、現王弟が成人すれば、公爵家の当主が、王弟と入れ替わることになっている。
アスターダ公爵家の現当主は、先王の再従兄弟で、王族であるが、ピンクアータは、現王の曾祖父母の兄弟のひ孫にあたり、王族から外れる。そういった王家の血が薄まった家に、現王家の王弟が少年期から養子に入り、嫡男となり、代替わり時には、公爵の座を引き継ぐ形で、現王族が公爵となる。
公爵家当主の仕事は激務であり、一刻も早く、嫡男に押し付け、引退したいと、全当主が考えているのは周知の事実だ。実際、養子の嫡男王族が成人した後、5年以内にどこの家も、代替わりしている。当然、当主の座を巡る争いなどない。代替わり時点で是非とも仕事からも引退したい前公爵の希望は叶わないが、前公爵の実の息子の嫡男は、王弟が生まれた時点で、次期公爵の座からの逃亡が成功する。
それでも、普通は、公爵家の一族としての仕事から逃れられない。ピンクアータ・アスターダは次期公爵ではないが、次期公爵となる王弟カルードルの義理の弟ということになり、本来はその側近として働く筈の人だ。
成人すれば、激務が待っている。ボーボルドの家の子供達の様に、教育が早く終われば、自由に振る舞える期間もあるが。
「お母様のもとに、アスターダ家のピンクアータ様の教育が終了したという連絡はないのですか?」
「いいえ、ありません」
実は、質問するまでもなく、アーリエアンナは、アスターダ家のピンクアータの教育が終わってないことを知っている。彼の義理の兄で、次期アスターダ公爵家当主のカルードル様が、アーリエアンナの元婚約者リードル様の実の弟君という関係なので、身内の愚痴として、ピンクアータ情報が入ってくるのだ。
ピンクアータの話をするカルードルは困った顔をし、ピンクアータを毛嫌いしているリードルの顔が険しくなるその愚痴話の場で、リードルの隣に座らされるアーリエアンナ的には、宇宙人と鬼畜のどちらの話も聞きたくないらしいが。
王弟カルードル側近に育て上げようと、アスターダ公爵家はピンクアータの教育を必死に進めていることもよく知っている。公爵家の教育システムではお手上げとなり、教育内容は若干変わるが、配下の侯爵家の下屋敷で行われる教育なら、学んでもくれるかもしれないと、ルーガドロド家の下屋敷に託された。そこから同じ配下のキールスローン家、オールドローン家に移され、最後に聞いたのは、王都の外を担当する伯爵家、スーリンドロ家に託されたという話だったのだが。どうやらそこでも、教育を終えれなかったようだ。
彼の方、頭は悪くない筈なのに。どうして、あんな、どうにもこうにもどうしようもない、人外に育ってしまったのかしら。
どうしてのその理由は、アーリエアンナだけが知らない。
ピンクアータがああなった、最大の原因が、アーリエアンナの存在であることは、高位貴族の誰もが理解しているが、アーリエアンナに罪がないことも、アーリエアンナが被害者筆頭であることも周知の事実であるので、今現在、ピンクアータにはアーリエアンナへの接近防止対応がなされている、筈。