映画『ルックバック』論。あるいはなぜこのめちゃくちゃででたらめな世界で、なぜ「それでも」真摯に生きようとこころみるのか。

 初めに、退屈なほど自明の事実をひとつ。

 『ファイアパンチ』、『チェンソーマン』などの長編で知られる漫画家藤本タツキが2021年に発表したマンガ『ルックバック』はまさに記憶に残すべき傑作だった。

 幼くして画業に優れたあるふたりの少女が漫画家をめざし、幾たびとなく成功と挫折をくり返しながら前へ、前へ進んでゆこうとするこの物語は、発表からわずか30分(!)でTwitterにおけるトピックのランキングで2位にまで上昇するという快挙を生み、いまではなかば伝説的に語られることとなっている。

 悪ふざけとリリシズムを巧みに使い分けるこの若く気ままな天才作家の現時点での代表作のひとつ、そしてこの10年のすべての中短編マンガのなかでも最高傑作のひとつといって良いだろう。

 「創作」という行為の本質をえぐり出し、いまなお多くの作家たちを触発しつづけるすばらしい作品である。

 その『ルックバック』が、このたび、アニメーション映画になった。人気を考えれば必然の展開ではあるものの、じっさい、そのクオリティはどうだったのか。多くの人が気になるところだと思う。

 結論から書いてしまうと、これが、まあ、とほうもない傑作なのである。