第三十六話 黄金の三頭竜(4)
『グオオオオオオオオォォォォーーー!』
信長がキングヒドラの首の切り口に打ち込んだ火魔法は、内部から組織を焼いていく。残っている首は断末魔を上げながらのたうち回った。
『人族よ・・・なぜ邪魔をする・・・・それに・・・あの爆発は・・・魔力を感じなかったのに、なぜあのような力が・・・・いったい・・・・』
「けっ!こんな幼い少女を喰おうなんてバケモノを退治するのはなぁ、ヒーローの仕事って5億年前から決まってるんだよ!それにあの爆発は“カガク”って言う新魔法だ!」
信長がキングヒドラ口に投げ入れたのは、ニトログリセリンを小麦粉と混ぜて練り上げたものだ。液体のままだと衝撃で爆発してしまうが、珪藻土や小麦粉などと混ぜれば、衝撃を与えても爆発しにくくなる。それを木筒に入れておいたのだ。
『我が消滅すれば、この森にもうオーガ族は住めぬ。それでも良いのか?』
「はっ?なんだそりゃ?オーガ族なんて知らねーなぁ。こんなカワイイ娘を生け贄に出すような連中は滅びればいいんじゃねーのかぁ?」
『くくく、面白いことを言う。我はこの森の魔素を吸い上げておる。しかし、それも88年で限界が来るのだ。そして、オーガ族の子供を喰らい、その魂を使って溜まった魔素を固定する。そうしなければ、この森は魔物であふれかえってしまうのだ。だから、古き盟約によりオーガ族の頼みを聞いてやっておる。しかし、貴様の言うとおりだな。同族の弱き者を犠牲にするような奴らには、滅びの運命が似合っているということか』
「ああ、そういうことだ。俺様は弱い者いじめは大っ嫌いなんだよ。俺はなぁ、この世界を支配する為に来たんだ!そして弱いヤツでも安心して暮らせるようにするんだよ!誰にも邪魔はさせねぇ!わかったか、このひ弱なトカゲ野郎!」
『・・・・・面白い。お前の行く末が栄光へと続くのか、はたまた地獄へ続くのか見てみたくなった。我と契約するがいい。さすれば、我はお前の最後を見届けることが出来るであろう。そして、我の力をお前に貸してやることができる。それと我が名はケートゥだ。覚えておけ』
「家来になるってことか?それなら歓迎するぜ!俺は来る者は拒まねぇんだ」
ケートゥは金色の光に包まれた。そしてその光が収まった跡に、一本の槍が残されていた。
「信長様、これは?」
「ああ、さっきのケートゥというやつの一部、いや、本体らしいな。俺の力になるらしいぞ」
「美しい槍ですね。トライデント(三叉槍)ですか。確かにすさまじい魔力を感じますね」
力丸がその槍をまじまじと観察する。長さは3メートルくらいとかなり長い部類に入る。そして穂先は三つに分かれていて、ケートゥの首を表しているようだ。
「よし、じゃあそのオーガの村に行ってみるか。おいお前、村まで案内しろ。それと、名前を聞いていなかったな。なんて言うんだ?」
岩陰に隠れていた緑色の髪の少女はゆっくりと出てくる。そして信長の目の前まで進んできて、信長に抱きついた。
かなり身長差があるので、少女の頭は信長の胸の少し下あたりに埋まった。
「あらら、信長くん、なつかれちゃったみたいね。そりゃ目の前で命がけで守ってもらったもの。乙女心もくすぐられるわよねー」
「なんだ、ガラシャ?焼き餅焼いてんのか?」
「焼き餅なんか焼いてないわよ!勘違いしないでよね!」
ガラシャがぷいっと横を向く。蘭丸達はそのやりとりを見ていて苦笑いを浮かべていた。
「私の名前はエーリカ。助けてくれて、ありがとう・・ございます。でも、村が・・・・・」
少女は顔を埋めたまま返事をした。どうやら泣いているようだ。
「エーリカか。よし!お前も俺様の家来にしてやる!どうせお前は村のいらない子なんだろ?これからは俺が主になってやるぞ!」
「“いらない子”って・・・信長くん、言い方!そういう所よ!」
「はい、信長様。この命のある限りお仕えします」
エーリカはそんな信長の暴言を気にすることも無く、信長の家来になることを誓った。
「いいの?エーリカちゃん!この男、本当にまともじゃ無いわよ!近くにいたら何されるかわからないからね!」
「おいおい、ガラシャ。お前、俺のことそんなふうに見てたのかよ?まあ、それはともかくあのケートゥが居ないと森が魔物であふれてオーガ族が住めなくなるって事か。とにかく行って話を聞いてみるか。どちらにしても子供を生け贄に出すようなやつは生かしちゃおかないがな」
そんな信長を、エーリカは不安そうに見上げていた。