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グールとバトルします。前編

「ヴォォォォォォォォ!」


 咆哮を上げるグール。

 どうやら住処を荒らされて怒っているようだ。

『陽光』の光を嫌がってはいるがそれでもダメージはあまりないようで、怒りの方が大きいようである。

 ずんずんと近づいてくるグールの前に、レンとシルファが立ちふさがる。


「下がってて、ロイド!」

「ここは我々にお任せを」


 ふむ、ここは二人に戦ってもらうとするか。

 試してみたいこともあったしな。


「じゃあ二人とも、これを使って」


 手渡したのは『光武』にて作り出した光の剣だ。

 シルファのは長剣、レンは短剣、共に二刀流である。


「これは……魔術の剣ですか。このような事も出来るのですね」

「わ、この剣すごく軽いよ。それに硬い」

「神聖魔術の一つだ。これが実戦でどの程度使えるか見てみたい」

「了解いたしました。いきますよレン」

「はいっ!」


 シルファとレンは共に剣を構え、グールへと向かっていく。


「シャァァァッ!」

「っと!」


 鋭い爪を振り下ろすグールだが、レンはそれをあっさり躱す。


「避けてはいけません、レン」

「へっ!?」


 突然のダメ出しに、レンは目を丸くする。


「躱してしまってはその剣の実験にならないでしょう。受けて強度を確かめなさい。……このように」


 シルファは手本を見せるかのように、グールの攻撃を光の剣で受ける。

 すぱっ! と光の剣に触れた爪は切断された。


「ヴォォォァァァ!?」

「良い切れ味です。強度も十分。素晴らしい剣ですね、ロイド様」

「それはよかった」


 シルファのお墨付きなら使用に問題はなさそうだ。

 グールの爪を拾って断面を見てみると、少し焦げたような跡がある。

 先刻スライムを焼いたし、神聖魔術は強い熱を発するようだな。


「なるほど、その光の剣で何が出来るかを知りたいんだね」


 シルファの戦いぶりを見てレンは頷く。


「そうだ! じゃあ剣にボクの毒を乗せたらどうなるか、見てみたいでしょ?」

「出来るのか?」

「多分。やってみるね」


 レンが気合を込めると、手のひらに黒い霧が生まれた。

 それが光の剣に吸収され、青色に染まっていく。


「おおっ、すごいなレン。ここまで能力を制御出来るようになったのか!」

「えへへ、ロイドに教えてもらったからね!」


 誇らしげに胸を張るレン。

 光の剣は『光武』により作り出した魔力の塊。

 故に他系統の魔力を混ぜれば、また違った形を成す。

 なるほど、これも合成魔術の一種と言えるだろうか。

 術式や詠唱に固執せずとも、魔力同士を直に混ぜ合わせる事で似たような現象が起こるのは道理。

 魔術師ではないからこその柔軟な発想である。


 だが口で言う程簡単ではないはずだ。

 自身の能力について相当深い理解をしていなければ、既に実体と化した魔力に混ぜ込めるなんて出来るはずがない。

 毎日術式や能力制御について学ばせていたのが実を結んでいるようである。感心感心。


「じゃあ攻撃するよ……てやぁっ!」


 レンの斬撃がグールを捉える。

 吹っ飛ぶグールだが、大して効いてはいないようだ。


「あ、あれ? さっきは斬れたのに……?」

「レンの毒が混じって、神聖魔術が濁ったからだろうな」


 他の魔術はともかく、神聖魔術はかなり強い制限がある。

 そういった魔術は非常にデリケートで、下手に術式を弄ったり加えたりするだけで効力が激減するのだ。

 レンの毒が混じった事により神聖魔術の持つ浄化の効果が十全に発揮されず、グールに十分なダメージが与えられなかったというわけだ。


「むぅ、上手くいかない……」

「いや、おかげで面白い事を思いついたよ」


 そう言って俺は『光武』にて光の剣を発現させる。

 俺が魔力を込めると、光の剣が紫色に染まっていく。


「先刻と同じ……? ですがロイド様、それではレンの二の舞では……」

「まぁ見てなって」


 紫色に染まった光の剣を、グールに突き立てる。

 するとその箇所を中心に、ヒビが広がっていく。


「ガ……ァ……!?」


 苦悶の声を上げながら、グールは乾燥した土が崩れるように崩壊していく。


「え? な、なんで……?」

「毒系統魔術……その特性のみを合成してみた」


 魔術には様々な特性がある。

 炎は燃え広がり、氷は冷えて固まり、風は広範囲を高速で移動するように、毒は犯した箇所から徐々に全体へ広がっていくという特性がある。

 それのみを取り出し、光の剣に付与したのだ。

 これなら神聖魔術の特性を殺すことはない。


「ほう……さしずめ聖属性の毒、とでもいったところでしょうか。神聖魔術にこんな使い方があるとは……やはり人間の魔術センスは非常に優れていると言わざるを得ないでしょう……いや、ロイド様が凄まじいだけなのかもしれませんが……」

「神聖魔術は神どもが対立する魔界相手に優位に立つべく創り出したもんだ。俺たち相手には非常に強力ではあるものの、それ故に大した使い方をする奴もいなくて全く進歩もしなかった。だがロイドに好き放題やらせたら、凄まじい進歩をしそうだぜ……進化した神聖魔術の情報を天界に持ち帰られたら、魔界の連中は泡を吹くだろうな。まぁそのうちこいつの身体を乗っ取る俺には関係ないがよ」


 ジリエルとグリモが何やらブツブツ言っている。

 とりあえず神聖魔術には他の魔術とは違った使い方がありそうだ。


「オンッオンッ!」


 遠くでシロの鳴き声が聞こえてきた。

 おっと、また魔物を追い立ててくれたようだな。


「ん? 妙だな……」


 何か違和感を感じつつもトンネルから出てくるものを待つ。

 だが飛び出してきたのはネズミではなく、シロだった。

 一体どうしたのだろう。

 俺の疑問は次の瞬間、解決した。


「ヴォォォァァァ!」


 飛び出してきたのはグールの群れだった。


「グールの目撃情報は街中にあった。つまり下水道には相応の数がいるという事になりますね」

「も、もっといるかもしれないってこと!?」


 大量のグールに囲まれ、二人はじりと下がる。

 沢山の実験台が来て俺としては嬉しいが、少々危険かもしれないな。

 シルファがいるから大規模な攻撃魔術は使えないし、普通に戦えば『微風結界』が破られるかもしれない。

 そうなると――服が汚れる。それは避けたいところだ。

 戦い方を考える必要があるか。


「おや、なんでロイドたちがここにいるあるか?」


 そんなことを考えていると、トンネルの一つから声が聞こえる。

 ひょこっと顔を出しているのは、タオであった。


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