ある高校の生徒会組織「なかよし銀行」調査室で繰り広げられる「ヒトはなぜ働くのか?」の議論。仕事と「豊かさ」を語った前編に続き、今回はついにその理由が語られます。
左:貸方ケイリ(K 16歳 ♀) 右:借方シワケ(S 15歳 ♂) (※イラスト:倉澤もこ)
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3. 分業で人間は豊かになる
K 時代が進むごとに、あたしたち人類はよりわずかな生産活動で、より多様な消費活動を楽しめるようになったわ。一言でいえば、時代が進むほど人類は「豊か」になってきた。
S じゃあ、なぜそんなことになったのか……って話だよね。
K 端的に言えば、人類の分業が巧みになったからよ。人類は分業が進むほど豊かになる生き物なの。
S 分業で、豊かになる……?
K たとえば、あたしたちの学校では生徒全員が親元を離れているわよね。校則で決められたとおり、借り上げ寮で一人暮らしをしている。掃除洗濯、家事の一切合切を自分1人でやっている。
S ルンバなき戦い。
K だけど想像してみて、もしも……。えっと、だから……も、もしも、あたしとシワケが一緒に暮らしたとするでしょう?
S うへぇ……。
K って、どうしてそういう反応になるわけ!? こ、このあたしが一緒に暮らしてあげるのよ? 同級生の女子と1つ屋根の下なのよ!? 少しは喜びなさいよ。この鈍感……。
S だってさあ、ケイリさんってすごく細かそうじゃん。家賃はもちろん、水道光熱費からテレビの視聴時間にいたるまで、ぜーんぶワリカンにしそう。
K 水道光熱費を折半するのは当たり前でしょう。だけど、あたしもそこまでケチじゃないわ。テレビを見る時間ぐらいは、半分こじゃなくても許してあげる。
S やった! 俺は好きなだけ特撮ヒーローの再放送を見ていいんだね!?
K もちろんよ。ただし、視聴時間に応じてその分の電気代とNHK料金を請求するわ。
S やっぱりドケチじゃないかっ!
K まったく、あんたと喋っていると話が全然進まないわね。……1人暮らしでは、掃除も洗濯も自分1人でやるしかない。だけど2人なら、片方が掃除をしている間にもう一方が洗濯をできる。2人で分業すれば、家事の時間を大幅に短縮できるはず。
S まあ、たしかにそうなるかな。洗濯物の量が2倍になっても、洗濯機の稼動時間は2倍にはならないだろうし……。
K これが「分業で豊かになる」という話の、もっとも原始的な例よ。作業時間が短くなったということは、余った時間を別の何かに消費できるってことでしょ。1人暮らしから2人暮らしになると、よりわずかな生産活動で、より多様な消費活動が可能になる。つまり、豊かになるのよ。
S いやいや、待ってよケイリさん。俺たちが海外旅行に行けるようになったことや、スーパーコンピューター並みに高性能なケータイを持てるようになったことも、そういう「分業」のおかげだと言いたいの?
K ええ、あたしはそう考えているわ。
S ちょっと話が飛び過ぎじゃないかなあ……。
K トースター・プロジェクトを知ってるかしら?
S は?
K イギリスの芸術家トーマス・トウェイツが企画したプロジェクトよ。彼はある日思い立って、トースターを自分で作ることにしたの [11][12]。
S それがどうかしたの? トースター部品を組み立てるぐらいなら、誰にでもできると思うんだけど。
K 彼はね、部品の素材を集めるところから始めたのよ。金属を手に入れるために鉱山に行ったり、外装のプラスチックを作るために試行錯誤したりして。
S うわ、大変そう……。
K 素材費だけで約15万円、移動距離は3000km以上、そして9ヶ月以上の時間をかけて、彼はついにトースターを完成させたわ。だけどいざスイッチを入れてみたら、わずか5秒で壊れてしまったそうよ。
S トースターなんて家電量販店なら2,000円以下でも買えるのに……。
K これほどのお金と時間をかけても、1人の人間ではまともなトースターを作ることができなかった。逆に言えば、たった2,000円で高性能なトースターを入手できるのは、それだけたくさんの人が関わっているからなのよ。鉱石を掘る人がいて、それを金属部品へと加工する人がいて、トースターという商品の形に設計する人がいる。売り場にどのように並べるかを決める人がいる。1台のトースターは、数えきれないほどたくさんの人が分業した結果なの。
S たくさんの人が分業したぶんモノの価格を安くできる、と……。
K もちろん、ムダな人がいない前提だけどね。何の付加価値も生まないのに中間マージンだけ取る人が関わっていたら、モノの価格はかえって高くなってしまうわ。そうではなくて、たくさんの人が少しずつ付加価値をつけることによって――言い換えれば生産活動を分業することによって――モノの値段はどこまでも安くできるの。
S ジェット旅客機も、スマートフォンも、そういう分業の結果なのか。
K そういうこと。
S だけどさあ、何か証拠はないの? ここまでの話は、ぜんぶケイリさんの推理と予想にもとづいているよね。分業によって「豊かさ」が増すという具体的な証拠は無いのかな。
K 証拠になるかどうか分からないけれど……。被雇用者率はどうかしら?
