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「ビットコインには意味がない」と言われている。
当時、世界最大のビットコイン取引所であったマウントゴックスの閉鎖(2014年2月)を見て、いつなくなるか不安な貨幣など所有する「意味がない」。その匿名性ゆえに闇取引などに使用されてきた犯罪性を見て、そのような世界とは無縁の暮らしをしているから「意味がない」。あるいは乱高下を繰り返す為替レートを見て、ギャンブル性の高い不確かな通貨にあえて手を出す「意味がない」。クレジットカードがあれば、PayPalがあれば海外送金もできるから、“もうひとつのお金”をもつ「意味がない」…。
果たして、本当にそうだろうか。
2014年1月、『ニューヨーク・タイムズ』紙に「ビットコインはなぜ重要なのか」という言説を寄せた投資家マーク・アンドリーセンは1年後、自身の論に対して寄せられた批判に対してTwitterで反論し、「それでもやっぱり重要だ」と宣言している。事実、ビットコイン活用の芽を探る多くのスタートアップが生まれ続けている。どうやらビットコインには、ただの「通貨」を超えた可能性が潜んでいるのだ。
以下、その理由を見ていこう。
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人々がどう思っているかはともかく、暗号通貨の人気は無視できない。今日すでに、デルやエクスペディア、ペイパル、マイクロソフトなど、数多くの数十兆規模の企業がビットコインを支払い手段として受け入れている。ビットコインをはじめとする暗号通貨は、もはやないがしろにできないのだ。
ここでは、ビットコインを語るうえで欠かせない「ブロックチェーン・プロトコル」と、そのうえで育ちつつある「生態系」について説明していこう。
1974年12月、ヴィント・サーフとロバート・カーンは、ある革命的なものを設計した。TCP/IPインターネット・ネットワーク・プロトコルだ。
「プロトコル」は、礼儀作法とよく似ている。「ありがとう」と誰かに言うとき、わたしたちが予測する通常の反応は「どういたしまして」だ。そうするよう明記された規則があるわけではない。しかし、こうしたやりとりは、暗黙のコミュニケーション・プロトコル(あらかじめ決められた礼儀作法)として維持されている。
それと同じように、TCP/IPは当初、コンピューター同士がARPANETを通じて接続できる手段として開発された。以来、このプロジェクトは指数関数的に変化し、どんなコンピューターでも互いに交信しあえるようになり、いまでは「モノのインターネット化(Internet of Things=IoT)」に代表されるように、すべてのものがつながりあうインターネットへと変貌を遂げつつある。
しかし、基盤となる技術は変わっていない。IPアドレスはいまでも、すべての電話機、タブレット、あるいはコンピューターにとって固有の郵便番号のようなものとして機能しており、TCPとIPはともに、送り届けるべき相手にデータが送られるようにするために使われている。
この仕組みをもとにハイパーテキスト・トランスファー・プロトコル(HTTP)を開発したのが、「インターネットの父」、ティム・バーナーズ=リー(1955-)だ。そしていまでは、HTTPだけでなくDNSやARPのようなプロトコルが、慣れ親しんだネットワーク体験を提供してくれている。Eメール、検索エンジン、ウェブページ、API、そしてその他のインターネットサーヴィス(SaaS、PaaS、IaaS)は、すべてHTTPの枠組みから進化し、わたしたちに今日の「電子経済」をもたらしてくれているわけだ。
TCP/IPに基づいたインターネットが進化して、ビジネスをドライヴさせていったように、ブロックチェーン・プロトコルもまた、同じ過程を繰り返している。専門家らは、インターネットの誕生を再び見ているようだとさえ話している。
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ではまず、この新しい技術はいったいどのように機能するのだろうか。
まずビットコインのネットワークは「中枢をもたない」。そのため、ネットワーク上の2者間でトランザクションが行われるたびに、それが確かにその2つのアカウント間で行われていること、二重決済になっていないことを保証するために「検証」と「認証」が必要になる。
ブロックチェーンにおいてこの認証プロセスを行うのが、ネットワーク内の「マイナー(Miner)」たちだ。彼らは、比較的利用しやすい専用ソフトウェアと高度な処理能力をもったコンピューターとを用いて行われているトランザクションを検証する。
