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ダンジョン攻略、そしてお別れ

「さて、お宝を貰って帰るとするか」


 ボスのいた部屋の更に奥に、小部屋がある。

 そこには豪華な宝箱が置かれていた。


「あれね。宝箱。ロベルトが開けるといいよ」

「いいのか? このダンジョンはほとんどタオが一人で攻略したようなもんだろう」

「でも、ロベルトがいなかったらアタシ死んでたよ。だからロベルトに開ける資格あるね」

「わかった。そういうことなら……」


 俺は宝箱の前に進み、おもむろに開けた。

 中には短剣が一本、入っていた。


「おっ、短剣か。どれどれ、ちょっと見せるね」


 俺の後ろでそれを見ていたタオが短剣をじっと見つめる。

 そして、ぺちんとおでこを叩いた。


「……あちゃー残念、ハズレあるな」

「そうなのか? 何かの魔力が込められている感じがするが……」

「うん、言う通りこれは魔術の付与された短剣。だけど大したものじゃないよ。まず元となっているこの短剣が何の変哲もない鉄ナイフだし、何の装飾もされてない。そんな短剣には強い魔術が付与できないよ。多分、付与の練習台あるな」


 何者かが練習用に魔術付与した短剣、ね。

 見た感じ少し刃こぼれもしているし、使い込んだ跡もある。

 まるで誰かが所持していたような物だ。それがダンジョンのお宝になっているのは変だな。

 そんな事を考えていると、宝箱が地面にゆっくり埋まっていく。


「まさか……」


 俺は咄嗟に風系統魔術『風切』で風の刃を生み出すと、宝箱の一部を切断した。

 切り取った宝箱の一部からは、とても強い魔力を感じる。

 ……そうか、これがダンジョンの核ともいえる存在。

 こいつは普段は地中に生息し、誰かの落とした魔道具などを取り込んでダンジョンとして成長するのだ。

 そして攻略されそうになったら、宝箱のフリをして中身を差し出し、その隙に逃げると。

 なるほど面白い。良く出来ている。


「ロベルト? 何をにやにやしてるね」

「あぁうん、なんでもないよ。それよりこの短剣、たいして価値がないなら貰っても構わないか?」

「元よりそのつもりね。お好きにどーぞ」

「ありがとう」


 魔術付与された短剣はちょっと欲しかったんだよな。

 もちろん城にもそういった武器などはあるが、高価なものばかりだし気軽に分解したりは出来ないのだ。

 だから付与系統魔術についてはまだ試していなかったのだが、これで付与魔術の実験ができるぞ。

 宝箱の破片と共に、鞄へと放り込んだ。

 すると、ゴゴゴと地鳴りがし始める。


「おっと、そういやダンジョンは宝箱を取ると消滅するんだっけか」

「うん、早く外に出るよ」


 俺はタオと共にダンジョンの外へと駆けるのだった。

 外へ出ると空は薄暗くなっていた。


「げっ、しまった……」


 グリモの事を完全に忘れていた。

 こんな遅くまで放置して大丈夫だろうか。


「どしたねロベルト、そわそわして」

「……悪いがちょっと用事を思い出してね。すまん」


 俺はタオに謝罪すると、即座に『飛翔』を念じ、空中へと跳び上がった。


「あ! どこへ行くねっ!?」

「悪い、急いでるんだ!」

「待つよーーーっ! せめて連絡先を交換するあるぅーーーっ!」


 タオのよく響く声を聞きながら、俺は城へと飛んでいく。

 少し残念だがもう二度と会う事もないだろう。

 それにしても『気』についても知れたし、魔物もいっぱい見れたし、ダンジョンでも色々拾えたな。

 大満足の一日だった。


 ■■■


 入って来た時と同じように姿を隠して城内へと戻る。

 ほくほく顔で自室に戻ると、ベッドでは俺――の姿をしたグリモが倒れ伏していた。


「ただいまー……あー、その、グリモ? 大丈夫か?」


 声をかけると、ぎぎぎと首を動かし俺の方を向く。

 その表情は、完全に死んでいた。


「……ロイド様、メイドが来たと何度もお知らせしたんですがねぇ……」

「ははは……悪いな、忘れてた」


 やはり何度か連絡してきたようである。

 多分、魔物に夢中になってた辺りだろうか……どうも集中すると周りの声が聞こえなくなるんだよなぁ。

 反省反省。


「えぇ、きっとお忙しいんでしょうと、何とか会話は誤魔化しやした。ですが剣術ごっこは結局やることになりましてねぇ。まぁズタズタのボコボコにされやしたよ。あのメイド、半端な強さじゃねぇですな……」

「だろうな」


 グリモが乗り移っている人形は俺の身体をコピーして作っているからな。

 自慢じゃないが運動神経のなさには自信がある。


「それだけならいいんでさ。問題はあのメイド、自分をぶちのめした後に何故か泣きながら『ロイド様の腑抜けた根性を鍛え直します』とか言い出したんすよ」

「あー……」


 サボってると思われたんだろうな。

 普段は魔術でシルファの剣技をコピーしてるからな。

 残念ながらそれが俺の実力だ。


「そんなわけでついさっきまで打ち合いしてました。昼からずーーーっとね」

「……すまん」


 俺は素直に謝罪した。

 しばらく外出は出来そうにないな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロイドの魔法が好きな事から落ち着きや興味、知識などが確かなことが語り口を通して独特の雰囲気に包まれていて、人や魔人と会ったりダンジョンの中も独特の雰囲気がロイド口調で全編漂っています
[良い点] 主人公のロイドが自由にいろいろできていて読んでいてとても楽しいです [一言] 主人公のロイドを利用しようとする人たちがどのように関わるのか楽しみです
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