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地球編「トラックに息子を奪われた母ですが、『小説家になろう』と思います」その8(中編)

 タカシがパソコンに遺したあらすじのメモには、以下のように書かれていた。


『――新たな敵は、火縄銃に似た武器“魔砲”を使う。火薬でなく火属性魔法で弾を発射』

『――銃の存在を知る地球人のタカシだけが、この武器の怖さを知る』

『――銃身に熱湯をかけることで金属が熱で膨張し、弾が中でひっかかる。銃身が破裂しタカシ勝利』


 フミエは、最後の『銃身に熱湯をかけることで金属が熱で膨張し』が本当にできるかどうかを試そうとしていたのだ。


 その結果……。



「ああ……やっぱり駄目だわ! どうしましょう? このままじゃ、タカシが死んじゃう……!!」



 目に、涙を湛えていた。

 ついさっきまで、あんなに上機嫌だったのに。


「お母さん、泣くことないじゃない」

「貴方はまた、そんな薄情なことを! お兄ちゃんのこと心配じゃないの!?」


 またはじまった。

 この母親は最近明るくなり、毎晩にこにこと楽しそうにキーボードに向かっていたが、その一方――。この手のかんしゃくを起こす頻度は、前より多くなった気がする。


 にこにこ(・・・・)かんしゃく(・・・・・)。この二つは、きっとセットだ。一見真逆でありながら、それでも相反する感情であるまい。


(お母さん、このごろ小説に『入れ込み』すぎだな。前からひどかったけど、今はもっとひどい……。ホームページできて楽しくなったからなんだろうけど――)


 ある意味、娘からのプレゼントを堪能していると言えるのだろう。だが、チカにとってはうんざりだ。


 せっかく片山と組んでまで新しい玩具(インターネット)をフミエに与えたというのに、そのせいで逆に苦労する羽目になるとは。


 そもそも、どうして『タカシが死んじゃう』などという結論になるのか?


 書いている母が殺さなければいいだけではないか。このタカシは、ただの小説の主人公にすぎないのだから。作者のさじ加減ひとつであるのに。


(本当に、異世界で生きているわけじゃ――そう信じてるわけじゃあるまいし……)


 やはり、入れ込みすぎている。


「あっ、いけない。あたし、部屋で宿題しなきゃ」


 チカは適当な言い訳でその場から去ろうとしたが、母の怒声で呼び止められた。



「待ちなさい! あのねチカ、よく聞きなさい。この“魔砲”という武器を使う敵……魔傭兵アームストロングは、ものすごく強い敵なのよ? シルヴィアちゃんやランスロット姫たちは大怪我をさせられて、タカシはみんなの傷を治すフェニックスの羽根を手に入れるために、この敵と一対一で戦わなきゃいけないの。――なのに、なにが宿題よ! 負けたらみんな死んじゃうのに! チカはタカシや仲間のみんなが死んじゃってもいいの!? どうして貴方、そんな子になっちゃったの! 昔は優しい子だったじゃない!」



「そうは言うけどさ……」


 今だって、母親の与太話を最後まで聞いてやる程度には優しい子だ。


(だいたい、そんな小細工使わなくても、この主人公(タカシ)強いじゃないの。伝説の剣とか持ってるんだし)


 剣も魔法も使えないが、地球の科学知識があるから強い……そんな基本の設定はすでに揺らぎ、曖昧なものとなっていた。


 今回、勇者タカシ一行が危機に陥るのは、単に『最初に決めたあらすじに、この敵の凝った倒し方が書かれていたから』というだけにすぎない。


(ほんと、お母さん、いいかげんにしてくれないかな……)


 とはいえ、このヒステリーにもさすがに慣れた。

 対策もすでにある。


「あれっ? でもお母さん、玉が落ちるの、普通より時間がかからなかった?」

「えっ……? 本当に?」

「うんっ。あちこちパイプの中でひっかかってたんじゃないかな? ころころって音も、うんと多く聞こえた気がするよ」

「まあ……」


「敵の武器がどんなものかは知らないけど、本物の鉄砲みたいに複雑なものだったら、今ので壊れてたんじゃないかなぁ?

 さっすが、お兄ちゃん! 頭いい! ほんとにこれだけで銃って壊せるんだね! さすが!」


 この『さすがお兄ちゃん』も、今週だけで何度か目だ。


 母親をなだめるために毎回このフレーズを言っている。

 ――チカにとっては鳥肌が立つような台詞だが、どうやらフミエはお気に入りらしく、これを聞かせると早くヒスが収まった。


「じゃあ、チカ……タカシは魔傭兵アームストロングに勝てるの?」

「もちろんだよ! 魔傭兵アームストロングに勝てるよ! だって、お兄ちゃん強いもん!」


 我ながら、相変わらずの名子役ぶり。歯の浮くような台詞だったが、母の機嫌は直ったらしい。


 その後、ふたりはリビングへと戻り、もう一度湯を沸かして紅茶を淹れる。

 今日のおやつはチョコレートクッキー。もちろんフミエの手作りだ。



 チカは、本当は胸をむかむかさせていたが、顔だけは笑顔でおやつを食べた。


【作業メモ(※自分用)】

“魔砲”や“魔傭兵アームストロング”というネーミング、少し凝りすぎてる。あとで修正。

 上手いこと言わず、もっと雑な方がタカシが考えた感じになりそう。(ジョーンズとかくらいの英語の名前で。あるいはドイツ人風?)

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