S 被雇用者率って?
K 労働人口のうち、雇用されている人の割合のこと。乱暴な言い方をすればサラリーマンの比率ね。世界的な傾向として、先進国ほど自営業者は少ないわ [13]。経済が発展するほど被雇用者が増えるのかもしれないわね。たとえば日本の場合、1950年代には働く人の5割強が自営業者で、被雇用者は4割弱しかいなかった。だけど2004年には自営業者は15%ほどまで減り、85%近い労働者が被雇用者になっていた [14]。
S つまり働く人の8割以上が、どこかの会社に雇われていたってことか。
K 会社は、20世紀にはもっとも効率的な分業の形だったはずよ。自営業者は企画開発から、営業、管理総務までぜんぶ1人でやらないといけない。だけど会社では、社員それぞれが自分の職務範囲に集中して働くことができる。分業ができる。
S だから会社員が増えるほど、生産効率が高くなって経済が発展する。ケイリさんはそう言いたいんだね。
K あくまでも20世紀には、ね。
S でも、世の中には分業がうまくいっていない会社もあるみたいだよ?
K そんな会社のことは知らないわ。
S やっぱり辛辣だね、ケイリさんは……。
K とにかく、分業をするほど人類の「豊かさ」は増すの。あたしたちが仕事をするのは、この世の中の生産活動の一部を分担して、世の中全体を豊かにするためなのよ。
S 世の中を豊かにするために、働かなければいけない……と?
K そうなるわね。
S もしも世の中を豊かにする必要がないと思う人いたらどうするの? そういう人は働く理由がないと思うんだけど。
K そういう価値観の人に対して、あたしは何も言えないわ。分業をすることで世の中が豊かになるという法則をあたしは疑っていない。けれど、その法則を知ったうえで何をするかはその人の価値観しだいよ。
S そうか。でも、まあ……もしも世の中をもっと「豊か」にしたいと思うなら、仕事をしたほうがいいのかもな。何か1つ、自分の得意なものを見つけて、専門性を磨いて。そしてスペシャリストになるべきなのかも。
K ふふふ……。
S ケイリさん? なんだよ、ヘンな笑い方をして。
K じつはスペシャリストになる必要すらないの。
S へ? だけど分業って、何か専門のものを見つけることじゃないの?
K ええ。もちろん専門のものを見つけて、その道のプロになれれば一番ね。だけど、全員が何かの分野の1位になれるわけじゃないし、スペシャリストになれるわけでもない。もしも特別な人しか世の中を豊かにできないとしたら、凡人のあたしたちはとっくに滅んでいるわ。
S つまり、どういうこと?
K たとえば、あんたは基本的にあたしに勝てる部分がほとんど無いわよね。月収も預金残高も、学校の成績から職務遂行能力にいたるまで、すべてにおいてあたしに負けているわ。
S ひどいな。身長はケイリさんよりも高いんだぞ?
K ウドの大木という言葉があるわね。……それぐらい何もできないあんただけど、それでもあたしは自分1人で仕事をするよりも、あんたに手伝ってもらったほうが生産効率が高くなるの。そうね、たとえばあたしたちが原始人だとしましょう。
S なんだか前にも似たような話をしたような…… [15]。
K たとえば、あたしは1時間で魚6匹、もしくは山菜を3束集められるとするわ。一方、あんたは1時間で魚1匹、もしくは山菜を2束集められるとしましょう。バランスのいい食事をするためには、魚1匹に対して山菜1束を食べないとダメ――って設定で考えるわよ。
S その設定だと、俺は魚釣りでも山菜集めでも、ケイリさんより下手くそってことになるよね。
K たとえば食事の準備に3時間を使えるとして、バランスのいい食べ方をするにはどうすればいいかしら?
