始めるのをやめよう。終わらせることを始めよう。
あなたのチームがいくつも未着手の仕事を抱えているとき、どのようにそれらに着手し、そして完了させていったら良いでしょうか?
アジャイルには「始めるのをやめよう。終わらせることを始めよう。」という言葉があります。Tebiki株式会社では、この考え方を基本として、
デスクレスワーカーのための現場教育SaaS「tebiki」を開発しています。
この記事では、新しい仕事を「始める」ことを優先する場合と、仕掛り中の仕事を「終わらせる」ことを優先する場合の比較をしながら、かつては「始める」ことを優先していた Tebiki社が「終わらせる」ことを重視するように変わっていった事例を紹介したいと思います。
仕事が「終わる」とは
まず前提として、仕事が「終わる」とは、どういうことでしょうか?たいていの仕事では、まず必要な作業を計画し、それを実行することでその仕事を進めるはずです。
それでは、計画していた作業をひと通り実行し終えた瞬間、その仕事は「終わった」のでしょうか?いえ、たいていの場合は、そうではないでしょう。ある仕事を完成させるために必要だと思われる作業を完了し、それによって仕事の目的が果たされたと認められたときに、初めて仕事が「終わった」と見なされるはずです。
「始める」優先と「終わらせる」優先
それでは、新しい仕事を「始める」ことを優先する場合と、仕掛り中の仕事を「終わらせる」ことを優先する場合を比較し、どのような違いが生まれるかを見ていきましょう。
新しい仕事を「始める」ことを優先する場合、3人の人が一斉に個別に仕事を「始め」ます。そしてそれぞれの仕事を単独で「終わらせ」ます。
一方、仕掛かり中の仕事を「終わらせる」ことを優先する場合、3人が、1つの仕事を協力して行います。皆で 1つの仕事を「終わらせた」ら、次の仕事も同様に皆で「始め」ます。
どちらの場合も 大体同じ時期にすべての仕事が「終わり」ました。一見するとどちらの方法でも変わらないように見えます。しかし、注目すべきは仕事が「終わった」後です。これについて、次の節で説明していきます。
より経済的なのはどちらか?
それぞれの図にもう少し描き込むと、どちらが経済的に優れているのかがハッキリ見えてきます。描き込むのは、「仕事によって得られる価値」です。
ここでいう価値とは、例えば、直接的な金銭的利益や、製品の市場価値、市場からのフィードバック、業務効率の向上、コスト削減などのことです。これらは普通、そのための仕事が「終わる」と得られ始めます。
上の図を見て、どちらがより多く価値を得られているでしょうか?
明らかに右の、仕掛り中の仕事を「終わらせる」ことを優先するパターンのほうがより多くの価値を得られています。一方、左の新しい仕事を「始める」ことを優先するパターンでは、どの仕事も価値を得られ始めるまでに等しく長い時間がかかってしまっています。
もしここでいう「価値」を金銭的な利益とするなら、「終わらせる」パターンと「始める」パターンではキャッシュフローの差は歴然です。また、利益はすぐに再投資できるため、時間が経てば経つほど、より早期に利益を得られる「終わらせる」パターンのほうが事業成長速度で優位になります。
また、金銭的な価値以外でも考えることができます。例えば、「これを成し遂げれば業務が効率化される」「これをやっておけば商談成功率が上がる」という仕事があった場合、それを最初に集中して「終わらせる」ことで、後続の仕事はすべてその恩恵を受けた状態で行えます。これも、仕事を「終わらせる」ことを優先することのメリットです。
むやみに「始め」ないことで得られる競争力
新しい仕事をむやみに「始め」ないようにすることで、市場の様子を伺いながら決定をギリギリまで先延ばしにすることができます。
乏しいリソースでとにかく早く「始める」場合、その仕事にかかる時間は長く、その間に状況が変わってしまい、せっかくの仕事が無駄になってしまう可能性が高まります。
一方で、最初から豊富なリソースで「始め」られる場合、乏しいリソースの場合に比べて仕事にかかる時間は短縮されます。つまり、ギリギリまで状況を見極めて、最新の時点で最も価値のあるものを素早く作って市場に出す、ということが可能になります。
順番に「終わらせる」上で気をつけること
順番に仕事を「終わらせ」ていくときに気をつけなければならないことがあります。それは、ひとつの仕事の規模です。ひとつの仕事の規模が大きくなると、それを「終わらせる」ためにかかる期間も長くなります。最悪なのは、長い期間をかけてひとつの仕事を「終わらせ」たと思ったら、既に状況が変わってしまっていた、というケースです。これは何としてでも避けなければなりません。
仕事の規模について、どれくらいがベストかという答えはありません。しかし、ターゲット市場の変化のしやすさがひとつの目安になるでしょう。一般的にひとつの仕事の規模が小さいことに越したことはありませんが、市場が変化しやすければしやすいほど、ひとつの仕事の規模を小さくし、方向転換しやすくすることが重要になってきます。
例えば、Tebiki社がメインターゲットとする SaaS市場は、最も状況が変化しやすい市場のひとつです。そのため、ひとつひとつの仕事をできるだけコンパクトにし、1週間単位で方向転換できるようにしておくことで、市場変化のリスクを小さくしています。完了した仕事については、毎週レビューを行い、我々が市場にどのような影響を与えたのかを話し合います。そして、そこで得られた知見を活かして、翌週はどのような動きをするのかを決めています。
全員が「仕事を終わらせるためには何でもする」ことで、個人の能力を最大限に活かせる
「この仕事は山田さんしか詳しくないから、鈴木さんと渡辺さんがいても戦力にならなさそう」という場合はどうでしょうか?その仕事に関する作業はすべて山田さんしかできないものでしょうか?
