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問いの「因数分解」から見えてくる、問いの5つの基本性質

拙著『問いのデザイン』では、複雑な問題の本質を見抜き、適切な課題をデザインする方法から、実際のファシリテーション場面の具体的な問いの設計まで、体系的に解説しました。

その中でも、書籍の後半で紹介している問いのミクロな性質分析が、マネジメントの目標設計やミーティングの問いかけなど、さまざまな場面で有用です。


問いを"因数分解"するという考え方

ファシリテーションの場面で実際に投げかける「問い」の基本的な特徴を紐解くための効果的なアプローチとして、安斎が考案した「問いを因数分解する」というエクササイズがあります。

半分「お遊び」のようなものなのですが、巷のファシリテーションで扱われている「問い」をできるかぎり分解してその構造を探ることによって、問いの持っている性質を読み解いていくための試みです。

たとえば、イベントやワークショップのアイスブレイクの自己紹介の際によく用いられている問いに、「朝ご飯に何を食べましたか?」という問いがあります。自己紹介でお馴染みのこの問いの構造を、精緻に眺めてみます。

サンプル(1)朝ご飯に何を食べましたか?

まず日本語の文章として丁寧にみると、「今日」という時間の指定「あなたは」という主語が省略されていることに気がつきます。これらを復元すると、「(今日、あなたは)朝ごはんに何を食べましたか?」ということなります。

サンプル(1')(今日、あなたは)朝ごはんに何を食べましたか?

問いは、認知的な「探索」を誘発する

この問いを問われた側は、何を考え、どのように答えるでしょうか。おそらくその日の朝、起きて最初に口にした食事をふりかえり、そのメニューを回答するはずです。起きた時間が遅ければ、これは”朝食"といえるだろうか、それとも”ブランチ"だろうか、と悩むこともあるかもしれません。なんらかの事情で朝ごはんが食べられなかったか、もともと朝ごはんを食べない主義であれば、「食べていません」と回答するかもしれません。

いずれにせよ、この問いは、問われた側に対して「個人の経験」について探索させる機能を持っていることがわかります。そして探索の範囲に「今日」という制限がかかっています。

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問いのサンプル(1)の因数分解

以上を一般化すると、以下のような問いの基本的な構造が見えてきます。

・「問い」は、問われた側に何らかの認知的な探索を誘発する。
・多くの場合、「制約」によって探索の範囲が限定されている。

続いて、別の問いを例に考えてみます。同じく朝ごはんシリーズで「今月食べた最も美味しかった朝ご飯は何ですか?」という問いはどうでしょうか。

サンプル(2)今月食べた最も美味しかった朝ご飯は何ですか?

この問いは、探索の期間が「今月」に拡がり、「最も美味しかった」という評価基準が追加されています。メニューの内容だけではなく、食べたときの印象も含めて経験をふりかえる必要があるため、答えを出すまでには少々の時間を要するかもしれません。それでも、さきほどと同様に、「個人の経験を探索させる問い」をベースに、2つの「制約」がかかっている問いとして、構造をとらえることができます。

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問いのサンプル(2)の因数分解

一つの問いに、見えない複数の問いが含まれる場合

少し問いの性質を変えて、サンプル(3)「今月食べた最も豊かな朝ご飯は何ですか?」という問いはどうでしょうか。

サンプル(3)今月食べた最も豊かな朝ご飯は何ですか?

一見すると、さきほどの例と同じ構造をしているようにみえますが、答える難易度はすこし上がった印象を受けます。その原因は、「最も豊かな」という抽象度の高い制約に、「“豊かな朝食”とは何か?」という別の問いが内包されているからではないでしょうか。

これは「個人の価値観を探索させるタイプの問い」で、単に具体的な過去の経験を探索するだけでは、解を特定することができません。問われた側は、「今月」という探索の範囲内で、朝ごはんに関する「経験」を探索し、同時に豊かな朝食に関する「価値観」に対しても探索をかけ、それらを往復しながら納得のいく解をみつけださなければなりません。

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問いのサンプル(3)の因数分解

このように、見た目は「一つの問い」にみえていても、制約のかけ方によっては問いの中にいくつかの小問が包含されている場合があります。これは問いを意図せず複雑なものにしてしまう要因の一つでしょう。

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