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ライフサイエンス不調続く…上場廃止から半年のJSR、抜本的な収益改善急務

ライフサイエンス不調続く…上場廃止から半年のJSR、抜本的な収益改善急務

ジョンソンJSR社長は「LS事業はテクノロジー重視を続けていく」と説明する

テクノロジー重視で打開

政府系の産業革新投資機構(JIC)を単独株主とする形でJSR(東京都港区、エリック・ジョンソン社長)が2024年6月下旬に上場廃止して半年が経過した。中長期では日本の半導体材料メーカーの再編を掲げているが、足元の課題は同社の財務体質の改善だ。特に準主力のライフサイエンス(LS)事業をいかに立て直していくのかが、将来の再上場や再編の中核を担うためのカギになる。(渋谷拓海)

上場廃止前のJSRにとって最後の決算発表となった24年3月期連結決算(国際会計基準)は売上高が前年同期比1・0%減の4046億円、コア営業利益が同75・5%減の83億円だった。当期損益は55億円の赤字となり、厳しい結果に終わった。

半導体材料などのデジタルソリューション(DS)事業で半導体市況が悪化し、LS事業においてはバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)の新工場の一部で大規模修繕したことなどが響いた。

24年11月に発表した24年4―9月期決算は、売上高が前年同期比9%増の1977億円、コア営業損益は同6億円悪化の17億円の赤字だった。事業別ではDS事業のコア営業利益は250億円まで持ち直した。

一方、LS事業は同157億円悪化の238億円の赤字となり、依然として足を引っ張る構図は変わらなかった。ジョンソン社長は「両事業ともここ数年はダウンサイクルぎみだったが、半導体はポジティブ。LS事業は“シングルイベント”が立て続けに起こっている」と説明する。

バイオCDMOをはじめとする健康支援関連の事業領域は、日本の素材各社も巨額投資を進める成長領域だ。ジョンソン社長は「問題点はビジネスの執行にある。(開発)パイプラインの問題ではなく、顧客との関係性の問題でもなく、基盤の問題でもない。LS事業はテクノロジー重視を続けていく」との立場。LS事業の売却などの可能性については「特定の決断は下していない。さまざまな選択肢を検討している」と説明する。

株主側は冷静だ。JICの横尾敬介社長は「24年内はLS事業の状況把握を行い、改善のポイントは抑えた。収益力強化に向けた取り組みを整理している。それが効果を発揮するのは25年4―6月期以降になるのではないか」と見通す。その上で「短期的には今のLS事業を立て直さないと、(仮に)売却を検討した際に買い手が付かない」と指摘する。

JICによるJSRの株式公開買い付け(TOB)には、同社の再上場も念頭にある。だが、半導体材料の生産設備には巨額の先行投資が不可欠となっており、強い企業でないと、国際競争の中で日本勢の再編の中核も担えない。横尾社長は「我々は諦めてない。LS事業を立て直した上で、成長性をどう高めるかということになる」としている。

単独株主化は意志決定の迅速化が狙いの一つだった。現状はJSR経営陣の手腕が試されている。DS事業出身のジョンソン社長は「我々は日本の納税者にも責任を持っていると思うし、間接的に日本の経済にも関わる」としており、引き続き構造改革を進める考えだ。

日刊工業新聞 2025年01月28日

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