「できるマーケター」の生成AI活用術 第2回

あらゆるビジネスパーソンにとってWord、Excel、PowerPointといったオフィスツールは仕事に欠かせない必須ツール。生成AIツール「Copilot for Microsoft 365」を使いこなせば、たとえ新人マーケターであっても、先輩たちに負けないほどの成果を生み出せる。書籍『マイクロソフト「Copilot」の衝撃 生成AI時代のマーケティング』(日経BP、共著)を執筆した赤井誠氏が、生産性を何倍にも高めるための最新Copilot仕事術を紹介する。

Copilot for Microsoft 365を使った資料作成や会議効率化の技を伝授する(写真/jroballo/stock.adobe.com)
Copilot for Microsoft 365を使った資料作成や会議効率化の技を伝授する(写真/jroballo/stock.adobe.com)

 働き始めたばかりの新人のとき、ビジネスパーソンにとって「報連相(報告、連絡、相談)」が重要だという訓示を受けた人も多いだろう。筆者は、新人を対象とするセミナーなどで話をするとき、報連相に加えて、次のことを共有している。

  • 困ったときこそ「手近の人」ばかりを頼らず、「知識の持ち主」を知っておく
  • 何でも「自分の頭で考えよう」とせず、他人の仕事をうまく参考にする

 このノウハウを実践するうえで最適なツールが、まさに生成AI(人工知能)ツール「Copilot for Microsoft 365(コパイロット・フォー・マイクロソフト365、以下Copilot)」である。

 Microsoft 365は、Word(ワード)、Excel(エクセル)、PowerPoint(パワーポイント)などのオフィス製品や、クラウドストレージのOneDrive(ワンドライブ)、コラボレーションツールTeams(チームズ)などを統合したソリューションだ。

 本稿では、先ほど挙げた2つのノウハウを実践するための、特に新人マーケターが知っておくべきCopilotの活用術を紹介していく。

この記事の流れ
  • 通常の対話型AIとの違いは社内の情報共有
  • やみくもに「自分だけ」で考えない
  • 自分のタスク内容を見直す
  • プロンプト入力はシンプルでOK
  • 出力した企画案は「たたき台」
  • 具体的な情報を加えた「社内提案書」を出力
  • 「壁打ち」で提案書をブラッシュアップ
  • TeamsとCopilotで「超効率会議術」
  • コラボレーションで真価を発揮

通常の対話型AIとの違いは社内の情報共有

 Copilotの特長は、ビジネスの現場に浸透したMicrosoft 365に完全に組み込まれていることに加えて、社内の情報を横断的に分析し、情報を共有できることだ。これはChatGPT(チャットGPT)などの対話型AIとの大きな違いとなる。

 例えば、一般向けのChatGPTで「東京オフィスでSEM(Search Engine Marketing、検索エンジンマーケティング)について詳しい人を教えて」と質問したとしても、社内の人の情報を得ることはできない。

 Copilot for Microsoft 365を利用すると、過去の社内にある様々なメール、チャット、Teamsでのやり取りなどを分析して、SEMに詳しい適切な人を紹介することも可能となる。

対象ユーザー 個人向け 個人向け 法人向け
サービス名 Copilot Copilot Pro Copilot for Microsoft 365
利用料金 無料 月額3200円(税込み) 月額4497円(税別) / 年額5万3964円(税別)※1
Web版のCopilot
Word、Excel、PowerPoint、OutlookのCopilot ※2
TeamsのCopilot
GPT-4 Turboによる高速処理 ピーク時以外の時間帯 優先的に利用可能 優先的に利用可能
提供開始時期 2023年11月 2024年1月 2023年11月
※1 別途Microsoft 365の料金が必要
※2 デスクトップアプリで使う場合は別途Microsoft 365の料金が必要
個人でも無料で利用できるWeb版のCopilotのほか、有料版の「Copilot Pro」「Copilot for Microsoft 365」がある。上の画像は無料版のもの。このほかにWindows 11もOS上でCopilotの機能を備えている
個人でも無料で利用できるWeb版のCopilotのほか、有料版の「Copilot Pro」「Copilot for Microsoft 365」がある。上の画像は無料版のもの。このほかにWindows 11もOS上でCopilotの機能を備えている

 入社したばかりで社内の人的ネットワークが十分でない新人マーケターにとって、適切な人に素早くアクセスでき、相談できることは重要なことだ。Copilotによって、上述した「『知識の持ち主』を知っておく」ための第一歩が、簡単に踏み出せる。

やみくもに「自分だけ」で考えない

 さらに企画書やセミナー運営書を毎回ゼロから作成しているようでは、時間の浪費に直結する。これまでも、過去の前例となる資料をファイルの保存場所から探すか、前任者にメールで送ってもらうか、というプロセスを経て、それを参考にしてきたことだろう。

