読み漏らしてはいけない! 大学生の恋愛描いた傑作 たみふるさん1万字インタビュー

2024年05月12日 16時09分

 毎月大量に刊行される漫画本の中で、読み漏らしてはいけない名作がある。たみふる『付き合ってあげてもいいかな』(小学館)はその一つ。女子大学生の犬塚(いぬづか)みわと、猿渡冴子(さわたり・さえこ)の恋愛を中心に、若者たちの出会いと別れを描く。本作はフィクションだが、みわと冴子たちが、現実の世界のどこかで生きていると思えるほどのリアリティーが魅力だ。阿賀沢紅茶『氷の城壁』(集英社)が高校生の恋愛を描いた名作ならば、『付き合ってあげてもいいかな』は大学生の恋愛を描いた傑作。12巻が刊行され、物語が佳境に入ったタイミングで、担当編集者の渡辺沙織さんを交え、作者のたみふるさんにインタビューした。

『付き合ってあげてもいいかな』(小学館)1巻
『付き合ってあげてもいいかな』(小学館)1巻

 

【目次】

①性的少数者は誰かの教材じゃない

②自分を受け入れてくれるコミュニティーはきっとどこかにある

③挑戦は、1人でできる

④主人公は、あなたたちでもある

 

【12巻までのあらすじ】
 おっとりしていて美人の犬塚みわは、大学入学後すぐに参加した軽音部の新入生歓迎の飲み会で、たくさんの男子たちから言い寄られる。「女の人が好き」なみわに助け船を出すのが、お調子者の冴子だった。みわと、「(男より)女の方が好き」な冴子は、酔った勢いも手伝って、その場で付き合うことに。ただ、お互い恋に不器用で、気持ちを正直に打ち明けられず、秋頃には破局してしまう。性的な関係だけが続く時期を経て、友達に戻り、みわも冴子も新しい恋をして…。そしてそれぞれの恋の終わりの末に、2人は「恋人でなくなっても、味方でいてくれる元恋人」と、改めて向き合うことになる。

 

【①性的少数者は誰かの教材じゃない】目次へ戻る

▼記者 『付き合ってあげてもいいかな』は、とても珍しい構成の漫画です。少女漫画では付き合うまでがドラマチックに描かれるのが常道ですが、本作は1巻の冒頭でみわと冴子が付き合うことを決め、4巻で別れます。12巻まで別れたままで、2人が別れた後の物語の方が長くなっています。

★たみふる 思ったより巻数が長くなっていますが(笑)、物語は構想通りに進んでいます。現実の恋愛って「今から恋愛するぞ!」って決意して始まるというより、日常の些細な出来事の積み重ねから始まるじゃないですか。『付き合ってあげてもいいかな』では、恋がロマンチックに、大仰に始まらないようにしました。

▼記者 その方がリアリティーがありますよね。

★たみふる 私は、付き合うにしても別れるにしても仰々しく考えなくていいんじゃないかなと思っていまして。一般的には、素敵な恋愛しなきゃいけないんだとか、運命のような出会いじゃないといけないとか、別れるってことは良くないことだとか、絶望だとか、考えられがちじゃないですか。そういう固定観念を捨て去った漫画があってもいいだろうと思ったんです。現実では、一つの恋が終わった後の人生の方が長いわけですし、誰かと付き合っても別れても人生は地続きで続いていく。そういうことが、この漫画を通して一貫して言いたいことです。

▼記者 まずは『付き合ってあげてもいいかな』が連載に至る経緯を教えてください。

★たみふる この作品は2017年に「コミティア」(東京で開かれている同人誌即売会)で販売するために考えたものでした。私はそれまで、女性同士の恋愛を描く「百合」ジャンルの漫画を描いていまして。そのコミティアではいつもと違うタイプの物語を出したいと思いました。同人誌は大体20ページ強のサイズ感ですから、2人が出会って、告白して、終わりっていう作品が一般的です。なので、「すでに交際が始まっているところから、別れるのはどうか」って感じで決めたんです。私が読みたいものを描こう!という感じでしたね。

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

●渡辺 その作品を読んで、初代担当だったフリー編集者の安島由紀さんがたみふるさんに、お声がけしたんです。

▼記者 当時、百合漫画は「マイナーだから売れない」とか「商業誌でも百合専門誌じゃないと厳しい」というような風潮でしたね。

★たみふる そうですね。今でこそ多様な作品が世に出ていますが。当時はどっちかっていうと男性がファンタジーとして読むもので、内容もプラトニックで、あってもキスまでという感じ。そういう作品の方がみんな安心して読めるっていうのは分かっていたんですけど、「でもそこに落ち着いていたら誰もその先を読めないじゃん、もうちょっと女性同士の恋愛に向き合った作品があってもいいじゃん」「誰も描いていないなら描いちゃおう」と思い、思い切って描きました。


▼記者 安島さんからは何と言われたんですか?

