パルワールドのゲームデザイン 流行りの要素をただ寄せ集めただけでは「ない」
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…と言い訳しつつ、多分アップデートしたりはしないと思いますが。
自分の関連作のプレイ遍歴を明かしておきます。
この記事を書くために時間を使ったのでパルワールドのプレイ時間は短くなっており、ここについては情報が不足していると認識しています。調べられる範囲で全体像を確認したつもりですが、事実と異なる部分や追加情報などあればTwitterなどでご指摘いただけると助かります。
それではどうぞ。
パルワールドが売れた大きな理由は「ちゃんと面白いから」だと思う
パルワールドはめっちゃ売れている。なんで売れたんだろうか。
ポケモンをパロってそこに邪悪な要素を入れたことで「8頭身ドラえもん」のような組み合わせによるダークな笑いがあるから説
モンスターデザインをパクリのギリギリにしたことで話題作りをした説
顧客がオープンワールドポケモンに本当に求めていたものだった説
ポケットペアがファンを着実に増やしていた説
PVが良かった、事前にYouTuberに配るなど宣伝が上手かった説
それらに加えて、自分としては「実際遊んでみるとゲームとしてちゃんと面白かった」という理由もかなり大きいのではと考えている。
実際、自分はプレイした人達の熱量ある「これは面白いぞ」「夜更かししちゃった」といった感想が理由でプレイしたし、実際プレイしたらかなり面白かったので他の人に強く勧めた。そのような感じで面白さについても口コミでちゃんと広がった結果、着実にプレイヤーを増やしていった、というのも要因としてかなり大きいのではないだろうか。
流行りの要素をただ寄せ集めただけなのか?
面白いと評判のパルワールドだが、どんなゲームかの説明として「いろんなゲームのいいとこ取りをしたシステム」という説明を聞くことが多かった。
実際、「あのゲームっぽいな」と感じる要素はちらほら見られた。
ベースとなるのは恐竜を捕まえるサバイバルゲーム『Ark: Survival Evolved』。そこに『Rimworld』や『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』的な要素が足されている。また『ポケットモンスター』っぽいシステムもちらほら見受けられる。モンスターへの指示出しの仕組みは『ピクミン』ぽい気もする。パルの仕草に『どうぶつの森』っぽさも感じられた。ピッケルの振り方はめっちゃ『フォートナイト』だった。
個々の要素だけを見れば流行りの要素をふんだんに取り入れただけのゲームに見える。実際、このゲームが発明した要素はあるか? と考えると特になさそうな気もする。各要素がとても調和しているというのはあるが、ぱっと見では「いろんなゲームの良いとこ取りをしたシステム」という説明はとても適切に見える。
しかし、筆者ニカイドウが実際に遊んでみたところ、流行りの要素をうまく合体させて馴染ませたというだけを超えた「パルワールド特有の、すごく面白いゲーム体験が存在している」と感じた。そして、それがパルワールドを遊んだ人達の高評価の理由ではないか、と考えている。
パルワールドの面白さの秘密について、ゲームデザインの観点から言語化してみたい。
マリオは「ジャンプ」のゲーム
というわけでお待ちかね、『スーパーマリオブラザーズ』の話だ。
スーパーマリオブラザーズは「ジャンプ」を軸にしたゲームだ。ジャンプはこのゲームにおいて、様々な用途がある。
また、踏むことに成功したとき、甲羅を使って敵を一網打尽にできたり、シリーズによってはジュゲムを倒したら雲を奪えるなど、ジャンプを成功させたときに様々な恩恵もある。ファイアボールが斜め下に落ちるのも、ジャンプしながら撃ったり高い所に登って撃ったりと、ジャンプとのシナジーが生むための設計なのだと思われる。
スプラトゥーンは「塗る」ゲーム
次は『スプラトゥーン』だ。
スプラトゥーンは「塗る」を軸としたゲームだ。基本ルールであるナワバリバトルでは直接的な勝利条件となっているほか、塗ることで得られる利益は様々にある。
ナワバリバトル以外のルールでも、塗って陣地を広げておけるかが勝敗を左右する。塗りで有利を取れればキルすることもたやすくなるなど、とにかく「塗る」に徹底的にフォーカスされたゲームだ。
「回帰」するゲームデザイン
マリオの「ジャンプ」もスプラトゥーンの「塗る」も、様々な用途、利点が合体したデザインになっている。それぞれそのゲームの主軸となるアクションなので、それを様々に活用する当然といえば当然ではあるが、ここに両作の面白さの秘密がある。
主軸となるアクションは全ての起点でありながらも、様々な利益をもたらしつつ、その後に主軸となるアクションに戻ってくるのだ。
マリオには「踏んだ敵を踏み台にして再上昇する」仕組みがある。敵を踏んだ勢いで再ジャンプ、そのジャンプを移動や攻撃のために活用することができる。敵を連続で踏んでいくこともできるし、なんなら1UPのオマケもついてくる。マリオには「ジャンプをしたらジャンプが返ってくる」という回帰が用意されている。
スプラトゥーンの場合はさらにすごい。「塗る」を起点に発生する様々な利益が、最終的に「もっと塗れる」に繋がってくるのだ。
塗ったら嬉しいことが起こる、そしたらさらに塗っていいよとなる。そしてさらに塗ったらさらに嬉しいことが起こる。嬉しさの永久機関がここに完成している。絶対楽しいでしょこのゲーム。
マリオもスプラトゥーンも、回帰の仕組みによって主軸のアクションを楽しませ、それがゲーム全体の面白さも生んでいる。それだけでなく「そのゲーム特有の体験」として記憶に残る。
パルワールドは「パル」のゲーム
というわけで、やっとパルワールドの話だ。
もう察しがついているかもしれないが、パルワールドもまた「回帰」の構造を持っている。
そして軸となる要素が「パル」だ。
まずはパルを捕まよう。パルを捕まえるためには以下の行程が必要だ。
パルスフィア(モンスターボール的なもの)の素材を集める
作業台でパルスフィアをクラフト
パルを探す
攻撃して弱らせる
パルスフィアをぶつけて捕まえる
見事はじめてのパルを捕まえた! おめでとう! じゃあもう一度パルを捕まえにいこう!
