実務で携わらなくちゃダメなんだ――Android開発者はネイティブアプリの夢を見るか?
転職者プロフィール
クックパッド株式会社
モバイルファースト室
八木俊広さん
(2013年10月入社/31歳)
【仕事内容】
ドラッグストア、Webアプリケーション開発会社を経て、組み込みを中心とした受託開発を行う会社に就職。Android OSやiOS向けアプリ開発のプロジェクトマネージャー、およびプログラマーとして活躍。その他にも、新入社員向けの研修資料作成、月次の事業所会議の企画と運用、ISMSの部署内の管理者なども任される。
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クックパッドのAndroidネイティブアプリ開発に参加。アプリのリリース後は、モバイルファースト室のメンバーとしてアプリの機能追加やメンテといった実務の傍ら、社内でモバイル開発ができるエンジニアを増やす活動にも従事。設計〜開発〜テスト、開発フローなどAndroidアプリケーションに関するあらゆる部分についてベストプラクティスを模索し、実践している。
クックパッドのアプリを進化させた一人のエンジニア
料理レシピの投稿・検索サイトとして1998年に誕生した「クックパッド」は、現在、投稿レシピ数170万品を超え、月間のべ4000万人(ブラウザーベース)以上に利用されている人気サービスに成長している。
そのクックパッドが、モバイルファーストの流れを促進するべく2014年3月にAndroid OS用のネイティブアプリをリリースした。その開発の主力メンバーが、今回お話を伺った八木俊広さんだ。
クックパッドのアプリを進化させた八木さんは、もともとはドラッグストアの店員という異色のキャリアを持つエンジニアだ。八木さんがエンジニアの道に進み、Androidアプリの開発スキルを身に付け、クックパッドのアプリ開発に携わるまでには、それぞれのタイミングで直面する課題があった。一貫して言えるのは「このままではいけない」という強い意志を持ってさまざまな局面を乗り越え、キャリアアップを果たしてきたということだ。
現在、何らかの困難に直面しているエンジニアにとって、八木さんのこれまでのキャリアは大きな励みになるに違いない。
リーマンショックを乗り越えAndroidエンジニアへ
若いころの八木さんは、ITとは無縁だった。
高校を中退して家出をし、ドラッグストアで働きながら生計を立てていた。エンジニアへの道に進むきっかけとなったのは結婚だった。
「お義父さんから『働きながら大学を卒業するという方法もある。何なら就職先も紹介する』と言われ、なるほどと思い、夜間の大学に通うことにしました。ただし、就職先まで紹介してもらうのは気が引けたので、自分で探しました」
就職先として選んだのがIT企業だった。2006年のことである。Webアプリケーション開発のエンジニアとしてスキルを磨き、最終的にはPL的な立場で活躍していたという。しかし、2008年にいわゆるリーマンショックが起こる。
景気は低迷。八木さんが働いていた会社も仕事が少なくなり、社員の多くが休業状態になった。しかし、のんびりとはしていられない。早く次の職を探す必要があったが、世の中には職を失ったWebアプリ開発エンジニアがたくさんいた。人とは違う強みを持たなければならないのは明白だった。
勤務先では厚生労働省の「雇用調整助成金」を利用した教育訓練が行われ、八木さんは「Android研究」講座を受講した。この時、あまりの面白さに「仕事だけじゃ、もったいない」と感じ、会社の営業活動のためだけでなく、個人としてもAndroidアプリ作成に夢中になっていった。
2011年、Androidアプリの開発を手掛けられることを条件に会社を選び、組み込み系ソフトウェアの受託開発を中心に行う会社に就職した。
「入社してすぐにiOSエンジニアとして大手のサービス企業に派遣されました。担当はiOSでしたが、実はAndroidエンジニアだということはすぐに周囲に知れて、その後1年間、iOSとAndroidのアプリケーション開発をしました」とはいうものの、メインはiOSだった。
2012年には社内の有志4人で、ソーシャルゲーム制作のプロジェクトを立ち上げた。会社から予算1000万円を確保し、サービスをイチから構築する意欲的なもので、八木さんもPHPによるサーバーサイドの開発で同プロジェクトに参画した。この、サービスは終了後に、全コンテンツをフリーで公開するなど、ファンの間で話題になった。その他にも、社内外で新入社員研修やプログラミング講師を務めるなど、多方面で活躍した。
しかし、入社して2年ほどが過ぎたころ、八木さんは疑問を感じ始める。「Androidアプリを開発したくて入社したのに、全く実務に携われていない」という事実に、焦りを感じたのだ。
「仕事でやらなきゃ!」という強い思い
