四大魔将
「初めまして、私はフォルノスと申します。我らは王に選ばれし四大魔将を務めております」
見るからに冷酷そうな顔つきの男が初めに挨拶をした。表情が氷の様だ。隻眼なのか右目に眼帯をしている。ギラリと銀に光る瞳を持っている。
「私はエレヴォスと申します。同じく四大魔将の1人です。お見知りおきを」
ニコニコと優しそうに微笑んでいるが瞳の奥が怪しく光っている。何か野望を抱いていそうな顔つきに見えた。所作が水の様にしなやかな人だ。
「同じくセヴィオです」
セヴィオと名乗る少年は挨拶が面倒なのかお辞儀をした後すぐに顔を伏せた。燃える様な朱色の髪をした少年だ。
年はセンジュと同じくらいだろう。
「同じく四大魔将アルヴァンだ。よろしく頼む。我らが姫君」
最後に口を開いた男は自信に満ち溢れんばかりの顔をしていた。髪はグリーンアッシュの短髪。
強靭そうなを体格をしている。争う事が好きそうな雰囲気だ。まるで雷の様な強い光を瞳に宿している。
4人は挨拶すると改めて深々とセンジュに向かって首を垂れた。
「あ・・の・・?」
状況が把握出来ず父に顔を移すと、にっこりと変わらぬ笑顔でセンジュに告げた。
「単刀直入に言うとね、この中の誰かとお前には結ばれて欲しいんだ」
「・・・はい?」
「王女たるお前の結婚相手に相応しいのは四大魔将と呼ばれる魔界の中で最も位の高いこの4人のみ。それ以外は受け付けないよ」
「いやいや、えっと・・待ってください!展開について行けませんっ」
焦るセンジュは肩に乗っている父の手から離れようとしたが、逃さないと言わんばかりに強く引き戻された。
「おっと」
父の声のトーンが変わり、ドキリとセンジュの心臓が跳ねた。
初めて父は笑顔を解き、魔界の王らしい面持ちでセンジュを見つめている。
ギラリと光る瞳は威圧的だ。
「いいかい?この世界では私が絶対なんだ。・・ここまで言えばもうわかるだろう?」
「え・・・と」
ぞくり、と背筋が勝手に凍りついた。
それほど父の眼光は鋭く、センジュの心を貫いた。
低い声も全身に稲妻の様に響く。
「そうだ、この者達に色々と教えてもらうといい。この世界の事も、これからの生活の事も」
センジュはその言葉で全てを悟らされた。
_つまり、この魔界という場所で一生を終えろという事?二度と人間の世界では暮らせない?
普通の暮らしが出来ない?
恐怖に瞬きも出来ずセンジュは硬直した。
それを見て父はセンジュの頭に頬ずりをした。我に返った様な素振りだ。
「ああ、ごめんごめん。怖がらせるつもりは無かったんだ。
私はセンジュには幸せになって欲しいと思っているだけなんだよ」
「あ・・あの・・」
「それと、私の事は気軽にパパと呼んでね。アンジュの事はママと呼んでいたんだろ?」
「あ・・はい・・」
「センジュとは親子として仲良くしたい。今まで父親らしい事をしてやれなかった分と、死んでしまったアンジュ分も」
鋭かった眼光はふんわり元通りの笑顔に戻っている。
何も言えなかった。
反論出来なかった。
それほど父の眼はセンジュに恐怖を植え付けた。
逃げ出せる状況でもない。
とにかく大人しく従うしか術はなかった。
「じゃ、そういう事でお前達、センジュを頼んだよ」
「御意に」
父はセンジュから離れると手を振って部屋を後にした。
センジュは立ち尽くした。
どうしたらいいのかわからない。
自分の意思は恐らく尊重されないだろうと悟った。
見た目は人間に近しいが人間ではない、異様な雰囲気を放つこの4人とどう接すればいいというのか。
「・・」
立ち尽くしていると、 一番にアルヴァンがセンジュに近づいた。
「・・まさか本当に存在しているとは」
「・・あの・・?」
「ああ心配するな。お前のお父上は職務に向かった。夜の晩餐までには戻るだろう」
「あ、そう・・なんですね」
そんな事が聞きたかったわけではないが、とりあえず頷いた。
「おや、アルヴァン。真っ先に姫君に興味を示すとは、次の魔王の座を狙っているのですか」
と皮肉を言ってきたのはニコニコと作り笑顔の様な微笑みをかけるエレヴォスという男だ。瞳は笑っていなそうだ。
「エレヴォスお前こそ、その瞳の奥に野心を抱いているとちまたでは噂になっているが?」
「それはそれは、そのような噂が流れているなんて幸栄です」
「お前達よさないか。見苦しい」
と火花を散らす2人の間に入ったのはフォルノスという冷酷そうな男だった。
表情を表に出さない主義なのか、元々なのか解らないが冷たい瞳でセンジュを見下す。
「センジュ、とにかくこの中で伴侶を選んで欲しい。それ以外は認められない」
「こ、困ります、そんな事急に言われても・・」
「あの方のお申し付けは絶対だ。聞き分けろ」
「・・」
_何この人、とてつもなく高圧的・・怖い。
困り果てフォルノスから目を背けると、セヴィオという少年と目があった。
「ぁ・・」
_同い年くらいかも・・
口を開こうとした瞬間にセヴィオは目を背け扉に向かって歩き出した。
「正直全然興味ないけど、あの方の命令には従う。仕事としてな」
「!?」
_な、なんて失礼なヤツなの・・。絶対無理なんだけど!!絶対に拒否なんだけど!!こっちだって願い下げだよっ
「あの、本当は無理に父に合わせる必要はないんでしょ?私は誰とも一緒になる気はありませんから・・放っておいてください。後で父にも言いますから」
「は・・何を馬鹿な事を」
その場にいた4人は愕然としていた。出ていこうとしていたセヴィオの顔が青ざめている。アルヴァンもエレヴォスも、表情がないと思っていたフォルノスでさえも。
そして代表する様にフォルノスがセンジュの肩を両手で掴んだ。
「魔王の決めた事は絶対だ。覆ることは無い。唯一覆るとすればそれは魔王の意思のみだ。お前から言っても無駄だ」
「え・・でも・・痛・・」
ぐぐっ
と肩に指が食い込む。
「余計な事を言ってみろ。お前も消されかねんぞ」
_あの人ってそんなに非道なの!?こんな強面の人達が真面目な顔で訴えてくるなんて・・
「いいな?今後お前は王女として大人しくしていればいい。あの方に従え」
「そんな・・」
「あの方が選んだ。17年前にお前の母親をな。そしてこれも運命と思い受け入れろ」
_どうしてパパはママを選んだんだろう。人間じゃないのに・・?
疑問に浮かんだが、そんな事よりもフォルノスの眼がセンジュを硬直させるほど鋭く訴え続けた。
魔王に次ぐ恐怖の瞳だ。
「は・・い」
センジュが頷くとフォルノスは手を離した。
肩に食い込んだその感触はしばらく消える事はなかった。