ビットコインのネットワーク上で起きているすべてのトランザクションは、マイナーによって数分おきにパズルのように計算され、「ブロック」としてつくり出される。簡単に言うなら、彼らは、検証されたトランザクションのファイル(過去10分以内にネットワーク上で生じた、すべてのトランザクションの記録のコピーが収められている)を作成している。
マイナーたちには、その労力に報いるべくビットコインで報酬が与えられる。そしてこれこそが、ビットコインと通常の銀行取引システムとを分かつものだ(この世に存在するビットコインの総数は2,100万に固定されているため、マイナーへの支払いは、埋蔵金の発掘とよく似ている)。
各ブロックはそれぞれ、ひとつ前の時間帯でつくられたブロックと連なっている。この連続するブロック「ブロックチェーン」におけるプロトコルが、「ブロックチェーン・プロトコル」と定義されている。
TCP/IPとブロックチェーン・プロトコルの違いはここにあって、TCP/IPは「情報交換」のプロトコルであり、ブロックチェーンは「価値交換」のプロトコルなのだ。
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(ビットコインの発案者のひとりともいわれる)サトシ・ナカモトによるリポートがインターネット上に公開されて以来、多くの暗号通貨が市場に現れている。しかし、ブロックチェーン・プロトコルと、その価値を生み出すために共有される演算機構そのものに変わりはない。
そして、インターネット上での開かれた交信のためのプロトコルが利益を生むビジネスを生み出したのと同じように、ブロックチェーン・プロトコルも、価値の付加された連鎖反応を生み出しうるビジネス基盤を提供する。この強固に結びつけられたトランザクションの格子を利用した大きな価値交換の革命が、いま、市場に入り込もうとしている。
まずは「マイクロペイメント」(少額決済)と呼ばれる分野が挙げられる。今日利用されている支払いシステムは1950年代に設計されたもので、それぞれのトランザクションには最低コストが設定されている。しかし、支払額が例えば5ドルのような少額の場合には、このシステムは適していない(ちなみにこの仕組みがいまも残っている理由は極めて単純で、2013年に行われた総取引額に対して8.9パーセント、全体で480億ドルの利益が生み出されている)。
TCP/IPが情報を瞬時に送るのを可能にしたように、ブロックチェーン・プロトコルは、価額の多寡にかかわらず、瞬時に送ることができる。そしてこの特徴を利用している企業のひとつが、「ChangeCoin(チェンジコイン)」である。
ChangeCoinは、マイクロペイメントのためのインフラをウェブ上で提供している。例えば、あるウェブサイトの記事があって、その全文を読むのにはいくばくかの購読料が必要だとしよう。このときマイクロペイメントの仕組みがあれば、利用者は記事を読もうと入力フォームに記入して購読の登録をする手間なく、記事ごとに設定された数セントの代金を支払える。
これを発展させれば、ケーブルテレビの視聴料に応用できるかもしれない。視聴者は、全200チャンネルの料金ではなく、自分が普段見る4~5つのチャンネルだけに支払いをすることができる。ほかにも、例えばWi-Fiのホットスポットに応用すれば、利用者は自分が使用したデータ量に応じた支払いが可能になる。
ウェブコンテンツの消費者はいまや、記事に対してただ「いいね!」をする代わりに、少額のビットコイン(それは5セントでもいい)をコンテンツ製作者に支払うことができるのだ。これは、評価を示すための革新的な方法であるだけでなく、コンテンツ製作や展開におけるビジネスモデルを変えるものになるかもしれない。
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次に「ブロックチェーンAPI」の分野の話をしよう。「CHAIN(チェイン)」のような企業は、開発者らにブロックチェーン・プロトコルに基づいたAPIの構築に取り組んでいる。
例えば、「FileCoin」(エネルギー、通信帯域、記録容量、情報処理などの「デジタル上のリソース」を、それを必要とするデヴァイスやサーヴィスに割り当てるAPI)や、オキュラス・リフト用のAPI(これによって、商取引におけるヴァーチャルとリアルの境界線は失われていくことになるはずだ)が、それだ。
そのほか、ブログへのチップ支払いや、カーシェアリングのドライヴァーへのチップ支払いを円滑にするAPIの存在は、消費者がサーヴィス提供側にも回るシェアリングエコノミーにおいて、非常に有用だ。
また、流通するお金の信頼性を担保する必要もある。「スマート・コントラクト」というプログラムは、特定の条件と出力をエンコードするプログラムで、ある2者間でのトランザクションが生じたときに、製品やサーヴィスが販売者から送られたかどうかを検証してくれるものだ。このとき消費者が支払った料金は、検証が終わってはじめて販売者の口座に送金される。