S 魚と山菜の比率を1対1にするんだよな。だとすると、俺の場合は2時間を魚釣りに使って、1時間を山菜集めに使う。そうすれば魚2匹と山菜2束の食事が準備できる。
K 一方であたしの場合は、1時間を魚釣りに使って、2時間を山菜集めに使うわ。そうすると、魚6匹と山菜6束が手に入る。
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S 同じ3時間でも、入手できる食事の量が全然違うね。
K ええ、そうね。あたしは1人で充分な食事を準備できるから、あんたの手助けなんか必要なさそうに見えるわ。自分でできることを人にやらせるなんてバカバカしい……って考えてもおかしくない。
S でもケイリさんは、そう考えないんでしょ?
K もちろんよ。たとえあんたがどんなにダメで生産性の低い人だろうと、あんたと分業したほうがお互いの利益を大きくできるわ。
S 俺は褒められてるのか、けなされているのか……。
K たとえば、あんたが山菜集めに専念した場合を考えてごらんなさい。3時間でいくつの山菜を集められるかしら。
S 1時間で山菜を2束だから、3時間あれば6束の山菜を集められるよ。
K 一方で、あたしは1時間40分を魚釣りに使いましょう。すると10匹の魚を集められるわ。残り1時間20分を山菜集めに使えば、4束の山菜が集まるわね。
S 算数の計算問題だね。でも、だから何だって感じもするよ。
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K 状況を確認しましょう。山菜集めに集中した結果、あんたは6束の山菜を持っている。一方であたしは、10匹の魚と4束の山菜を持っているわ。あたしの魚3匹を、あんたの山菜3束と交換したらどうなるかしら。
S えっと……俺は山菜と魚が3つずつになる。
K そしてあたしは山菜と魚が7つずつになるわね。
S ううむ……。
K 思い出して、あんたは1人で作業したとき、山菜と魚を2つずつしか手に入れられなかった。あたしは6つずつだった。生産活動に従事したのは3時間で変わらないのに、分業したほうが労働の成果が増えているのよ。
S 言われてみれば、たしかに。
K まあ、今回の魚と山菜の例はすごく極端な状況設定だし、「魚と山菜の比率を1対1にする」っていうルールありきだけれど、「ダメなやつが相手でも分業したほうがトクになる」という話はかなり広い範囲に当てはまるわ。経済学では「比較優位の原則」として知られているわね [16]。
S で、スペシャリストになる必要すらないって話になるのか。
K あんたはどんなに頑張っても、1時間に山菜2束しか集められない。1時間に3束を集められるあたしには敵わない。山菜集めのスペシャリストとは呼べないってことね。そんなあんたでも、あたしと分業することでお互いの生産性を高めることができた。
S だけど、「スペシャリストを目指せ」って焚き付ける人は多いよ。
K そういう人は比較優位の原則を知らないか、知っていても忘れているんでしょう。もちろんスペシャリストになれればベストだけど、でも、なれなくてもいい。目の前にある仕事をこなしているだけでも、充分に世の中を豊かにすることにつながるのよ。
【ここまでのポイント】
- 人類は分業するほど豊かになる生き物
- 歴史が進むごとに人類が豊かになったのは、分業が巧みになったから
- 何か仕事をするだけで、世の中を豊かにすることにつながる
- 分業とは、単にスペシャリストになることではない
- スペシャリストになる必要すらない
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4. これまでの分業、これからの分業
S 人類が分業によって豊かになる――って話は分かったよ。だけど、分業っていいことだけなのかな? 何か問題は起きないの?
K あんたが心配ごとなんて珍しいわね。
S 経済が発展すると会社員が増えるって話があったよね。みんなが会社員として分業した結果、世の中の「豊かさ」が増したって。
K 少なくとも20世紀には、会社に勤めることがもっとも効率的な分業の形だったのでしょうね。
S その結果、自営業者はすごく減った。それって、ようするに地元の商店街が潰れて大型量販店になった……って話じゃないの。
K その通りよ。あたしたちの分業が進むほど――言い換えれば被雇用者が増えるほど、1つ1つの事業は規模が大型化しがちになる。店主が電卓とそろばんで財務管理をしている個人商店よりも、ウォルマートやイオンのほうがはるかに生産効率が高いわ。より安く、よりたくさんのものを届けるという点ではね。
S より細かく分業しようとするなら、組織は大きいほうがよさそうだよね。組織に参加している人が増えるほど、1人当たりの業務の幅を細分化できる。それだけ細かく分業できる。もしも巨大組織のほうが生産効率が高まるとしたら、業界の再編が進んで、巨大企業の寡占に陥りやすくなりそう。
K 20世紀後半から21世紀初頭にかけて、まさにあんたの言ったとおりのことが起きたわ。通説では、巨大組織ほどフットワークが重くなって非効率になると言われがちだけど……。でも、そういう通説とは対照的に、あらゆる業界で企業の統廃合が進んだ。組織は大きくなり続けた。お酒の業界はその好例ね。ディアジオやペルノ・リカールみたいな超巨大酒造メーカーが登場した。日本のサントリーもその仲間入りを果たした。 [17][18]。
S そういう大きな会社ばかりになると、何かほかの問題が起きそうだよ。
K たとえば寡占が進むと、自由市場が歪んでしまうわね。独占市場と同じように、消費者は不当に高い値段で商品を買わざるを得なくなる。これが問題の1つよ。
S ほかにも問題があるの?
