トランプ大統領が白紙にした“8つのAI方針”とは バイデン政権が掲げていた方向性を見る

トランプ大統領は就任初日に大統領令を発令し、バイデン前政権のAI規制を含む複数の大統領令を撤回した。バイデン政権時のAIの安全性や倫理性を確保する枠組みを構築する大統領令が取り消されている。

» 2025年01月24日 10時00分 公開
[後藤大地有限会社オングス]

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 トランプ大統領は2025年1月20日(現地時間)、就任初日に大統領令を発令し、前政権で制定された複数の大統領令を取り消した。その中には、2023年10月30日にバイデン前大統領が署名した「人工知能(AI)の安全で信頼できる開発と利用に関する大統領令」(Executive Order 14110)が含まれている。

 バイデン前政権の同大統領令はAIの開発と利用における安全性や倫理性、透明性を確保するための方針を掲げ、連邦政府機関や民間企業がAI技術を開発・運用する際に従うべき枠組みを定めていた。主な方針は次の8項目だ。

  • 安全性とセキュリティの向上: AI開発者に対し、安全性テスト結果や重要情報の共有を義務付けた。特に国家安全保障や公衆衛生に深刻なリスクをもたらすAIモデルについては、トレーニング時の報告や「レッドチーム」テスト結果の提出を義務化している。また米国国立標準技術研究所(NIST)が厳格な基準を策定し、重要インフラの保護に向けた取り組みを強化
  • プライバシー保護: AIを用いた個人データの不正利用を防ぐため、プライバシー保護技術の研究開発を支援。また連邦政府機関における商業データの利用状況を評価し、AIリスクを考慮したプライバシーガイドラインの強化を指示
  • 公平性と市民権の促進: AIアルゴリズムが引き起こす差別の防止に向け、司法省や連邦市民権機関が調査・訴追のためのベストプラクティスを策定。また刑事司法システム内でのAI利用における公平性を確保するためのガイドラインを制定する
  • 消費者、患者、学生の保護: AIによる消費者や患者の被害を防ぐため、ヘルスケア分野でのAI安全プログラムを確立し、AI活用型教育ツールの展開を支援。特に医療と教育分野での責任あるAI利用を促進する方針が示された
  • 労働者の支援: AIがもたらす雇用市場への影響を評価し、労働者への影響を軽減するための報告書作成を指示した。また、職場でのAI利用が労働基準や安全性を損なわないよう、ガイドラインやベストプラクティスを策定
  • イノベーションと競争力の促進: AI研究の全国的な促進に向け、国家AI研究資源の試験運用を開始。小規模なAI開発者やスタートアップ企業を支援する技術的リソースの提供も指示した。さらに高度なAIスキルを持つ移民や専門家のビザ手続きの近代化を通じて、国際的な人材を引き付ける方針を示した
  • 国際的リーダーシップの強化: AIのグローバルな課題に対応するため、国際基準の開発やAIの安全な利用促進に向けた二国間、多国間の協力を拡大。国際標準化機関と連携し、AIの安全性、信頼性、相互運用性を確保するための重要なAI基準の開発と実施を加速させる
  • 政府におけるAIの責任ある活用: 連邦政府機関でのAI導入に関する明確な基準やガイドラインを制定し、AI専門家の迅速な採用や職員の教育プログラムを展開。またAI製品やサービスの取得を迅速かつ低コストで実施可能にする契約プロセスの整備を指示した

 今回の取り消しはAI政策における方向転換を示唆するものであり、トランプ政権の下では規制緩和や経済的利益を重視したAI開発が進められる可能性がある。一方でAI技術における倫理的課題やセキュリティリスクが懸念される中で、この動きがもたらす影響が注目される。

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