この分野への劇的な進出を行っているある企業として挙げられるのが「Codius(コーディウス)」というスタートアップだ。
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この“スマートな契約”は、商取引だけでなく法制度にも進出しつつある。「Empowered Law(エンパワード・ロー)」のような企業は、ブロックチェーンを構成するトランザクションの公開記録を利用して、資産保護、資産計画、紛争処理、賃貸、企業統治のための、マルチシグネチャー口座(複数の秘密鍵のうち、いくつかの組み合わせでトランザクションを行える口座)を提供している。この方法を活用することで、ビットコインを使って(ほかのビットコインでの取引と同じ簡単さと速さで)家を販売できるのだ。
ビットコインのシステムにおいて保有される資産は、所有権が電子的に記録されている「デジタル資産」だといえる。ブロックチェーンは「中枢のない資産登記簿」なので、ビットコインに限らずあらゆるデジタル資産についても、所有権を登録したり、送金したりできる。
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この概念をさらに一歩発展させたのが、「スマート財産」である。スマート財産はブロックチェーンを介した取引だ。
例えば、あなたがもっている自動車の所有権が、ブロックチェーンによって証明されている、としよう。この自動車がインターネットに接続され、ブロックチェーンを読み取ることができるようになると、このデジタル財産の状態は、常に追跡できることになる。そして、このスマート財産があるアドレスから別のアドレスへと移行すると、実在する自動車はその状態をブロックチェーンから読み取り、所有者を変更することができるのだ。
これこそ、すべてのものがインターネットにつながることによる恩恵だといえる。
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2015年に刮目すべきものとして、まず「Ethereum(イーサリアム)」を挙げたい。Ethereumは、暗号化された取引台帳と、チューリング完全プログラミング言語を一体化させようとしている(チューリング完全プログラミング言語は、ほかのどんなコンピューター言語もシミュレーションすることができる)。Ethereumは、ブロックチェーンを取り扱う万能ナイフのような存在を目指しており、エンジニア以外の利用者でもウェブに投資できるようになるブラウザー「Mistブラウザー」をつくりあげようとしている。
次に、「パラレルブロックチェーン」と「サイドチェーン」について述べておきたい。一部の開発者は、単一のブロックチェーンに頼ることを不安視しており、異なるブロックチェーンの立ち上げに注目している。既存のブロックチェーンとは完全に独立したブロックチェーンを使うことで、拡張性が向上し、さらなるイノヴェイションの余地が生まれるのではないかと期待されている。
また、フィリピンが現地通貨のペソをブロックチェーンに投資しようとしている動きも見逃せない。アフリカにおける通信事情が、有線での遠隔地通信を経ることなく、ワイヤレス通信へと一足飛びに進化したように、フィリピンでは自国通貨のペソをブロックチェーンに統合することによって、自国の経済サーヴィスを向上させようとしている。これは劇的な新政策だといえるだろう。
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2014年12月、イノヴェイションの権威であり、LinkedInのインフルエンサーでもあるドン・タプスコットは、偉大な人物にふさわしい行動に出た。彼は、自身が間違っていたことを認めたのである。彼は、このように綴っている。
「わたしは、ビットコインは絶対にうまくいかないだろうと思っていた。しかしいまでは、それが通貨として成功するだろうと思うだけでなく、その基盤たる仮想通貨のブロックチェーン・テクノロジーこそが次世代のインターネットの中心部分なのだと考えている。(そしてこの)次世代のインターネットは、商業活動や企業の本質だけではなく、社会におけるわたしたちの制度の多くを転換させる、と考えている」
ここまでを読んで、それでも読者諸兄がビットコインに対して不安な気持ちをもったままだとしたら、それは、わたしの筆力不足によるものかもしれない。だが、あるいはそれは、変化に対して人間が抱きがちな「内なる抵抗感」というべきものによるのではないだろうか。とはいえ結局のところ、歴史家トーマス・R・ラウンズベリーの言葉を引用すれば、「われわれは、有用な知識の導入に対抗しようとする、人間の心の無限の能力を考慮に入れなければならない」のだ。