パルスフィアの素材を集める → パルが素材集めを手伝ってくれる!
作業台でパルスフィアをクラフト → クラフト作業も手伝ってくれる!
パルを探す → パルに乗って楽々移動!
攻撃して弱らせる → パルが戦ってくれる!
パルスフィアをぶつけて捕まえる
はい。ほぼ全部の行程でパルが手伝ってくれるんです。
それだけでなく、建築を手伝ってくれるし、農業も手伝ってくれるし、パルの種類によってはランチャーの弾になったり盾になってくれたり、羊毛を生産してくれたり、さらには食料として食べることも可能、商人に売り払ってお金にしてもOKと、パルの活用の幅はものすごく広い。
図にするとこうだ。
自分はパルワールドはまだ序盤なので記事などを呼んだだけの知識を含む。不正確な部分があるかもしれないが、少なくとも調べた範囲ではパルワールドを構成するほぼ全ての要素にパルが絡むように作られている、という理解だ。(あっているだろうか)
特筆すべきはこのあたりだ。
パルを武器や盾として使える(TPS要素 × パル)
一部パル向けの、パルのための装備を作れる(クラフト × パル)
この要素によってパルの活用の幅が広がっており、パルの個性も強化されている。パルをランチャーで撃ったりパルが銃を乱射したりする、ちょっとネタっぽい遊びに見えるが、TPSやクラフト要素とパルを結びつけるための真面目なゲームデザインとして考えると、非常に利に適っているといえる。
全てが「パル」に回帰していく
そして、パルを活用して得た様々な利益は、そのほとんどがパルに回帰していく。
もうパルと関わりがない要素を見つける方が難しいくらいだ。プレイヤーの装備やプレイヤーの強化要素はあるものの、それによってパルを捕まえることがやりやすくなるのだから、パルと関係があるものだと言えるわけだし。
このように多くの要素がパルのために役に立つ。それによって強くなったパルたちを使ってさらに冒険したりする。その繰り返しにより、常にパルを中心としてゲームサイクルが展開されていく。Pal for all, all for pal. パルは全てのために、全てはパルのために。それがパルワールドの、パルに回帰するゲームデザインだ。
パルを軸としたゲームデザインをさらに補強する要素
パルを軸に、回帰させていくゲームデザインは、製作者は意図して作ったのか? 他のゲームから色々要素を拝借したらたまたまそうなったのでは? と思うかもしれない。でも決してそんなことはないはずだ。この後の説明は、その証明にもなると思う。
①パルが面倒な存在にならないように設計されている
パルの扱いはとても簡単だ。基本的にはパルを投げるとその近くにあるモノを良い感じに処理してくれる。あるいは拠点にパルを置いておくと、拠点内および拠点周辺を見てやれることを見つけて良い感じに仕事をしてくれるし、疲れたら休憩してくれる。
基本的にはこれだけだ。指示出しはワンボタン、拠点でもパル管理ツールでドラッグして枠に入れておくだけだ。パルの管理のために使う時間はほとんどない。冒険ではパルスフィアに入れて持ち運ぶのでいつでもどこでも出し入れでき、これも非常にラクチンだ。
HPが低くなったになったパルをひっこめたり、病気になりそうなパルを休ませたりと少しばかりのお世話は必要だが、基本的には何もしなくていい、というのが基本スタイルだ。(手持ちパルが自動で食事を取らないのは、数限りある食料を勝手に減らされるとプレイヤーに不利益となるため、勝手に食べないようになっているのだと考えられる)
このようにパルはプレイヤーに利益をもたらす一方でプレイヤーに与える害が最小限になるように作られているのだ。
②パルの魅力をさらに増加させる工夫
パルの仕草の可愛さはTwitterなどでも話題になった。パルごとに固有の、個性的なモーションが用意されているので、それらを眺めるだけでもかなり楽しい。
また、パルがケガをしたり病気になったりする要素があるが、これもパルたちがちゃんと生きている感が生まれ、パルをいたわる気持ちを芽生えさせる仕組みとして機能していると感じる。(深くやり込んでいないので不確定だが、酷使して病気にさせるようなプレイは、おそらく非効率的と思われる)
