旧統一教会が関わる地方からの「草の根」運動
「熊本ピュアフォーラム」の運動史
杉田水脈政務官のように《役員》で片付けると見誤る団体
杉田水脈 衆院議員の2019年熊本講演を主催したKPF社会教育委員会(=(一社)熊本ピュアフォーラム。以下、まとめて「熊本ピュアフォーラム」)が旧統一協会関連団体の平和大使協議会の下部団体なのは既に記した通りだ。しかし「熊本ピュアフォーラム」とはどのような団体なのだろうか。
杉田水脈 新総務大臣政務官は2022年8月15日の就任会見の場で、「熊本ピュアフォーラム」について開き直りに近い説明を行った。その説明のなかで、旧統一協会系政治団体の国際勝共連合熊本県本部(以下、「勝共連合熊本」)の代表でもある「熊本ピュアフォーラム」の稲富安信事務局長は、あくまで《役員の1人》と呼ばれ続けていた* 。
杉田政務官が繰り返したこの《役員の1人》という言葉から、いわゆる名誉職的な《役員》という印象を持ったなら、それは全くの勘違いだ。稲富事務局長は「熊本ピュアフォーラム」設立以前から、いわゆる「草の根」な運動の現場で活躍し、着実に成果を出してきた人物だからだ。
「熊本ピュアフォーラム」の陳情・請願運動から知る未成立「法」
熊本ピュアフォーラムは2016年に一般法人として設立されたが、前身団体が存在する。熊本県下で「青少年健全育成基本法」制定推進運動などを行ってきた稲富氏らが、2014年5月に設立した熊本フォーラムがそれだ。そして熊本ピュアフォーラム代表の元県教育長と、稲富 事務局長のコンビはこの前身団体でも変わらない。(以下、前身団体の熊本フォーラムについても必要ない限りまとめて「熊本ピュアフォーラム」と表記)
彼らは何年もかけ、県内の県市町村議会に「青少年健全育成基本法」の成立を求める意見書を《国》へ提出するよう訴える陳情・請願活動を行ってきた。しして2016年には一般社団法人化し、またその際に現在の団体名へと改称した。そして2018年からは目標を「家庭教育支援法」の意見書提出へと切り替えて、陳情・請願運動を続けてきた。その目標の変化は「熊本ピュアフォーラム」の関心が大きく変化したわけではない。彼らにとっては「青少年健全育成基本法」と「家庭教育支援法」が、同じテーマについての法律であることは彼らの請願文書からも見て取ることができる。
上が「熊本ピュアフォーラム」による「青少年健全育成基本法」についての請願書の最後の一文、そして下が「家庭教育支援法」に関する請願について担当者が行った説明* の一部だ。彼らにとってはどちらも《青少年》のための《家庭》の問題であることがわかる。
「家庭教育支援」と「青少年健全育成」はいまだに生きてる話題
長らく実現を熱望していた右派団体などの声にも後押しされるかのように* 、《教育の憲法》** とも呼ばれた教育基本法が《全面改正》*** されたのは2006年のことだった。この《全面改正》で大きく変わった第2条、そこに加わえられた《伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、……》の条文が教科書制作過程などに及ぼした影響はよく知られている。
この教育基本法《全面改正》で新設された第10条の『家庭教育』項目* に依拠する形で推進されてきたのが「家庭教育支援法/条例」だ 。そして、その制定を推進する側からは「家庭教育支援法」と《車の両輪》とも呼ばれているのが「青少年健全育成基本法」である。このような両法の関係は「熊本ピュアフォーラム」の陳情・請願運動の推移、またそこでの主張にも表れているのはすでに見た通りだ。そして「家庭教育支援法」と「青少年健全育成基本法」を推進してきた自民党においても両法の密接な関係は変わらない。
自民党は教育基本法の《全面改定》以降、「家庭教育支援法」・「青少年健全育成基本法」を成立させるべく、国会への法案提出も何度も行なってきた。ときには新法制定ではなく、既存の法律の《全面改定》で条文と法律名を変えて対応しようとまでしたほどだ。しかし両法どちらの成立もいまだ果たされてはいない。かといって自民党にとってこの両法の話は決して過去の話などではない。