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「お金のインターネット化」(IoM)。それは夢、だ。そしてその夢を、多くの企業家、アクティヴィスト(そして日和見主義者たちも)が、ビットコインやほかのデジタル通貨の向こうに見て、追い求めている。
彼らが目指すのは、デジタルデータを交換するのと同じくらい簡単にお金を交換できる世界であり、誰もが地球上のあらゆるマシンからお金を送り、受け取ることができる世界であり、経済システムが大銀行や強力な政府ではなく、一般の人々によってコントロールされる世界だ。
そこで問題になるのは、そのときの手段が信頼に足るものかどうかということ、広大なネットワークにおいてお金の流れを追跡できるかどうかということ、そしてシステムをごまかして不正にお金を掠め取ることを不可能にする方法が必要なこと、である。
この課題に対して、ビットコインは、24時間数学の問題を解き続ける専門のコンピューターや、「マイニング」と呼ばれる複雑なオンラインシステムを構築することで対処してきた。しかしダヴィド・マチエルは、ビットコインの背後にあるような、権力欲に駆られたマイニング・オペレーションに頼らなくても、同等、あるいはさらに高レベルの信頼性を捻出できるような新しい方法を提案している。
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マチエルは米スタンフォード大学のコンピューターサイエンス学部の教授だ。しかし現在は、この夢の「究極」、つまりビットコインのさらにその先にある、「民主化された」お金のありかたを追求するサンフランシスコのNPO、「Stellar(ステラー)」に出向している。
Stellarは誰もが好きな通貨を送ることができ、それをまた異なる任意の通貨として受け取ることが可能な国際的なネットワークの創造を目指していた。そして彼らは2014年の夏、マチエルに対して、Stellarのネットワークに参加するすべてのマシンが正確で信頼性のあるものだということを証明するよう依頼した。
その結果としてわかったのは、これが新しい種類のアルゴリズムに基づくということだ。このアルゴリズムはデジタル通貨だけでなく、株式市場、Eメールサーヴィスに至るまで、中央の権力なしに機能することを目指すあらゆるオンラインシステムの運営に役立つ数学モデルと考えていい。
マチエルが説明するところによると、この新しいアルゴリズムによって、マシン同士がつくる広大なネットワーク全体に対して「これは信頼できる」というコンセンサスが得られるのだという。
「これは、なにかひとつのことに対して、世界中の人々による合意が得られる方法だ」と彼は言う。つまりそれは(そこに参加する)全員の信頼性に対する合意も含まれている。
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これは、非常に興味深いと同時に、複雑な証明だ。マチエルとStellarは、この「統一見解アルゴリズム」を説明する論文を発表し、現在、外部の研究者や開発者からのコメントを求めている。同時に彼らは、これを実際に使用するためのソフトウェアをオープンソース化している。
実はこれ以前に、Stellarは自らの通貨ネットワークを運営するソフトウェアをオープンソース化していた。しかし、プロジェクトの創始者ジェブ・マカレブによると、このソフトウェアは大量のマシンではあまりうまく機能せず、信頼性を担保するための方法が必要だったのだという。
「わたしたちはこのシステムがどうしてうまく機能するか証明できずにいました」と、彼は言う。「誰もがこのシステムに参加できること、そしてシステムがその堅牢性を保つことができることを示す必要があったのです」
米スタンフォード大学のコンピューターサイエンス/電子エンジニアリング教授で、暗号システムを専門とするダン・ボナーは(マチエルによる)論文を検証して、「かなり興味深い」と評価した。彼はこのアルゴリズムについて、大量のマシンが安全に、そして正確に調和して動作する必要があるオンラインシステムの構築に役立つだろうと言う。
「これは、全員の合意が必要な、世界の状況に対応する“クオラム”(訳註:議会において、議決に必要な定数)に基づいたシステムであれば、なににでも適応できる」。彼はこう続ける。「支払い処理や所有権の交換、投資トレード……すべての信託取引記録に使用できるでしょう」
彼の弁は、少なくとも理論的には確かなのだろう。しかし、ボナーは論文こそ検証したが、ソフトウェアコードについては検証の手を入れていない。さらに、そのコードはまだ発展途上にあって、Stellarには、理論を実践に変換する必要がある。