パルの個体ごとに特性が異なり、それを継承できる配合要素や、同種のパルを重ねて強化するパル濃縮などもあり、パルを1匹捕まえた後も同種のパルを沢山集める意義が生まれる作りとなっている。パルを捕まえる遊びにずっと意味が生まれるように設計されおり、フィールド上でパルを見つけるたびに捕まえたくなる。
③パルと関係が浅い部分は作り込まない
例えば工場建築。ベルトコンベアのような部品があるのでそれらを繋げてライン工場を組み立てることができるのかと思いきや、じつはアレは単体で機能する生産作業台であるようだ。
工場要素はかなりシンプルにまとまっているが、もし工場要素が作り込まれて様々な生産がオートメーション化されたらどうなるか。パルの出番が減ってしまうだろう。あくまでパルのゲームなので、工場はパルが活躍できる場所であるべきなのだ。
「人間を捕まえられるが捕まえるのが難しく、捕まえたとしても個性がなく性能も低い」という作りになっているのも同じく「パルが主役だから」という理由だと思われる。もし人間を捕まえたくなってしまったら、人間あつめゲームになってしまう。
他にも、さまざまな「やらない」選択をしているのがパルワールドだ。このゲームはアンリアルエンジンで作られているので物理演算なんてお手のもののはず。ゼルダの伝説から要素を取り入れているのなら、物理演算遊びを取り入れていてもバチはあたらないのでは? と思うかもしれないが、これもパルとの関わりがないので「あえて」入れなかったのだろう。
そのように考えていくと現在のパルワールドのシステムに明確な意図があるように感じられてこないだろうか?
ゲーム体験を通じてパルが愛しくなってくる
パルを軸にゲームを組み立て、パルとその他の要素にしっかり関連を付ける。あらゆる要素をパルに回帰させるように設計する。パルに関わることはしっかり作り込み、パルに関わらないことは小さくまとめる。無駄のないゲームデザインだと思う。
重要なのは、それによってどういった体験が生まれるかだ。「パルを集めたくなる」「パルを育てたくなる」「パルとの生活を存分に楽しめる」といった効果がありそうだけど、なによりも…。
言葉にすると安っぽく感じてしまうだろうけど、このゲームをプレイしていると「パルのことがどんどん愛しくなっていく」だと思う。
捕まえたパルが自分のために甲斐甲斐しく働いてくれてる。ツノがあるやつは木を斬ってくれるし、炎を使えるやつは肉を焼いてくれる。ニワトリ型のパルが玉子を産んでくれるのも嬉しい。馬型のパルに鞍をつければ乗せてくれる。そして命を張って戦ってくれる。道中で出会うでっかいパルに襲われたときは心底恐ろしいけど、それを捕まえることができたときの達成感はひとしお。パルが病気になって辛そうな顔してたらこっちも悲しくなるし、たまに笑顔を見せてくれたときに嬉しくなってしまう。
パルたちがすごくかわいいのよ。
パルワールドは確かに色々なゲームから要素を拝借している。しかしこの「パルを軸に回帰させる」コンセプトも、それによって生み出される「パルが愛おしくなっていく」ゲーム体験も、他からの拝借物ではない、パルワールドが生み出したオリジナルのものであるはずだ。
だからこそ、モンスターデザインにケチがついてる状態がもったいなさすぎる!!!
そんな素晴らしいゲームデザインで、パルがすごくいとおしく感じさせることに成功しているのに、ポケモンからのパクリ疑惑、さらには一般のイラストからのパクリ疑惑まで出てきているこの状態がもったいなさすぎる!
実際、このような問題が出てきている状況でパルたちを好きになることは難しいだろう。罪悪感を感じる、と言う人もいるくらいだ。
パルを愛しく感じさせる見事なゲームデザインと完全に矛盾してしまっている。本当にもったいない! 著作権とかクリエイターとしてのプライドがとかの問題とかそういう話以前に、ゲームの良さをまるきり潰すような行為じゃん、って! ぐうの音も出ないくらいオリジナリティ溢れるしっかりデザインされたパルたちを思う存分愛でさせてもらえたらさあ!! キャラグッズ展開とかも抵抗なくガンガンできてさあ!! 不必要に敵を作らなくてもさあ!!!
…と思えて仕方がない。