その焦りをさらに増大させたのが、2013年6月のGoogleの開発者向けイベント「Google I/O 2013」だった。 「『Google I/O 2013』で高速な通信ライブラリ『Volley』が発表されたのですが、この時、仕事でアプリ開発をしている人と、個人でアプリを開発している人との間に、感覚の差があることを知りました」
Volleyが発表されたといっても、まだGitのツリーが示されただけ。八木さんは、すぐにGitリポジトリをクローンして、ソースコードを自分でコンパイルし、プログラムに取り入れてみた。しかし実務でAndroidアプリを開発している人たちは、正式なライブラリとしてSDKに取り込まれ、Jar形式での配布がされなければ製品に取り入れることはできない、というスタンスだった。彼らは正式リリース前のライブラリを使って不具合が起きたら、ビジネスに損害を与える可能性があると考えているからだった。
自分に「仕事」という視点が足りないことを思い知らされた。「仕事としてAndroidをやらなきゃ!」という強い思いに駆られた。そのためには「確実にAndroidのアプリ開発に携われる環境に身を置くべきだ」と考えたという。
ネイティブアプリへのこだわりでクックパッドを選ぶ
そして、八木さんの三度目となる転職活動が始まった。ターゲットは、まだAndroidのネイティブアプリをリリースしていない企業。自社サービスを持ちながら、Webベースのハイブリッド型アプリしか存在しない企業ならば、八木さんの理想とする開発に携われるのではないかと考えたからだ。
そこには、八木さんのネイティブアプリへのこだわりがあった。Android OS搭載端末で利用するサービスなら、Web画面の表示を中心としたハイブリッド型のアプリではなく、Android OSに最適化されたネイティブアプリを用意するべきだ、と常々考えていたからである。
「これはスマートフォンに限らず、あらゆるデバイスについて言えることです。人が情報を読み取るものは、デバイスのサイズや、端末との距離、端末のハードウェア特性、利用するシチュエーションなどに応じて、最適化されているべきです。マルチプラットフォームのアプリケーションでは、どこかに妥協が残ってしまいます。ユーザーの使いやすさを追求するなら、プラットフォームへの最適化が必要なのです」
そのころクックパッドでは、モバイルファースト(先にモバイルサイトに着手し、その後PCサイトを作成する手法)の流れに沿って、Androidのネイティブアプリ開発の企画が持ち上がっていた。そうしたタイミングも幸いし、2013年10月、八木さんはクックパッドに入社。同月から、ネイティブアプリ開発が正式にスタートした。
「入社1カ月で満足し切った感じでした。何しろ毎日のようにAndroidアプリの開発に没頭できましたから(笑)」
こうして2014年3月に、クックパッドのAndroidネイティブアプリがリリースされた。
現在、八木さんは、2014年2月に立ち上がったモバイルファースト部の中心的メンバーとして、アプリの機能追加やメンテナンスといった開発実務の他、社内にモバイル系のエンジニアを増やすため、新人研修での資料作成や、他部署に対する技術相談・支援などにも取り組んでいる。
技術を前提に事業をドライブしていきたい
八木さんに、今後の目標を尋ねてみた。
「今から5年前にはスマートフォンは一般的ではありませんでした。それを考えると、今から5年後のことは想像もつきません。しかし、2020年ごろには何らかのパラダイムシフトがあるのではないかと考えています。それが、現在いわれているようなウェアラブルデバイスなのかどうかはまだ分かりませんが、新しいデバイスにも積極的に食らいついていきたいです」
また「事業をドライブしていくこと」にも興味があるともいう。新規事業をイチから興して、育てていきたいのだとか。
「技術力は大前提として、その技術を使っていかに課題を解決していくか、今度は事業という視点でモノを見られるようになりたいと考えています」
クックパッドという、アプリ開発者にとって最高の仕事環境を手に入れた八木さんが新たな事業をドライブするようになった時、何が生まれるだろうか。どのようなデバイスが主流となっても、それはきっと、ユーザーのことを最も考えたアプリになるだろう。今から楽しみだ。
元技術部長、現CTOの舘野さんに聞く、八木さんの評価ポイント
一つ目に、とても学習意欲があることですね。必要な技術をしっかりと追いかけて、どんどん吸収していける。
二つ目に、素直さですね。クックパッドは「ユーザーファースト」を掲げ、ユーザーにとって何が大切かを常に考え、行動する必要があるのですが、八木さんならクックパッドならではの考え方を素直に受け止め、自分の経験と掛け合わせて良い物を作っていけると感じました。
三つ目に、経歴が面白いことですね。ずっと技術畑どっぷりでない代わりに、いろいろなことにチャレンジできる、そのチャレンジ精神旺盛なところが良いと思いました。
※企画・制作:@IT自分戦略研究所編集部
※JOB@ITの記事(2014年7月)に再編集を加えて掲載しています。
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