アルヴァン1
城に着くと魔王が出迎えてくれた。隣にはフォルノスが居てしっかりセンジュを睨んでいる。
恒例になった魔王のハグ攻撃を早速受けた。
「センジュ~~!お帰り~!どうだった!?セヴィオの屋敷は!親睦は深まったかい!?」
「パパ・・そろそろ、暑苦しいんだけど・・おぉ」
ぎゅううっ
加減を覚えたとはいえその力の強さは愛情を示している。
「ごめんごめん。ついね」
_いつか圧死しそうだよ、パパ。
センジュを引き渡したセヴィオは魔王の前に跪いた。
「お役目完了致しました。それと、こちらが昨日の件の報告書です」
「ん、ご苦労様。フォルノス読んでくれ」
「は」
笑顔の魔王の前でフォルノスがセヴィオから報告書を受け取った。
「・・薬か。だろうな。本来なら昨日の様な手こずりはしまい」
「ああ、間違いなく・・生け捕りは出来ず申し訳ありません。魔王様」
「ん、まあ昨日の一件があったという事は、もう一回くらいは何処かであるだろう。
様子を見る事にしようか。全領土の警備を怠らないようにね」
「かしこまりました」
「御意」
フォルノスとセヴィオは魔王に深く敬礼した。
「では、俺は戻ります」
立ち上がったセヴィオにセンジュはお礼を告げた。
魔王には内緒だが、フォルノスから救ってくれた事や宿泊の件だ。
「セヴィオ・・」
「ん?」
魔王とフォルノスが見ている。
様子を伺っている。昨日の今日だ。
その視線は多少気になったがセンジュは勇気を振り絞った。
「昨日は美味しいお食事ありがとう。あと、ケガお大事にね」
「ああ、あんたならいつでも歓迎する。じゃ、また」
嬉しさを隠さず耳を真っ赤に染めながらセヴィオは自分の屋敷へと戻って行った。
その様子を見ていた魔王はニヤニヤと不敵に笑っている。楽しそうだ。
「センジュ、セヴィオはいいヤツだったか?仲良くなれたかい?」
「うん・・喧嘩もしちゃったんだけど・・セヴィオは私なんかよりもずっと大人だった・・私も見習わないと」
「そうか。センジュがそう言ってくれてパパは嬉しいよ」
「セヴィオはパパの役に立つ人だよ。だから・・」
「ああ、わかってるよ。一緒に成長を見守ろう。約束する。それにしても・・
そんな事が言えるなんてセンジュは流石パパの娘だなああ」
スリスリスリスリッ
頬が擦り切れそうな程すりすりされた。
「いたたたっ、パパ!それは嫌っ!もう年頃だからね私!」
「ええ~そんな~センジュとのスキンシップが毎日の楽しみなのに~」
「勝手にそんなルーティン作らないでっ」
「お楽しみ中、失礼いたします」
部屋に響き渡る程圧のある声が聞こえ、振り返るとアルヴァンが魔王の背後に跪いていた。
「アルヴァン到着いたしました」
「うん、ご苦労」
魔王に挨拶を済ませるとアルヴァンはセンジュの方へと向かい礼儀正しく挨拶をした。
「本日は姫君の護衛を仰せつかりました。どうぞよろしくお願いいたします」
「あ・・はい。よろしくお願いします」
_凄いかしこまり方。ちゃんと見ると真面目そうな人だな。映画で見た軍人さんみたい。
しかしもやもやと脳裏に浮かぶのは初めての晩餐会の夜だ。
センジュの唇をいち早く奪ったのはアルヴァンだったからだ。
_あの時はお酒が入ってたから酔ってたのかもしれない。うん、そういう事にしておこう。
「じゃ、センジュ。パパはまた仕事に行ってくるよ」
「あ・・うん。いってらっしゃいパパ」
きゅんっ
魔王の眼が輝いた。
「はぁー。娘がいるっていいなー!どんなキツイ仕事も頑張れるね」
「・・さようで」
ニコニコしながら手を振る魔王の背後をフォルノスが付き添いながら歩く。
「ではアルヴァン、姫を頼む」
「ああ、わかっている」
フォルノスとアルヴァンはお互い目を合わせると軽く頷いた。
アイコンタクトで何かを伝えた様だ。
「では姫君、行こうか」
「え?何処へ?」
「訓練所だ」
