魔剣作りを再開します
城に戻った俺は、早速ディアンの工房へ向かう。
「おう、ロディ坊じゃねぇか。近頃姿を見なかったが、どこ行ってたんだよ」
「すみません。実はこれを手に入れに」
そう言って手に入れたダンジョンの核をディアンに見せる。
「これは……魔物の核か! 純度も申し分ない……どこから手に入れたのかわからねぇが、よくやった! 俺も方々手を尽くしてはみたもののどうしても手に入らなくて諦めかてたんだが……ったく、やるじゃねぇかロディ坊!」
嬉しそうに俺の背をバンバン叩くディアン。
痛い痛い。
「そ、それより早く魔剣を作りましょう」
「へっ、そうだったな……ったく、既に俺より魔剣に夢中かよ。兄として、鍛冶師として立つ瀬がねぇぜ。親方が聞いて呆れらぁな」
ディアンは何かブツブツ言っている。
どうでもいいけど俺は早く魔剣制作に取り掛かりたいんだがな。
「何してるんですか、親方」
「親方じゃねぇ! ディアンと呼べ!」
また呼び方を変えろとの要望である。
そろそろ混乱してきたんぞ。
ていうか兄相手に呼び捨ては流石に無理だろ。
「は、はい。ディアン兄さん」
「……ちっ、まぁいい」
ディアンは少し不機嫌そうな顔をしたが、結局この呼び方で納得したようだ。
そして魔剣製作が始まった。
といっても既にレシピはある。材料も揃ったのであとはその通りにやるだけだ。
手順通り、丁寧に、根気よく押し進めていく。
そして――
「出来た……!」
金床に置かれたこの長剣こそ、二人で作り上げた魔剣。
一見無骨ではあるが、それが美しくすら感じられる見事な業物だ。
銀に輝く刀身には薄っすらと朱色が混じっている。
何度か見たことがある魔剣と、見た目は殆ど違わないように見える。
「いい出来映えですね」
「おう、そうだ。こいつにも名前を付けなきゃな。……俺とお前の名を取って、ディロードってのはどうだ?」
嬉しそうに剣を撫でるディアン。
名前なんてなんでもいいが、本人がいいならそれでいいだろう。
「良い名です。とてもかっこいいのではないでしょうか」
「へっ、そうかそうか。……これも全てお前のおかげだぜ。ありがとよ、ロディ坊」
念願叶って感動したのか、ディアンは少し涙ぐんでいる。
魔術が撃てるのが嬉しいんだろうな。うんうん。気持ちはわかる。
「早速試し斬りしましょう!」
「そうだな。外へ行くぜ!」
ディアンと共に向かったのは、魔術などの練習に使われる射撃場。
百数十メートル四方のだだっ広い空間で、城の魔術師たちが今日も魔術の修練に励んでいる。
その中にいたアルベルトが俺たちに気づき、歩み寄ってきた。
「やぁディアン、それにロイド。一体どうしたんだい?」
「へへ、ついに魔剣が完成したんだよ、アル兄ぃ」
「おおっ! それはすごいじゃないか!」
「ロディ坊のおかげさ。もちろん紹介してくれたアル兄ぃにも感謝してるぜ」
「そうかそうか。……ディアンの協力があったとはいえあっさり魔剣を完成させるとは、やはりロイドの才能は素晴らしい。しかもまだまだ伸び代があると見た。全く末恐ろしい弟だよ。ふふふふふ」
アルベルトが何かブツブツ言いながら、俺をじっと見ている。
いいから早くやりたいんだけどな。
「それで試し斬りというわけかい?」
「おう、当然アル兄ぃも見ていくよな」
「もちろんだとも。特等席で見させてもらうとしよう……おい、準備しろ」
アルベルトが部下たちに的を用意させる。
ディアンは魔剣を握り構えると、赤い光が刀身に宿る。
魔剣に込めた術式は持ち主が握るとその魔力に応じ、起動。意思を持って振るう事で術式が連結起動し、刀身に込められた『炎烈火球』が発動する――というものだ。
どうやら今のところ術式は上手く働いているように見えるが、まだ安心はできない。
ディアンの一挙一動を固唾を呑んで見守る。
「それじゃあ……いくぜっ! 吠えろディロード、敵を焼き尽くせっ!」
気合いと共に魔剣を振り下ろすディアン。
空間に炎が生まれ、前方に吹き出した。
ごおおおお! と燃え盛る炎が的を目掛けてまっすぐ飛んでいく。
炎は芝を焼き、宙を焦がし、的を貫き、遥か彼方へと消えていった。
おおっ、成功だ。
俺の組み込んだ術式の通り『炎烈火球』が発動したな。
その出来栄えに満足していると、すぐ横にいた二人は驚愕の表情を浮かべていた。
「な、なんだありゃあ!? 的ごとぶっ飛ばして見えなくなるまで伸びていったぞ!? 普通の魔術じゃありえねぇ……! ロディ坊の奴、一体どんな魔術を込めやがったんだ……?」
「し、信じられない威力……! まさかとは思うが最上位魔術が込めた……いやそんな魔剣は見たことがない……一体何がどうなっているのだ……!?」
二人は驚きのあまりだろうか、あんぐりと大口を開けている。
やべっ、少し威力が高すぎたか。どうにか誤魔化さないと。
「わ、わぁー。凄い威力だなぁー。もしかしてディアン兄さんの作った剣と俺の魔術との相性がすごく良かったのかなー?」
なんて誤魔化そうとしてみるが……少しわざとらしかっただろうか。
あらゆるものには相性というものが存在する。
それは魔剣も同じで、同じ術式をかけたとしても術者との相性によりその能力に差異が生まれるのだ。
「おう、それなら聞いたことがあるぜ! 魔剣製作ってのは鍛冶師と魔術師の相性により出来栄えは全く違ってくるってな! つまりこれだけの魔剣が出来た理由は――俺とロディ坊が相性最高の名コンビだったってことだな!」
助かった。ディアンは納得してくれたようだ。
ほっと胸を撫で下ろしていると、アルベルトが目を細めているのに気付く。
「……待て」
だ、駄目か。流石に魔術に素養があるアルベルトは誤魔化しきれないか。
俺は観念し目を瞑る。
「聞き捨てならないな。言っておくがロイドと相性が最高なのはこの僕だ」
「ええー……」
ディアンは不服そうに声を上げ、俺はずっこけそうになる。
アルベルトが変なところで張り合い始めた。
よくわからんがとりあえず誤魔化せたようだしな。
今度からはもっと弱めの術式を組んでおこう。