★たみふる 「こういう自由な恋愛やキャラクターが読みたかった」って言ってくれて。商業展開するにあたって、エロがない方がメディア展開とかしやすいかなという思いはあったと思うんですが(笑)、ここで日和ってどうする!と思いまして。

▼記者 LGBTQ(性的少数者)の恋愛をリアルに描くと、どこか教条的な作品になりがちですよね。漫画や映画でも「同性を愛することの悲劇」とか「ちょっとかわいそうな感じ」が強調されているように感じて、見た人も「考えさせられました」「勉強になりました」みたいな反応になりがちです。その点、『付き合ってあげてもいいかな』の読み味は違いますね。

★たみふる 私は、百合漫画だから、LGBTQ作品だからっていうのではなくって、漫画を読んでいたらたまたま「これ女性同士で付き合ってるじゃん」っていうぐらいの入り口で読んでほしいと思っていました。性的少数者は、誰かの教材として生きているわけじゃない。普通にみんなと地続きで生きていて。こういう人いるよなっていう人たちが、こういう恋愛あるよなっていう恋愛をしている。対象の性別は異性じゃないけど…ぐらいのニュアンスで描きたくて。だから1巻が刊行された時には『付き合ってあげてもいいかな』を百合漫画と宣伝しないよう、渡辺さんと決めていました。

▼記者 リアリティーを追求すると、漫画の表現としては工夫が必要になりますよね。ロマンチックな決めゼリフや大ゴマのような、漫画のテンプレ表現をできるだけ避けなければなりません。

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

★たみふる そうですね。例えば、冴子がみわと付き合っていることを男友達の「みっくん」に打ち明けるシーンでは、冴子が女性同士で付き合っている自分たちのことを「キモいとか、ありえないとか、生理的に無理とか」思わないのかと問うと、みっくんはそっぽを向きながら「なんだよ。俺、お前にそんなこと思わなきゃいけないわけ?」と逆に問いかけます。王道に演出するなら、イケメンのキャラが正面を向いて、きらびやかな感じでかっこよく言う方がいいと思うのですが。でも現実では、都合のいいイケメンはいないし、人の顔を真正面から見ることって少ないし、そんな劇的な場面ってない。むしろ、さりげないシーンの、さりげなくかけられた言葉が、胸に刺さったりする。そういう自然な空気感を表現したくて、あえてロマンチックにならないような工夫をしています。映画のような読み味が理想ですかね。

▼記者 映画ですか。

★たみふる はい。映画の、生活感の中にドラマがあるところがいいなと思っていて。その雰囲気に近づけるために、常に背景の絵があるようにしています。例えば、12巻では冴子が、付き合っていた「優梨愛(ゆりあ)」と、夜景を眺めながら船の上で別れ話をします。本来なら煌びやかなロケーションなのに、つらい話のせいで暗い海ばかりが印象に残ってしまう。読者さんに、その場面を体験として味わってほしいというか。

▼記者 なるほど。確かに、別れ話のときに見る夜景はこういうふうに見えますよね…。

●渡辺 リアリティーが感じられるのには、たみふる先生の漫画が計算し尽くされていて読者にすごく伝わりやすいというのもあると思います。カメラ位置や視線誘導とか、セリフの置き方がとてもうまくて、何を見せたいかが一目で分かって、無駄なコマがない。私も職業柄いろんな漫画を読みますが、こんなに画面作りがうまい作家さんはめったにいないです。

 

【②自分を受け入れてくれるコミュニティーはきっとどこかにある】目次へ戻る

 

▼記者 リアリティーがあるからこそ、みわと冴子には幸せになってほしいと、読者として願うのですが、ここからは、物語にリアリティーを込める力をどのように身につけられたのか、その秘訣を伺っていきたいと思います。

★たみふる よろしくお願いします(笑)。

▼記者 まずは、キャラクターの内面に奥行きがあること。例えば、みわが冴子の後に付き合う年下の「環(たまき)」は、言葉数も多くなく、どちらかというと常にテンションが低いキャラクターです。性欲が強いみわに困惑しつつも、それを受け入れようと環なりに努力します。けなげで子どもっぽいところもあり、さらに理知的な側面もあります。描くのが難しい複雑なキャラクターで、人間に対する優れた観察眼がないと、ここまで描けないように思います。人の内面の深掘りする力を、どのように身につけられたのでしょうか。

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

★たみふる 影響が大きいのは、学生時代の経験ですね。小中学校はスクールカーストがひどく、私はいつも、他者の悪意に敏感になっていました。

▼記者 スクールカースト、ありましたね。

★たみふる はい。クラスの中で5、6人で仲良しグループができると、そのグループの中で何カ月かに1回ぐらい、無視されたり仲間外れにされたりするのがローテーションで回ってくるようになる。グループを二つ三つ移動しても、どこにでもある。そういう標的になるべくされないように、どうしたらいいかっていうのを考えていたのが原点としてありますね。