「・・・あ、はい」
フォルノスから力の確認を引き継いだらしい。
センジュは連れられて訓練所へと赴いた。
訓練所の的の前で先日と同じ様に手をかざしてみたものの、特になにも力は発揮されなかった。
それにはアルヴァンはただ頷くのみだった。
「まだ二回目だし、気長に行こう。もしかしたらセンジュは攻撃系の力ではないのかもしれないし」
「はい」
「魔王の娘という事で皆過度の期待をしているのだろうが、出ないものは出ないだろうしな」
「はい・・」
「落ち込む必要はない。力がないと決まったわけでもないし、そう焦る必要もないだろう」
その言葉にホッとした。
「ありがとうございます」
「まあ・・本当なら一人になった時に起きた危険を回避するために力は常に備わっていた方がいいのだろうがな」
「あ・・そうなんですね」
_なるほど、そういうことか。確かに自分で身を守れるに越したことはないよね。
「だが、我々も護衛に着く。安心しろ」
「はい、ありがとうございます」
ニコリ。
と白い八重歯を見せアルヴァンは頷いた。
センジュの目には真面目な大人に見えた。
「そうだ、まだセンジュは街には出向いてないだろう?」
「街・・ですか?はい」
「よしよし、この魔界の街を案内してやろう」
_魔界の街。名前だけ聞くとおどろおどろしいけど・・でも今後の為にも知っておかないとね。
「よろしくお願いします」
アルヴァンの用意した馬車に乗り、センジュは街にたどり着いた。
「欧風だ・・」
外国に旅行など行った事もないセンジュはヨーロッパもテレビでしか見た事がない。
レンガで出来た家が建ち並ぶ、緑あふれる街並みだった。
どこからかお菓子を焼いている匂いがする。
「別の国に来たみたい・・あ、別か」
独り言を言っているとアルヴァンが隣で笑いを堪えていた。
「可愛い発言だな。街を見ただけで目を輝かせて」
「私、日本から出た事もないし・・というか魔界って意外と人間界と同じ様な作りをしているんですね」
「そうだな。だがお前の住む国の様に発展している訳ではない。魔王様がそれを許していない」
「どうして?」
「過度の発展は魔界を滅ぼす。便利になればなるほど魔族の戦いはより激しくなるだろうとお考えだ」
「へえ・・パパが」
「否定する輩もいるが、あの方の力の前では無力だ。いくら現代の先進国の様な発展を遂げても一瞬で消え去るだろう」
「あ・・なるほど」
_山を消したって言ってましたもんね・・確か。
「このくらいで丁度いいと皆思っているだろうな」
「そうなんですね」
馬車から降りると木々に囲まれたレストランが見えてきた。
ガラス張りで出来た入り口には巨木が伸び伸びと立っている。
「ふわ・・綺麗」
「気に入ったか?」
「あ、はい」
アルヴァンはセンジュの手を取って中へと向かった。
レストランに入ると、予約してあったのか一番奥のテーブルに通される。
向かっていると食事している魔族たちが驚いている様だった。
もちろんアルヴァンにだ。
「あの、視線が凄いですが」
「そうだな。だが丁度カーテンで仕切れるようになっているから平気だろう。
私服の部下が近くで待機している」
_あ、もしかして四大魔将がいるっていう事自体凄いって事なのかな?
なんか嬉しそうに眺めている人もいたし。睨まれてる感じじゃなかったし。きっとそうだ!
「俺はこういう庶民的なレストランが好きなんだが、なかなか来れなくてな。
姫の護衛という特権をもらったのでチャンスだと思ったんだ」
「あ・・ありがとうございます」
_そんなこと言ってるけど、きっと私の為に連れてきてくれたんだ。気を使ってくれてる。
テーブルの席に着くとおしゃれなワイン色のカーテンで仕切られた。
厚手で声も外には漏れないだろう。そしてそのカーテンの前にはアルヴァン直属の部下が立っている。
「この方がゆっくり話も出来るしな」
「あ・・はい」