×

【解説】日銀が追加利上げを決定 物価見通し上方修正 トランプ大統領影響は?

2025年1月24日 17:10
【解説】日銀が追加利上げを決定 物価見通し上方修正 トランプ大統領影響は?
日本銀行は金融政策決定会合で、追加利上げを行い、政策金利をこれまでの0.25%から0.5%に引き上げることを決めた。その背景は? また、トランプ大統領就任で、今後の日本経済への影響は? 経済部・宮島香澄解説委員が、植田総裁の会見を読み解く。

  ◇ ◇ ◇

――ここからは日本銀行の植田総裁の記者会見について、経済部の宮島(香澄)解説委員とお伝えします。

金融政策決定会合は、たった今植田総裁の記者会見が終わりました。どんな内容でしたか?

宮島:今回は日銀は利上げするだろうなと、投資家の多くが思っている中での利上げでした。ですから、多くの記者の関心は、今回の利上げの理由もありますが、この後の利上げをどうするかに集まっていました。いろんな形で質問が飛びましたが、曖昧な印象、強いメッセージを与えないようにしているのか、会見として慎重で、とても言葉を選んでいる印象でした。

■総裁会見のポイント

――では中身のポイントはどうでしょうか。

まず政策の内容です。今回政策金利を0.5%程度に引き上げました。これはおよそ16年ぶりの水準です。

今回は展望レポートで日銀の見通しが示され、消費者物価の見通しは、来年度2.4%、コアコアは2.1%ということで、前回展望レポートが出たときよりも引き上げられました。

賃上げと販売価格への反映の動きが広がっていると話しました。物価はしっかり上がっているし、賃上げもこのまま続きそうだということで、この見通しがしっかりと実現していけば、引き続き利上げをするということです。これが今回の利上げの判断の理由ですが、次どうするかっていうのがなかなか見えないんですね。

アメリカ新政権の政策への質問もいくつか飛びましたが、アメリカ新政権は出だしは予想の範囲内と。そんなに大きく市場が動いたりはしませんでしたので、全体としては落ち着いている状況だと言いました。

もちろん今日銀の金利を上げたとはいっても低い状態です。実質金利も低いですから、中立金利には距離があると、この先ももちろん上げていきたいという姿勢はしっかりと見せました。

一方で、ポンポンと上げるというわけにはいかないというように話し、注意深く進めていきたいということです。次どうするかっていうことに関しては、なかなかつかみづらかったかなと思います。

■総裁会見をうけた円相場

――今の円相場の動きを見ていきましょう。

円相場、今回の政策決定を受けては昨日よりも1円ほど、円高に進みましたが、総裁の記者会見が始まる時の155円20銭ぐらいで、そのときに比べますと円安に向かっています。市場も今日の会見は判断に困っているところもあるかもしれませんが、少し円安です。

今回は、円安に一気に向かったら、それは困るわけですし、円高に急速にいってしまったら、今度は株を安くする可能性がある。国会が召集されるタイミングで、株価がバーンと落ちるのも避けたかったんだと思います。大きく為替の相場には影響せず、会見中に少し円安になりました。

■追加利上げの背景

――今回、利上げに踏み切った大きな理由としてはどういったものが挙げられるでしょうか。

まず、今の金利は非常に低いので、ちゃんと条件が整えば、しっかりと金利を上げていきたいんです。その条件が整ったと言えると思います。展望レポートの物価の見通しがこちらです。

特に来年度2025年度の消費者物価、生鮮食品を除いたものは前回よりも見通しを0.5ポイント上げました。修正として結構大きいです。

エネルギーも除くコアコアでも、2.1%のアップになるということで、前回の見通しより0.2ポイント上げました。背景にコメなどの価格が高いということがあります。

それから、円安になっているので、全体的に物価が上がっています。エネルギーが入ってるかの差では、円安で原油価格なども上がることや、日本政府のエネルギーに対する補助金が減る影響があります。物価の数字は、利上げに十分だと判断されました。