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Stellarは、初期のころからのビットコイン利用者であるマカレブと、AppleやFacebook、Twitterなどで実装されているオンライン・ペイメントをサポートする「Stripe」によってブートストラップ(訳註:コンパイルの対象とするプログラミング言語そのものでコンパイラを開発するプロセス)された。
マカレブとStellarが目指すのは、「資金の移動を安全にコントロールする、万能な取引記録の創造」だ。それを、ビットコインのような単一通貨ではなく多種な通貨を使用することで実践しようというのだ。さらに、そこにマイナーは存在しない。
ビットコインのシステムにおいて、その取引記録を「ブロックチェーン」として運営する役割を担うのが「マイナー」と呼ばれる存在だ。彼らによる「マイニング」と呼ばれる作業には多額の投資が必要で、しかも報酬として彼らが新しいビットコインを手にするためには、ほかのマイナーよりも多くの数学的労働をこなすための大掛かりな装置を構築する必要がある。それゆえ、システムはその信頼性を危険にさらすことになる。
マチエルらによる信頼性を構築する方法は、これらとはまったく別の、「連邦制ビザンチン合議」(Federated Byzantine Agreement=FBA)と名づけられたアルゴリズムだ(編註:コンピューターサイエンスの世界では、インターネットのような信頼のおけないネットワークにおいて見知らぬ人とどうやって信頼を築きあげるかという課題が「ビザンチン将軍問題」と呼ばれ、存在していた)。
簡単に言うと、彼のアルゴリズムは、信頼のおける小さなネットワークを一緒にして大きな信頼性の高いネットワークを編み出す、というものだ。ネットワークを結合するとき、人は自分の知り合いで信頼できる人とつながる。そして彼らは、自分が信頼するマシンとつながる。
「人は自分が信頼できるユーザーを選ぶし、選ばれたユーザーも同じことをする」と、ボナーは説明する。「その組み合わせが達成されれば、畢竟、統一見解が得られるというわけだ」
彼は、このアルゴリズムの新しさを強調する。すでにある「ビザンチン・フォールトトレランス・アルゴリズム」(Byzantine Fault-tolerance Algorithms)は、同様の処理を行うものの、参加するマシンは規定された数に限られている。一方、Stellarのアルゴリズムでは、理論的ではあるものの、数量無制限のマシンで機能する。しかもそれは、欲に駆られたマイナーたちを必要としないため、さらに多くの人のネットワーク参加を促すのだ。「誰もがこのネットワークに参加でき、しかも労力を消費することもない」と、ボナーは言う。
困難があるとすれば、このシステムは、(そもそもマイナーを必要としないので、報酬を求めて)ビットコインのように人々がマシンを追加する動機を与えないことだ。しかし、自身、ビットコインによるトランザクションを実行してきたマカレブによると、皆が「お金のインターネット」を望む限り、あらゆる組織がStellarネットワークの運営を支援するはずだという。
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ビットコインと違い、Stellarはすべての通貨を扱うシステムの創造を目指している。つまりそれは、潜在的な利用者がより多く見込めるわけで、PayPalからWells Fargoに至るまで、より多くの組織が参加を望むことになるだろうとマカレブは指摘する。システムが健全に運営されるためにも、これらの組織は、運営の支援にすら取り組む。
「Stellar上でビジネスを運営している人は、誰でも自分のノードをつくりたいと考える」と、彼は説明する。「そして、運営のために必要な負担は決して大きなものではないので、協力を依頼することはたいした問題ではないはずだ」
彼の言葉は、理想主義的にさえ思える。しかし、それこそがこのプロジェクトの本質であるのだ。
Stellarは利益を目的としたヴェンチャー企業ではない。これはほかの人によって運営されるべき方法の構築を目指す非営利目的のプロジェクトだ。これは野心的な事業だ。そして、少なくともそれを支える要素は確たるものである。
VOL.25「ブロックチェーン」特集
10/11発売の『WIRED』日本版VOL.25では、本稿で解説したブロックチェーンを総力特集。法、会社からアートまで、インターネットに次ぐこの革命的テクノロジーは、何を破壊し、いかに世界を変えるのか? 本記事にも登場したドン・タプスコットにブロックチェーンの可能性を訊いたインタヴューも掲載。
TEXT BY by WIRED.jp_ST (1), KARIAPPA BHEEMAIAH (2-8), CADE METZ (9-13)
ILLUSTRATIONS BY by SHO FUJITA