▼記者 うまい立ち回りを考えて、生き残る感じですね。

★たみふる 観察眼が培われました(笑)。首謀者はこの子で、それ以外の子は自分がいじめの標的にされないためにやってるんだとか、この子は本当に優しいから他の人が標的の時に悪口を言わないとか。

▼記者 なるほど。悪い行動をする他者も理解をしようとしていたんですね。確かに、『付き合ってあげてもいいかな』には、いわゆる悪人は出てきません。

★たみふる そうですね。例えば2巻では、みわに「嫌い」と伝えてくる「完(かん)」先輩がいたり、8巻では、環に「キモい」と言ってくる友人の「凪(なぎ)」というキャラクターがいたりします。意地悪な人が全くいないというのは都合がよすぎるから、こういうキャラクターがいるにはいますが、その人にも意地悪を言う理由がある、という描き方をしています。全員が全員善人じゃないかもしれなくても、自分を受け入れてくれるコミュニティーはきっとどこかにある。そんな願いのようなものも含めて、軽音部のメンバーたちを描いています。

▼記者 そのあたりのお考えも、作品から伝わってくる「温かさ」につながっていると思います。とはいえ、いじめの標的になるのを、完全に避けられたわけではないと思います。その時は悔しくなかったですか?

●たみふる 意地悪してくる人って、なんでこんなことするんだろうって、いつも布団の中で考えてモヤモヤしていました。そうした日々を過ごしているうちに「あいつにも事情があるから仕方ない」という考え方で怒りを昇華させるようになったんです。例えば、その子は家庭環境のこととか成績とかの関係で、心に余裕がなくなって、意地悪にならざるを得なくなっている、みたいな。その人の立場で考えるのが癖になったんですね。

▼記者 優しいんですね…。そうして培った他者理解と深掘り能力が、キャラクターの造形にも生かされているように感じます。例えば3巻には、みわの初恋の相手の「志帆(しほ)」が登場しますね。志帆は、賢い妹の「真帆(まほ)」ばかりをかわいがる両親の下で、つらい思いをしながら暮らしています。ある日、真帆に突っかかられ「バカのくせに口答えすんな。姉がバカなせいで全部背負わされてんだよ、こっちは」と罵倒されてしまいます。それでも志帆はそれを受け止め、悲しさを胸に秘めます。そして、志帆につらく当たってしまった真帆の気持ちが、11巻で明かされます。

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

★たみふる 真帆も両親からプレッシャーをかけられ、自分のことに必死で、ものすごくストレスを抱えていたんです。志帆と真帆は幼い頃はとても仲が良くて、真帆は志帆のことが大好きだったんだけど、成績や受験が絡むようになって、感情が歪んでいって…。作品中では描いていなくても、そういう設定をしっかりと考えてから描いています。

▼記者 きょうだいってそういう時ありますよね…。思い出して、しみじみそう思います。

★たみふる ただ、こういう、人のことを想像するのって、口に出すのが難しくて。

▼記者 と、いうと?

★たみふる 現実で「この人ってこういう背景があるから、こういうことするんだ」とか言うと、周りから「何を分かった気になってるんだお前は」って言われるじゃないですか。角が立つというか。だから現実では口に出せないけど、『付き合ってあげてもいいかな』ではあくまで創作上の人物だから、という体で好き勝手に描いていて。読者の方から「リアル」って言ってもらえると、「あれっ?やっぱり?」と思って密かにうれしくなります(笑)。

 

【③挑戦は、1人でできる】目次へ戻る

 

▼記者 子どもの頃から漫画家になりたかったんですか?

★たみふる 幼い頃から絵を描くのは好きでしたね。それで、児童向けの『漫画家になろう』的な本を読んで、消しゴムかけやトーンなど、過程がとにかく大変そうだったので挫折しました(笑)。本格的に目指すようになったのは、大学のサークルを完全に引退した後、何にもやることがなくなっちゃってからですね。

▼記者 大学卒業後は、そのまま漫画家さんになられたんですか?

★たみふる そうです。

▼記者 それはすごいですね。なかなか実現できないことだと思います。

★たみふる コミティアで同人誌を出していたのも、そこに漫画編集者さんたちが来るということを、大学生の時に知ったからです。それまでは、小学生の時の知識のままで、編集部に持ち込みをして漫画家さんのアシスタントにならないと漫画家になれないと思っていて。同人誌なら編集さんにも読者さんにも同時に見てもらえてお得じゃん!と一念発起しました(笑)。

▼記者 (笑)。その子どもの頃に、影響を受けたのはどんなものですか?

