「本物のクモ糸を模倣するフェーズから移行した」――。人工クモ糸の開発で有名なベンチャー企業Spiber(スパイバー)が、最近はクモ糸を前面に押し出さなくなった。2019年6月に開催した、スポーツアパレルのゴールドウインとの共同記者会見では、Tシャツ用に開発した繊維を「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein、微生物で作るタンパク質)」と名付けて呼んだ。
Spiberは2016年に、トヨタ自動車と共同で人工クモ糸を利用した「レクサス」向けの自動車シートのコンセプトモデルを作成したが、人工クモ糸の実用化はアパレル分野が先行するとしていた。今回の会見で登壇した同社代表取締役の関山和秀氏の様子を見るに、脱クモ糸は大きな決断だったようだ。
Spiberは、丈夫で軽いクモ糸を繊維として工業的に製造することを目指し、2007年に創業した。クモ糸は、軽量でありながら鉄鋼の約340倍の靭性(タフネス)があり、昔から有用な素材と考えられてきた。だが、クモは共食いをするのでカイコのように家畜化して工業的に製造するのが難しい。
そこでSpiberは、微生物を用いた人工クモ糸の量産を目指した。具体的には、天然のクモ糸(タンパク質)を構成するアミノ酸をベースに遺伝子配列を設計。DNAを合成し、設計した通りの遺伝子配列を作成して微生物にタンパク質を作らせる。同社はこの方法でクモ糸をベースにしたタンパク質繊維「QMONOS」を開発。2013年には、QMONOSを利用した青いドレスを、2016年にはレクサス用の自動車シートのコンセプトを発表した。