鈴木さんは、実は文書を作成する能力に秀でているのではないでしょうか?
渡辺さんは、説明の論理に漏れがないかを発見するのが上手かったりしないでしょうか?
仕事の知識だけでなく、個人が持つ能力が活かせる場面は多くあります。全員が「仕事を終わらせるためには何でもする」ことを意識することで、この能力が活かされやすくなり、結果として、仕事を早く「終わらせる」ことに繋がります。また、仕事を個人に依存させないことで、欠員リスクを抑えることができます。
もちろん、上記のような個人差や調整コストなどがあるので、人数に正比例してアウトプットが増加していくわけではありません。しかし、そのようなコスト類を加味しても、変化の激しい市場をターゲットにしている場合、1人でやるのに比べて早く終わるのであれば、複数人で取り組むメリットのほうが勝る可能性が高いです。なぜなら、そのような市場で優位に立つためには、1日でも早く仕事を「終わらせ」、そこからフィードバックを得て、そしてすぐに次の一手を打つことが極めて重要だからです。
Tebiki社の事例
ここで、Tebiki社が「始める」から「終わらせる」にシフトしていった事例を紹介します。
過去の Tebiki社では…
Tebiki社では、かつて、5人の開発チームを更に 2つのサブチームに分け、サブチームごとに異なるテーマの仕事(例: 検索系の機能、分析系の機能、など)に取り組んでいました。また、サブチーム内では、個人が仕事を「始め」て、「終わらせ」ていました。リソースをできるだけ分散させ、並列に仕事を進めることを目指していたため、ひとつの仕事が「終わる」までが非常に長く、ある機能が 2ヶ月間ずっとコーディングとレビューを行き来することもありました。また開発者たちの間では、自分以外がどういう状況なのかよく分からず、助け合うこともなかなか難しい状態でした。更には、”他人がやった仕事” をレビューするために、その仕事の理解から始める必要があったため、かなりの時間を要していました。
今の Tebiki社では…
Tebiki社では、この問題を解消するために、開発チームを 1つに戻し、皆が同じ仕事を協力して「終わらせる」ようにしました。これには、スクラムの導入と、ノンソロ開発(ペア作業やモブ作業)の導入が効果を発揮しました。毎朝、デイリースクラムと呼ばれる 15分のミーティングで、その日はどのようにペアやモブを組み、どのように作業するかなどの戦略を決めます。ある仕事を早く終わらせるためには各メンバーがどのように協力すれば良いかを皆で考えることで、これまでと比較して劇的に仕事が早く「終わる」ようになりました。
ひとつひとつの仕事が早く終わるようになったことによって、仕事が週を跨ぐこともなくなりました。これは、週の終わりに必ず、仕事の結果をレビューできることを意味します。このレビューの結果を踏まえて次の週の仕事に取り組むことで、プロダクトの価値をより効率的に高めていくことができるようになりました。これは今では Tebiki社が市場での競争力を維持する上で欠かせない戦略となっています。
また、仕事によっては “人数倍以上” の効率で仕事を「終わらせる」こともできるようになりました。複数人で一緒に作業することで、仕事のレビューの時間や差し戻しの無駄が大幅にカットされ、それが、より早く「終わらせる」ことを可能にしました。
あなたの仕事では?
「始めるのをやめよう。終わらせることを始めよう。」は、あらゆる仕事に適用できます。
あなたの職場ではどんな仕事に適用できそうでしょうか?ちょっと想像してみてください。何か思い付いたら、ぜひ周りの誰かにアイディアを共有してみてください。
私たちは仲間を募集しています!
Tebiki社では、「始めるのをやめよう。終わらせることを始めよう。」の精神で、今最も価値があるものをムダなく最短距離で作っていく仲間を募集しています!いちどカジュアルに話してみませんか?
執筆者
三宅 拓馬
Tebiki株式会社 のエンジニアリングマネージャーです。キャリア支援や採用のほか、会社全体のアジャイルコーチとして、スクラム、テスト駆動開発、ペア・モブプログラミング、ドメイン駆動設計などを支援したりしています。