自民党が2021年10月に発表した総合政策集は《詳細な政策を、分野ごとに》記載したものだったが、教育政策の一番最初には次の項目が掲げられている。
重点政策のみを掲載したという同年の自民党政策パンフレットでも、『「教育」は国家の基本。 人材力の強化、安全で安心な国、 健康で豊かな地域社会を目指す。』の項には《「家庭教育支援法」の制定に向けた取組みを取組みを推進します。》、《青少年健全育成基本法(仮称)」を制定します。》と謳われていた。
講演会活動に表れる三段構えと、そこに通底するキーワード
「熊本ピュアフォーラム」が力を入れてきたのは陳情・請願運動だけではない。彼らは前身団体設立直後から多数の講演会や勉強会を開催している。同団体サイトの『沿革』でそのイベントテーマや演題を確認すれば、そのほとんどが「青少年健全育成(基本法・条例)」、「家庭教育(支援法・条例))」、「同性婚・パートナーシップ制度・LGBT」にまつわる内容が占めているることがわかる。そしてこれらの話題や主張は独立したものでない。旧統一協会の現在の教団名「世界平和統一家庭連合」を思い起こすまでもなく、それらは「家族」や「家庭」(またそれを規定する「結婚」)というキーワードによって結ばれている。
そのことを端的に表現しているのが、2022年参院選で「旧統一教会」の支援があったと報じられた井上義行 現参議院議員* による2020年7月2日の街頭選挙演説だ。
この該当演説のなかで井上 現参院議員は、自身の『6つの国づくり』の2つ目、『すべての若者が高度な教育を受けられ、家庭を持てる国』について以下のように語っている。
通りすがりの人にこの演説を聞こえても、おそらくは全く意味不明の言葉にしか聞こえないだろう。しかし動画を見れば、井上 現議員が放つキーワード《同性婚には反対》、《青少年健全育成〔基本〕法》、《家庭教育支援法》に聴衆が反応し、声を上げていることがわかる。
「沿革」に表れた「熊本ピュアフォーラム」と青津和代氏の深い関係
「熊本ピュアフォーラム」サイト掲載の『沿革』によれば、最初のイベントは前身団体設立から間もない2014年7月に開催された第一回『青少年健全育成熊本セミナー』。講師に招かれたのは溝口幸治 熊本県議と、国際勝共連合幹部でもある青津和代 国際青少年問題研究所所長だった。
溝口 熊本県議* は2012年12月に全国で初めて成立した『くまもと家庭教育支援条例』の立役者として条例について語り、青津氏は『子供達を取り巻くネット社会の危険性』 と題して「青少年健全育成」について講演した。
また青津氏は翌月に行われた第2回セミナーにも招かれ、第1回と同じ演題で講演を行ったという 。さらに青津氏は2016年の一般法人化を祝う『一般社団法人「熊本ピュアフォーラム」設立記念講演会』でも講師をつとめている。
さらに「熊本ピュアフォーラム」の『沿革』には、他団体が主催した『阿蘇市青少年健全育成推進大会』への青津氏の登壇が《特別出演》として掲載されている。
これらのことから、「熊本ピュアフォーラム」と津和代氏との間の深い関係を感じるとることができるだろう** 。
「熊本ピュアフォーラム」サイト掲載の請願・陳情リストだけでは見えないもの
「熊本ピュアフォーラム」サイトでは、彼らの長年わたる請願・陳情運動の成果が誇らしげに報告されている。そのリスト(2022年8月現在)によれば
・「青少年健全育成基本法」請願:21自治体採択済
・「家庭教育支援法」請願:4自治体採択済
となっている。
しかし筆者の調べにより、「熊本ピュアフォーラム」サイトの《請願採択済》・《請願提出済》リストにはいくつもの不備があることも判明している。請願ではなく陳情だった例、「熊本ピュアフォーラム」関係者が個人名で提出している例* 、既に採択済みだが《請願提出済》に分類されている例、さらには「熊本ピュアフォーラム」が提出し採択済みにもかかわらず記載自体がされていない例までもある。これらの殆どは記載漏れや更新漏れの類いだと思われる。リストを修正**すると、