K 業務が細分化されて1人当たりの職務範囲が狭くなるということは、それだけ社員の歯車化が進むということよ。日本の大企業に勤める人は、他の企業で通用するスキルを身につけにくいと言うでしょう。それは、大企業では作業が細分化されすぎていて、1人当たりのできることがあまりにも小さいからなの。するとその人はその企業でしか通用しないスキルを高めることになり、企業と一蓮托生になる可能性もある。自由を束縛された、都合のいい労働者になってしまう。
S チャップリンの映画みたいだね。
K 「モダン・タイムス」ね。
S 豊かな暮らしを求めた結果1本のネジになるしかないとしたら、俺たちは分業なんかしないほうがマシだし、「豊かさ」なんか求めないほうがいいんじゃない?
K 経済の自由競争のもとでは企業は巨大化し、支配力を強めていく――ジョージ・オーウェルは1944年の時点で警告しているわね。自由競争では責任の所在が不明瞭なぶん、おそらく国家による独裁よりも悪質な独裁を招くだろうって [19]。
S お先真っ暗じゃないか……。
K だけどそれでも、あたしは分業は素晴しいし、あたしたちは「豊かさ」を追い求めるべきだと思う。理由は2つあるわ。
S ケイリさんって、意外と前向きだね。
K まず、企業による支配には技術革新によって風穴を空けられる。これが理由の1つ目よ。もしも技術が変化せず、それにともなう消費者の嗜好も変化しないとしたら、大企業はかんたんに支配を維持できるでしょうね。市場を寡占して、労働者を歯車化できる。だけど実際には、技術は常に発展しているし、嗜好も変化している。そういう変化に適応するためには、企業は社員を完全なネジにはできない。人間らしい判断力を持った存在として扱うしかなくなる。環境が変化し続けるかぎり、企業による独裁は完成しないわ。
S たしかに、技術革新についていけない大企業が倒産することもあるよね。
K 大企業による支配をつき崩すことこそ、イノベーションって言葉の本当の意味だとあたしは思うの。イノベーションは、ただ1回起こっておしまいじゃない。常にイノベーションが起こり続けている状況で初めて自由が確保される。市場の自由や、労働者の自由が。
S それで、もう1つの理由は?
K 2つ目の理由は、分業の形態は時代によって変わること。たしかに大企業は、20世紀後半から21世紀にかけてもっとも効率的な分業の形態だったのかもしれないわ。だけど、資本主義が誕生する以前にはそうではなかったし、今後もそうだとは限らない。あくまでも大企業はこれまでの分業形態であって、これからの分業が同じだとは限らない。
S これからの分業、かあ……。
K 考えてもみて。現代はこんなに情報技術が発達したのよ? 地球の裏側の人といつでも会話できて、管理部門職員を100人雇うよりも正確な数値管理をケータイ1台でできるのよ? 大企業よりも効率的な分業の形があってもいいんじゃないかしら。
【ここまでのポイント】
- これまでは大企業が分業のもっとも効率的な形態だった
- 大企業の発達は、市場の寡占や労働者の自由が束縛される危険をはらんでいる
- 技術革新により、大企業による支配に風穴を空けられる
- これからは大企業よりも効率的な分業の形態を模索してもいいかも
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K 駆け足だけど、なぜ働かなければいけないのか説明してみたわ。
S 駆け足……って、充分長かったよ。
K 働かないことで世の中に貢献できるなんてバカな考えを捨ててくれたならいいんだけど。
S 富の総量や仕事の数は一定じゃないから、俺が仕事をしなかったからと言って他の誰かが職につけるとは限らない。それは納得できたよ。
K あたしなりの「豊かさ」の定義についてはどうかしら?