賃金に関しても、年明けに企業のトップの人たちがインタビューを受けた結果や、日銀の支店長たちからの様々な報告を見て、賃上げはしっかりと続くだろう、広がるだろうということで、日銀の今の流れに沿っていると。春闘を見極めるというところまででなく、見切り発車かなとも見えますが、利上げできると判断したと見られます。

この政策決定会合の少し前に、日銀の幹部が「1月に相談して利上げを決める」という発言がありました。日銀の幹部が直前にこうした発言をするのは異例です。利上げが急な方針転換にも見えたところもあり、その状況をしっかりと市場に伝えようとしたと思います。

■トランプ大統領就任の影響

――利上げの判断に、アメリカの動きも影響すると思うんですが、どうですか?

日銀もアメリカの状況はしっかりと見ていて、トランプ大統領の就任後、ここ数日で市場の混乱がなかったということは大きいです。

何があるか本当にわからないと思っていたところ、まずは全体としては落ち着いた状況だということ。今後に関しては、アメリカが為替相場をどう見ているかです。

トランプ大統領は去年からドルが高すぎると言っていて、財務長官に指名されているベッセント氏もドル高に懸念を見せています。もし日銀が、市場がみんな利上げすると思っている状態の中で利上げをせず、円安が急に進むようなことがあれば、アメリカに批判されかねない状態でした。

――日米首脳会談の相談の中でも、アメリカの空気は日本の政府にも伝わっていそうですね。

そうですね、政府や政治には、景気に悪影響があるからと利上げに反対の声もいつもあるのですが、アメリカの今の状況で、今回は政治から利上げを止めるような声は多くはなかったと見られます。全体として利上げにネガがなかったということです。

■トランプ2.0と為替相場

――そういった背景がある中で、今後の利上げについてはどうなんでしょうか。

まずは日本の物価賃金がどうなるかは一番大事です。世界の経済は繋がっているので、スタートしたばかりのトランプ政権の政策も大きく影響すると思います。

政策がこちらです。まず、関税を引き上げたり、追加する方向を示しています。就任演説で、外国歳入庁の設立を検討すると言っていまして、今後、どういうペースか、順番や広がりはこれからですけれども、これをやるということははっきりしていると思います。

それからアメリカの国内の企業に減税をすると言っています。移民政策を厳格化すると言って、就任演説で難民の受け入れの原則停止を出しました。移民に厳しい対応をとると、人件費が上がりそうです。こうした政策では、アメリカの物価や金利が上がりやすい状況にはなります。

日本との関係では、円安ドル高になりやすいと見られます。しかし、政策自体ではドル高に向かうかもしれないけれども、トランプ氏はドル高はよくないと。政策をやって本当に円安ドル高が進んでしまった時に、急に他の国に対して、ドル安を誘導するような話し合いなど、急に言い出す心配もあるんです。

■今年の日本経済は……

――日本経済は今後どうなっていくんでしょうか?

まず本当に関税が上がると、日本の製造業などに影響があり、業績悪化で景気が悪くなったり、その結果賃金をしっかりと出せなくなる心配があります。

また、日本の政策も、この国会で、年収の壁の議論や税制の議論があって、手取りがどうなっていくかは消費に影響すると思います。もし、春以降に日本の経済が悪くなると、日銀は今イメージしている利上げのサイクルを変更する可能性もでてきます。

――会見では、利上げの壁というお話も出たんですが。

0.5%というのは、総裁は壁とは言わなかったですが、もう30年ほど0.5%を超える政策金利はなかったんです。つまり今の現役世代、幹部でもこれより高い政策金利だったことを働きながら経験していないわけです。どのタイミングどこまで見極めるかということは、慎重にならざるを得ないと思います。

今年は、様々な予測しにくいことがあると見られます。日本の政治、それからアメリカや世界の状況をしっかり注目していきたいと思います。

最終更新日:2025年1月24日 23:53