真のペーパーレス化は、企業間電子取引の実現なくしては成し得ない。しかし、取引先の理解と協力を得るというハードルは高い。ポイントは「三方良し」の発想だ。自社、取引先、社会のそれぞれがコスト削減、効率化、生産性向上といった価値を享受できること。現状を打開するブレークスルーとなるのがデジタル帳票だ。帳票のPDF化の先へ、デジタルデータを活用した付加価値の高い帳票は、発行側と受領側双方の業務を変革していく。帳票基盤の国内No.1シェア(69%)※を持つウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)が提唱する帳票の新しいコンセプトは、社会を非生産的な業務から解放する。デジタル帳票の重要性について同社のキーパーソンに解説してもらった。

※出展:デロイトトーマツ ミック経済研究所株式会社発刊 ミックITリポート2023年11月号
「帳票設計・運用製品の市場動向 2023年度版」図表2-3-1
【運用】製品/サービスのベンダー別売上・シェア推移 2022年度実績

PDFの帳票は企業間取引のインフラには適さない

コロナ禍のリモートワーク拡大、電子帳簿保存法の完全義務化などにより帳票の電子化は一気に進んだ。しかし、こんな素朴な疑問が浮かぶ。「なぜシステムから出力されたPDFの帳票を、紙に印刷して郵送するのだろう?」、「なぜメールに添付されてきたPDFの帳票を見ながら、社内システムに転記しなければならないのか?」など、PDFの帳票は業務フローで生じるアナログ作業の解消には至っていない。

PDFの帳票は、DX(デジタルトランスフォーメーション)や企業間電子取引の推進において足枷となる可能性がある。理由について、帳票分野を牽引するウイングアークのBusiness Document事業部 副事業部長 新井明氏は話す。

「電子的な取引が普及する一方で、紙帳票でやりとりする企業がまだまだ多いのが現状です。相手先が紙帳票中心で業務がまわっている場合、自社で電子化(PDF)しても印刷して郵送する必要があります。また、帳票をPDF化してメールに添付することで、印刷、封入封緘作業、郵送の手間やコストの削減などのメリットを享受できるのですが、受領側がPDFの帳票をデータとして活用するためには、入力作業が発生します。システムに登録するデータを PDFから直接取り出すことが難しいからです」

PDFの帳票は、限定的な使い方になると言えるだろう。企業間電子取引のインフラとなる次世代帳票のポイントは大きく2つある。1つ目は、相手先のシステム環境を変えることなく容易に利用でき、なおかつ受領側にも効率化などのメリットがあること。2つ目は、社内システムへの入力作業の必要がなく、そのままデータとして活用できること。2つのポイントを満たすのが、ウイングアークが提唱する「デジタル帳票」だ。これまでの帳票のあり方とは一線を画す。まさにデジタル時代の帳票だ。

視認性とデジタルデータの
両方の性質を併せ持つデジタル帳票

ウイングアークは、デジタル帳票を「視認性の高い帳票イメージと、システム連携可能なデジタルデータの両方の性質を併せ持つ、信憑性の高いPDFファイル」と定義。革新性について新井氏は説明する。

「帳票は人間による目視が必要となるため、従来通りに目で見て確認できることが基本です。従来のPDFとの決定的な違いは デジタル化による付加価値が組み込まれていること。システム連携可能なデジタルデータの活用、タイムスタンプなどによる信憑性の担保を実現できます」

ウイングアークが提唱するデジタル帳票は、視認性、データ連携性、信憑性に優れている点が特徴だ

ウイングアークは、デジタル帳票の普及により「帳票生成・保管・データ流通において社会を非生産的な業務から解放する」ことを目指す。ポイントは、「三方良し」の発想だ。デジタル帳票により自社、取引先、社会のそれぞれがコスト削減、効率化、生産性向上といった価値を享受できることにある。

デジタル帳票は、保管を目的とする電子帳票と異なり、企業間取引の業務プロセスを変革する。発行側企業は、帳票をPDFで作成する際に、帳票の元データとなるCSVやPeppol(電子文書をネッワーク上でやりとりするための国際規格)準拠のXMLを添付できることで、デジタルデータとしての活用ができる点が特徴だ。「現在、ERPで取り込み可能なデータ形式は、ほとんどがCSVです」と新井氏は話し、受領側のメリットを説明する。「デジタル帳票が送られてきた相手先企業は、添付されているCSVを利用することで転記することなく自社システムに取り込めます。請求書の経理・会計処理が集中する時期の負荷を大幅に軽減できるというメリットは大きいと思います」(新井氏)