S よりわずかな生産活動で、より多様な消費活動を営めるようになれば、「豊かになった」と言えるんだよね。まあ、豊かさの定義は人それぞれだけど……ケイリさんの定義は、それはそれでいいんじゃないかな。
K 分かってもらえて嬉しいわ。他に、何か印象に残った話はある?
S そうだなあ……。もしもケイリさんと2人で暮らしたらって話は印象的だったかも。
K ふ、ふーん。そう……?
S 1人が掃除をしている間にもう1人が洗濯をすれば、作業時間をぐっと短くできる。今日の話のなかでは一番分かりやすかったかな。
K それなら、よ、よかったわ。じつは1人暮らしって、すごく贅沢な生き方なの。家賃も光熱費も余計にかかるし、家事だって大変になる。食費もムダにしがちでしょ?
S よくあるよね、食材を余らせて捨てちゃうこと。だから俺はマーガリンにしたんだ。
K 何度も言うけど、もう少しまともなものを食べなさいって。あたしだって料理は得意じゃないけど、みそ汁と煮物ぐらいなら自分で作ってるわよ?
S へー、ケイリさんって自炊派だったのかあ。
K え? ……ええ、まあ。とはいえ、みそ汁はインスタントだし、煮物は作り置きして1週間ぐらい同じものを食べ続けてるの。だから、あまり期待しないでね。
S は? 期待って、何の?
K だ、だから……その……。もしも、あたしのご飯が口に合わなくても、がっかりしないでねって……。
S あー、安心して。ケイリさんのご飯は怖くて食べられないよ。値段の書いてないレストランみたいなもんじゃん。味はともかく、後でいくら請求されることになるのやら。
K いくらあたしでも、そこまでケチじゃないわ。調理に使った水、ガスの量を計算して、食べたぶんに見合った光熱費しか請求しないわよ。
S やっぱりドケチじゃないか!
K とにかく、1人暮らしはじつはすごく非効率なの。だから21世紀初頭の日本ではシェアハウスが流行ったし、海外の発展途上国では1人暮らしはとても珍しいわ。お金をセーブしたいなら、誰かと一緒に生活したほうがトクなのよ。
S そっかあ。じゃあケイリさん、一緒に暮らそうか?
K ――なっ!?
S わー! ごめん、そんな顔を真っ赤にして怒らないでよ!
K 怒ってないわよッ。
S どう見ても怒ってるよ! ごめん、軽い冗談のつもりだったんだ!!
K じょ、冗談ですって! そのほうがムカツク〜〜〜!!
S む、ムカツク? どうして!?
K どうしても! バカ! あほ! あんたなんか破産しちゃいなさい!
S だから、そろばんを振り回すなって! 危ないってば〜〜〜!!
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※参考
- [11]トーマス・トウェイツ:トースターを1から作る方法―TED
http://www.ted.com/talks/thomas_thwaites_how_i_built_a_toaster_from_scratch?language=ja - [12]Twaites, T., 村井理子訳『ゼロからトースターを作ってみた』飛鳥新社、2012年
- [13]老後も働き続けないと生きていかれない―日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120723/234731/ - [14]「働き方」について―国土交通省
[PDF] http://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/keikaku/lifestyle/1/shiryou7-3.pdf - [15]知識ゼロから学ぶ簿記のきほん―デマこい!
http://rootport.hateblo.jp/entry/20120131/1328021248 - [16]Bauman, Y., Klein, G., 山形浩生訳『この世で一番おもしろいミクロ経済学』ダイヤモンド社、2011年
- [17]サントリー、「やってみなはれ買収」の今後―東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/38037 - [18]サントリーホールディングス(株)による米ビーム社株式取得完了について―ニュースリリース
http://www.suntory.co.jp/news/2014/12050.html - [19]Orwell, G., “Grounds for Dismay” Observer, 1944.
著者:Rootport (id:Rootport)
ブログ『デマこい!』を運営している匿名ブロガー。1985年生まれ東京育ち京都在住……という設定だが、真偽のほどは分からない。ネットでは誰が言ったかよりも何を言ったかのほうが大切! を信念に匿名主義(?)を標榜している。大して飲めないくせに左党でスコッチ好き。たい焼きは頭から食べる派。「なかよし銀行・調査室」のストーリーは、ブログにも「知識ゼロから学ぶ簿記のきほん」シリーズとして掲載している。