・「青少年健全育成基本法」:22採択済(陳情5・請願16・不明1)
・「家庭教育支援法」:6採択済(請願6)
となった。
議会に提出される請願と陳情の一番大きな違いは、請願を提出するためにはその議会議員に所属する議員に「紹介議員」になってもらう必要があることだ。
そして「熊本ピュアフォーラム」提出の請願には、溝口幸治 熊本県議が「紹介議員」となった「青少年健全育成基本法」請願* 、今中真之助 宇土市議** が「紹介議員」となった「家庭教育支援法」請願以外にも、「熊本ピュアフォーラム」や「ピースロード」および県平和大使協議会など、「旧統一協会」と関係してきた議員が「紹介議員」となったものがいくつも確認されている。このことから、「旧統一教会」イベントなどで育まれた関係のなかから請願が生まれていくサイクルを想像するのは容易だろう。
また採択された陳情・請願の多くは、本会議での質疑や反対討論も行われないままに委員会判断を満場一致で追認する形、もしくは反対討論が行われたとしても極少数の反対票しかないなかで採択されている。
もちろん「熊本ピュアフォーラム」の陳情・請願のすべてが採択されてきたわけではない。少ないながらも不採択となった事例も見つかっている。そのなかでも長洲町議会議事録には、他議会では見られない、興味深い展開が記録されていた。
2019年。長洲町議会に「熊本ピュアフォーラム」によって『家庭教育支援法の制定を求める意見書提出に関する請願』が提出された。請願を付託された委員会では、数カ月にわたる審査を継続した末に《採択するもの》と決定を下した。しかし後日、その審査経過などを本会議において説明した委員長に対して、1人の議員から、請願の内容や委員会審査についての多くの問題点の指摘がなされた。そしてその後の本会議での採決では、賛否拮抗ながら、請願は不採択となった。
以下、福永栄助 長洲町議(現在、町議会議長)が行った質疑を一部転載する。
この福永町議の質疑では、上のような請願内容への指摘だけでなく、審査を附託された委員会が請願内容をどのように理解したのかも問うている。この部分も非常に重要だ。福永栄助 町議と浦邊朝章 長洲町議(審査を附託され「採択すべき」と結論を出した建設経済文教常任委員会委員長)とのやりとりの一部を見てほしい。
ここで委員長が語っているのは、読み手側が《こちらで推測する》とか《そういう意味合いじゃないかな》と考えるような「理解」と、「自分もなんとなくそう思う」といった類の「賛同」だ。先に紹介した各地方議会での採択の状況からも、多くの採択はそのような「理解」や「賛同」に支えられていたのではないか。
そして「青少年健全育成基本法」や「家庭教育支援法」についての陳情・請願は、熊本以外にも全国各地で行われている。そしてそのなかで「熊本ピュアフォーラム」と同じように、旧統一協会関連団体やその関係者による陳情・請願だと確認された例はいくつもある。
そういった例を見る前に、まずは島根での陳情・請願運動とそこに広がる「草の根」運動の一端を紹介しよう。
島根で確認された「旧統一協会」による陳情・請願運動
2009年7月、島根人格教育協議会なる団体が設立された。設立当時の会長には倉井毅 元島根県議会議員、副会長に青戸良臣 賣布神社宮司ら。また世話人には細田博之 衆議院議長の親族で、細田 衆院議長の父である細田吉蔵の初当選以来《60年以降、父子2代計21回の衆院選を支えた》(朝日新聞2021年11月11日)と言われる地元大物政治家の細田重雄 島根県議会議員らが名を連ねている。この細田 島根県議は日韓トンネル推進島根県民会議の議長、島根県平和大使協議会の議長など、旧統一教会関連団体の島根県支部のトップをつとめてきた人物でもある。
そして人格教育協議会もまた平和大使協議会系列の団体だ。堀展賢 世界平和教授アカデミー事務総長は、2014年に開催された北海道人格協議会設立総会の基調講演において、人格教育協議会の目的を《霊性人格教育・純潔教育を実践すること》だと説明したという。