 Copilotを使えば、過去の関連文書の検索を依頼すると、単にリストアップするだけでなく、それらを基にして、文書の下書き作業まで行ってくれる。この社内全体のデータ共有こそがCopilotの真骨頂と言える。まさに、全てをやみくもに一から「自分の頭で考えよう」とせず、前例を賢く参考にするための環境が、Copilotで手に入るのだ。

 もちろん、社長や経営陣によるTeams内のチャットや、人事部門が扱っているファイル共有サービス「SharePoint(シェアポイント)」の機密情報に対して、アクセスできたとなっては問題である。

 企業向けののCopilotでは、基盤となるMicrosoft 365で管理者がしっかりと社員の職位ごとのアクセスやドキュメントのセキュリティー設定ができる仕組みとなっている。

 マイクロソフトの生成AIのブランドであるCopilotでは、無料のWeb版も用意している。これはChatGPTと同様の対話型AIサービスとなる。一方、法人向けアカウントでログインすると、次のような画面になる。

企業向けアカウントでWeb版Copilotに接続したところ。左上のCopilotロゴ横に「職場」「Web」を選択するボタンがある
企業向けアカウントでWeb版Copilotに接続したところ。左上のCopilotロゴ横に「職場」「Web」を選択するボタンがある

 大きな違いは、Copilotロゴの横に「職場」「Web」を選択するボタンがあることだ。このとき、「職場」を選択すると、社内のデータのみにアクセスし、「Web」を選択すると社外のWebなどの情報を利用して、Copilotが回答することになる。

 仕事環境でCopilotを使いこなすうえでは、この「職場」「Web」ボタンを目的や状況に応じて、切り替えて利用することを覚えておこう。

自分のタスク内容を見直す

 それでは、具体的なCopilotの活用例を見ていくことにしよう。

 AIによって、マーケターの仕事が淘汰されるという話を聞いたり、記事を読んだりしたことはないだろうか。それは生成AIの一面を誇張した臆測に過ぎない。

 AIと仕事についての論文や著作の多い独立行政法人 経済産業研究所リサーチアソシエイト(当時は上席研究員)の岩本晃一氏は、同法人が公開している19年のリポートで次のように説明している。

 「現実的には、機械化が進むと、1人の労働者全体が代替されるのでなく、その労働者が行っている様々な作業(タスク)の一部が機械に代替される。機械化が進めば、代替されるタスクは増えるが、いまだに人間そのものを100%代替可能な機械は発明されていない」

 ここでいう機械化というのはAIの導入と置き換えて読んでほしい。一部のタスクはAIによって代替されるが、多くは代替可能ではないという指摘だ。ここから生成AIを仕事で使いこなす第一歩は、仕事を見直して、AIが行うタスク、AIが私たちを支援するタスクと、私たちが行うタスクを区別し、分解することである。

 具体的に、多くのマーケターにとって、関わることの多いセミナー開催に関するタスクを分解してみよう。

  1. 企画立案
    企画内容の策定:セミナーのテーマや内容を決定する
    目標設定:セミナーの目的を明確にし、具体的な数値目標を設定する
    予算設定:目標に基づいて必要な予算を計画する
  2. 事前準備
    日時と場所の選定:参加者が参加しやすい日時とホテルや貸し会議室などの開催場所を選ぶ
    登壇者の選定:講演者を選定し、交渉を行う
    集客手法の決定:メール、SNS、広告などの集客方法を計画する
  3. 直前準備
    集客施策の実施:集客活動を開始し、参加者を集める
    フォローアップの準備:セミナー後のフォローアップ計画を立てる
    当日の資料やプレゼンの準備:必要な資料やプレゼンテーションを準備する
    登壇者への連絡:登壇者に資料作成の締め切りや集合時間などを連絡する
  4. 運営(当日)
    受付と会場設営:参加者の受付準備と会場の設営を行う
    リハーサル:当日の流れを確認し、スタッフと最終確認を実施する
  5. フォローアップ(開催後)
    アンケートの分析:当日集めた参加者のアンケートを分析する
    フォローアップ:案件管理ソフトウエアに情報を入力し、電話などでフォローアップをする

 これらのステップの中からCopilotを活用するシーンをいくつか見ていくことにする。

プロンプト入力はシンプルでOK

 Copilotのような対話型AIを活用するには、まずプロンプト入力に慣れる必要がある。生成AIの使いこなしをテーマとする書籍の多くは、このプロンプト入力を効率的かつ効果的に実行する方法を紹介したものが多い。

 自己流のプロンプトでもある程度の回答は得られてしまうのだが、ここでは、より的確な回答を得るためにプロンプトの要素を整理してみたい。大きく次の4つに分解できる。

指示:文章を書く、画像を生成するといった指示を出すこと

背景や文脈:なぜ、指示を出すに至ったかの背景や文脈を説明すること

必要なデータ:分析するにあたって必要となるデータ(例:URLなど)を示す

出力:テキスト、Wordファイル、PowerPointファイルなど、どういった形式で出力するかを指示する

 企業向けCopilotでの利用を想定したプロンプトの例を示そう。

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