発行側企業は、帳票のやりとりをシステムの中で完結できる。帳票の印刷はもとよりメールに添付する必要もない。人手不足が深刻化する中、自動化により販売業務や経理の帳票処理における手作業を削減し、人材の有効活用が図れる。またデジタル帳票は検索しやすい。CSV出力で他システムやBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールで活用できるなど、DX推進にも貢献する。

企業間取引においてデジタル帳票を活用することで、自動化により販売業務や経理を帳票処理における手作業から解放する

取引先に対してデジタル帳票の受領機能を提供

企業間取引の課題を解決するデジタル帳票。実現する基盤は、帳票を設計し出力する帳票基盤ソリューション「SVF」、文書管理と電子取引の機能を有する「invoiceAgent(以下、インボイスエージェント)」の2製品で構成される。SVFは10年以上にわたって国内トップシェアを維持。インボイスエージェントは電子帳簿保存法対応、ペーパーレス化を背景に導入が拡大している。また、2製品を組み合わせて企業間取引基盤として活用するケースも増えている。

ポイントは、2製品による企業間取引基盤上でデジタル帳票が循環するということだ。ウイングアークの独自技術によりSVFでPDF帳票を作成する際にデジタル帳票化する。デジタル帳票は、インボイスエージェント文書管理で保管し、さらにインボイスエージェント電子取引により取引先に配信される。その際、デジタル帳票の内容に対して確認(承認/否認)や文書の返信の依頼も可能だ。デジタル帳票を受け取った取引先は、配信元に承認の可否を返信。承認されたデジタル帳票は転記することなく、取引先の社内システムにデジタルデータとして連携させることができる。

デジタル帳票基盤は、帳票のデジタル帳票化から保管、配信、受領、社内システムへの連携まで、帳票業務の全体最適を実現する。

デジタル帳票基盤はSVFとインボイスエージェントの2製品で構成され、ワークフローやERPとの連携も容易だ

企業間電子取引は、相手先企業の了解を得て初めて成立する。「ウイングアークはデジタル帳票の普及に向けて、インボイスエージェント電子取引の受領機能(私書箱)を取引先に対して無償で提供します」と新井氏は話し、こう続ける。「自社の電子取引を拡大するために、取引先に新システムの導入や改修を求めるのは非現実的です。デジタル帳票基盤は、取引先のシステム環境はそのままに、コスト的負担もかけることなく、電子取引に対する協力を依頼できます。また、取引先は受領したデジタル帳票を、電子帳簿保存法の電子取引要件を満たした形式で保管することが可能です」

また、企業間で帳票のやりとりを行う場合、折り返しが課題となる。「従来、PDFの帳票を受領側で印刷し必要事項を記入後、再度PDFにして送り返してもらうといった作業が発生していました。デジタル帳票を使うことで、相手先が必要事項を入力し、それを発行先に返すことで、システムの中で折り返しも完結できる仕組みを開発中です」(新井氏)

デジタル帳票を社会へ浸透させるためには、信憑性が欠かせない。「電子帳簿保存法対応でタイムスタンプが普及しました。現状のタイムスタンプは受領側で付与しています。受け取った後に改変されていないことを証明するためです。本来は、発行時点で付与することが必要です。インターネットを通じて配信するため、外部から改ざんされる可能性もありますし、受領後にタイムスタンプが押されるまでの間に社内で改ざんされる可能性もあります。デジタル帳票基盤では、発行時にタイムスタンプを押すことができます。また、デジタル帳票を発行する際に、データ発行元の組織の正当性を証明するeシール(Electronic seal)への対応も進めています」(新井氏)

SVF導入企業にとって、デジタル帳票基盤へのアップデートは投資対効果の観点でも検討に値すると、新井氏は話し、こう続ける。「請求書、納品書、発送伝票、各種報告書・証明書など、これまで紙の帳票で取引先とやりとりしていたことを、デジタル帳票に置き換えることで生み出されるコストや工数の削減効果は計り知れません。またERP移行を機に、デジタル帳票基盤を導入することで、デジタル時代の企業間取引を実現できます。企業、サプライチェーンはもとより、社会全体の生産性向上を実現するために、デジタル帳票の普及・啓蒙に力を注いでいきます」

日本企業の業務効率化に向けた未開拓領域と言える帳票の世界。PDF化の先へ、デジタル帳票により真のペーパーレスを実現することで、環境保護、働き方改革、生産性向上などさまざまな経営課題の解決に貢献していくだろう。

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