各地の人格教育協議会のなかでも最も早く設立された島根人格教育協議会は毎年開催する『島根人格教育シンポジウム』、『島根人格教育フェスティバル』をはじめ活発に活動している。それらのイベントは地元の全日教系教職員団体とともに、自治体、地元教育委員会、地元メディアなどが後援。また県教育庁課長、現役教育長ら県内の教育関係者、さらには大学関係者、地方議員らが参加してきた。
そして設立から14年が過ぎた現在、役員が連れ立って知事室を訪問するほどの存在感を示している。現在は会長に元島根県教育長、副会長に吉田雅紀 島根県議と元小学校教諭、事務局長には県平和大使協議会事務局長などもつとめてきた吉岡登 国際勝共連合島根県本部代表が就任している。
同協議会の初代会長だった倉井毅 元県議は、《島根人格教育協議会 会長》の肩書きで県下各地の地方議会に対して、2010年には『「選択的夫婦別姓を認める民法の一部改正」に反対を求める意見書提出に関する請願』や同内容の陳情を、2013年には『青少年健全育成基本法の制定を求める意見書に関する請願』を提出してきたことが確認されている。
また同協議会の世話人でもあった細田重雄 県議は、旧統一協会関連団体であるアジアと日本の平和と安全を守る島根フォーラム* の会長として、「緊急事態基本法」に関する意見書提出の請願を県下各地の地方議会に対して行ってきた。
全くの余談だが、倉井 元県議は、2020年2月の『島根県議会において平成25年6月26日付で決議された"日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書”の撤回決議を求める請願』の提出者には《日本会議島根会長》として名を連ねている。この請願は作家の豊田有恒氏と、画家の野々村直通氏の両名によって2014年12月から始まったもので、何度不採択となっても繰り返し提出するタイプの請願運動だ。倉井 元県議の初参加となった2020年2月提出分から数えても、既に10回の提出が行われている。しかしなによりこの請願運動の特徴といえるのは提出される毎に長くなっていく請願名にある。執筆時点で最新の2022年5月提出分の請願名は以下の通り。繰り返しになるがこれは請願の本文ではなく、請願のタイトルだ。
では続いて、「熊本ピュアフォーラム」とおなじ「家庭教育支援法」に関する陳情・請願を行なっていた神奈川県下での「草の根」運動を見てみよう。
神奈川で確認された「旧統一協会」による請願運動
神奈川県では2017年、大学教授らを会長・副会長に迎えて神奈川人格教育協議会が発足している。
設立当初の役員名簿には、理事や顧問に小林正 元参議院議員、石川将誠 相模原市議、高木吉勝 南足柄市議、国松誠 神奈川県議、横山正人 横浜市議、松原成文 川崎市議といった地方議員の名前とともに、公立小学校教諭などの教育関係者が含まれていた。事務局長には神奈川県平和大使協議会の事務局長でもある、武者宗悦氏が就任。この武者氏は国際勝共連合神奈川県本部の代表もつとめる人物だ。また事務局次長の二人には、旧統一協会関連団体である世界平和アカデミー神奈川支局事務局の肩書きがついていた。
翌2018年、家庭教育を推進する会なる団体から、神奈川県下各地の地方議会に対して『家庭教育支援法の制定を求める意見書に関する陳情』が提出された。その数は確認されただけでも10以上。提出不明の同名陳情も含めれば、その数はさらに大きくなる。そしてこの家庭教育を推進する会の代表と事務局担当が、神奈川人格教育協議会の会長と事務局長であることが確認されている。
その他の地方と、その手のやり方
他にも「旧統一教会」関係者による「青少年育成基本法」や「家庭教支援法」についての陳情・請願は、長野、栃木、長崎など多くの地域で確認されている。また国会議員を介した国会への請願でも見つかっている。さらに、「旧統一教会」の関わりが確認されていなくとも、それらと同じ文面・共通の言い回しの使用から雛形やテンプレートの存在を想起させるものも含めれば、その数はさらに多くなるのだ。