夢の中の再会3
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お父さんはニコッと笑うと、スーッと空気に溶けるように消えていく。
(そんな…これで終わり? もっともっと話したい事があるのに!)
「待って!」
俺は思わず手を伸ばして…そこで目が覚めた。
ベッドに横たわったまま伸ばした右手の向こうには、見慣れた天井があるだけ。
(…?)
いきなり光景が変わった事に少し混乱したけれど、だんだんと覚醒してきてた。
「…夢か」
ぱたり、と力なく腕を降ろして夢の内容を反芻する。
昔と変わらない温かくて大きな手。幸せになりなさいと言った時の優しい笑顔。
愛に溢れた最後の言葉を思い出して、目尻にじわっと涙が滲み、手の甲で目元を覆った。
(あれは記憶なんかじゃない。本当のお父さんだった)
シヴァが夢の内容を操れないというのは、嘘じゃないだろう。そもそもシヴァは漢字を知らないから、名前の由来やそこに込められた意味を知り得ない。
(お父さんが妹に生まれ変わるとか、かなり衝撃的な内容だったけど、妙に話の筋が通ってたし。でも、お母さんの再婚を認めるとは思わなかったな)
お母さんの気持ちも分るから仕方ないって、そんなの俺だって分ってる。
でも、あんな風に簡単に言って欲しくなかった。ちょっとムカつく。
(3人家族から2人家族になり、とうとう1人きりになったと思ってたら、知らない間に4人家族になってたんだよ!? しかも新しい家族は人外だよ!?
お母さんが生きててくれて本当に嬉しいし、シヴァとガロンには本当に感謝してる。
でも家族の形が短期間でこんなに変化したら、誰だって戸惑うだろう!?
思春期真っ盛りの俺が反発して距離を置くのも仕方なくない?
…お父さんだったら、誰よりも俺の気持ち分ってくれるって思ったのにな)
でも違った。
幸せだった過去に戻りたい俺と違い、お父さんは未来に思いを馳せていた。
お母さんは、現在を精一杯生きてるって感じがする。
(俺はお父さんとの約束を拠り所にして、過去に囚われてた。お父さんはきっと、呪縛を解きにきてくれたんだ。俺が前に進めるように)
考えてみれば、勇者になったのだってお母さんの仇を討つ為。
魔王を討った後の事は、何にも考えてなかった。
(…まあ、もしも魔王討伐に成功してたら、俺の人生そこで終わってたんだけどな)
一宮蓮という人間はいなくなり、魔王として復活と封印を繰り返す事になっていただろう。
それこそ、世界が終わるまで永遠に。
そう思うと、ちょっとゾッとする。
(俺の未来を守ってくれたのは…お母さんだ)
俺が俺である為に。
そしてお父さんは、立ち止まったままの俺の背中を押してくれたんだ。
家族の形は随分変わったけれど、変わらない物もあった。
俺はお父さんとお母さんの大きな愛情に、今でも守られている。
そう思ったら、なんだか気持ちが楽になった。
顔から手を離し、ジッと手の平を見つめる。
(未来…か。俺はこれから、どうすればいいんだろう?)
「起きるか…」
顔を洗おうと部屋を出ると、先生も大あくびしながら部屋を出てきた。相変わらず寝癖が凄い。
「先生、おはよう」
「おはよう。…お父さんの夢は見れたかい?」
「うん」
「そうか。良かったな」
先生はそう言ってニコッと笑った。
「うん。先生の言った通り、自分が思い描いていた内容ではなかったけどね」
「その割には、満足そうな顔してる。いい夢だったんだ?」
「ん〜…微妙」
さすがにあの内容は、誰にも言えない。
俺の言葉に何か察したのか、先生はそれ以上何も聞かなかった。
お母さんだったら絶対に根掘り葉掘り聞いてくるから、こんな風に詮索しすぎない絶妙な距離感は心地いい。
顔を洗ったら、気持ちもさっぱりした。
「ねえ先生。俺、これからどうすればいいかな?」
俺の漠然とした質問に、先生はキョトンとした顔をする。
「将来についての相談かい?」
「うん。勇者ってもうこの世界に必要ないじゃん」
「前も言ったけど、勇者って魔王を討伐するだけじゃないよ。誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた人、あるいは成し遂げようとする人の事だ」
「とにかく、俺もう勇者じゃないし、どうすればいいか教えてくれない?」
「それは誰かに教わるものじゃない。どうしたいか、何をやりたいか。それは自分で考えるものだよ」
先生は真面目な顔で俺を見た。
「勇者になって魔王を討つという目標を失って、どうしたらいいか分らないのは分るよ。でもそもそも勇者という肩書きは、他人から押し付けられたものだろう?」
「…確かに」
「何がしたいか分らないのは、きっと視野が狭くなっているからだ。自分が何を望んでいるか、どうなりたいか、もっと自分自身と向き合ってご覧」
「俺が、どうなりたいか…」
世界の理が変化し、俺の運命も変わった。
目を閉じて集中すれば自分の身の内に流れるエネルギーだけでなく、世界の流れも把握出来る。
例えば今、遥か南の島では嵐が起こってるし、北の国では火山が噴火している。
「せっかく超人的なパワーを貰ったから、有効活用したい。でもこの力をどうやって活かせばいいか、まだ分らないんだ」
「それなら色々な事を学んで、世界を広げなさい。決めるのは、それからでも遅くない。自分が教えられる事なら協力するから」
「うん。ありがとう、先生」
「己が何をしたいか決めるのは、本当に大切だよ。自分みたいに目標もなく生きてたら、知らない間に変な肩書きを背負わされるからね」
本当にいい迷惑だ、と先生は顔をしかめた。
賢者って、なろうと思っても簡単になれるものじゃない。それを変な肩書きといって迷惑がるのは、世界広しと言えど先生だけだろう。
「やっぱり先生って変わってるよね。面白い」
「えっ!? 面白いって何が? 真面目に答えたのに…」
明けましておめでとうございます。
昨年の12月は体調を崩したり、色々と忙しく更新出来ませんでしたが、
今月から頑張って更新したいと思います。
コミカライズの連載終了で、沢山の励ましをいただき、ありがとうございます。
今年も皆さんが面白いと思っていただけるよう頑張ります。