★たみふる 小学校高学年ぐらいから、周りの好きなもの以外のものが好きみたいな感じがあってですね。テレビの「キッズステーション」とかでちょっと古いアニメとかを見るのが好きでした。みんなと違うものを見ている自分、かっこいい!みたいな(笑)。

▼記者 (笑)。

★たみふる 周りの子が『カードキャプターさくら』を見ているときに、高橋留美子先生の『らんま1/2』とか『めぞん一刻』とかを見ていました。親戚の家にあった伊藤潤二先生の作品を読んだのも、すごく印象に残っています。大学生になってから、ヴィレッジヴァンガードで愛蔵版の『富江』を買いました。

『めぞん一刻』
『めぞん一刻』

 

▼記者 サブカル系の大学生に育ったんですね。

★たみふる 大学生の時は、ヴィレッジヴァンガードに通って、みんなが持っていないラインの漫画をあさるのがライフワークでしたね。

▼記者 高橋留美子先生の作品のどのようなところが好きだったんですか?

★たみふる 特に、女の子の描き方が好きです。私が小学生だった2000年代の漫画の女の子は、細い線で細い手足で、しゅっとした感じが流行していたと思うんです。

▼記者 細さが強調されてましたよね。

★たみふる 私はそれよりは、留美子先生の描くようなむちっとした描き方が好きで。内容としては、『めぞん一刻』の終盤のような、キャラクターの人生が動く描写が好きで何度も読み返しています。そういう人間フェチのような部分が、『付き合ってあげてもいいかな』でも反映されている気がします。

▼記者 3巻のあとがき漫画によると、中学から大学の前半ぐらいまでは漫画から離れて、演劇や軽音に没頭していたとか。

★たみふる そうですね。その時期は、黒板にムキムキのピカチュウを描いて受けを狙うぐらいしか絵を描いていません。

▼記者 ムキムキのピカチュウ(笑)。ぜひ見てみたい。

★たみふる 高校では女子校に通っていたんですが…、共学だと、かわいい子がスクールカーストで勝つイメージだと思うんですけど。その高校だと面白い子が勝つ、みたいな空気が印象的で。

▼記者 一芸として、絵が描けることを生かしていたわけですね。

★たみふる そうですね。大学でもその延長というか、ちょっと絵がうまい人ぐらいのポジションでしたね。大学も穏やかな人ばかりでした。

▼記者 3巻のあとがき漫画には、漫画を描いていない時期は「みんなでひとつの何かを作る」にはまっていたとあります。

★たみふる 高校は吹奏楽部で、学祭なんかでは演劇をみんなでやりました。大学は軽音部で、高校の時に打楽器だったのでドラムをやったり、ボーカルをやったり。

▼記者 おおー。バンドでどういう曲をやっていたんですか?

★たみふる 普通のロックですよ。はやっていた、「GO!GO!7188」とか。

▼記者 たみふるさんからは、型破りな印象も少しありましたので、ロックはしっくりきます(笑)。

『付き合ってあげてもいいかな』(小学館)4巻
『付き合ってあげてもいいかな』(小学館)4巻

 

★たみふる 大学では、学祭の実行委員会も掛け持ちでやっていました。それで、みんなで何かをつくるのって楽しいな~と思っていたんですが、だんだんとその穴というか、自分だったらもっと面白くできるのに…みたいな気持ちがくすぶってきまして。それで、ふいに漫画のことを調べたら、漫画がデジタルで描けるようになっていた。アシスタントを何人も雇わなくても、ワンタッチでトーン処理などができるようになっていて。大人になったら、1人で漫画に挑戦できる環境が整っていた感じで。誰にも遠慮せず全部自分の思い通りにできるのがうれしくて、それからずっと1人で描いています。

▼記者 え! 今もアシスタントさんいないんですか。

★たみふる はい。

▼記者 渡辺さん、そんな作家さん、いるんですか。

●渡辺 とても貴重です。すごいですよね。あの作画量を隔週連載で1人で完成させるなんて、想像がつかないです。

★たみふる 描きたい角度とか構図とか、やっぱり自分しか分からないなって。上手に伝えられないし、伝えられたとしてもその手間を考えたら、自分でやった方が早い気がして…。でも、ネーム(漫画の下描き)を作った後、作画する時に、なんでこんなふうに描くって決めたんだ私!って思いながら苦労しています(笑)。

▼記者 こだわり抜かれた作品なんですね。セリフ回しもとてもうまく、感動するのですが、セリフから決めていくのですか?

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

★たみふる そうですね。まずバーッとセリフを書き出してから、ネームに当てはめていくって感じです。これも、学生時代に、布団の中で「あの時、ああ言えばよかった」「そしたら誰々さんはこう返してきて」…とモヤモヤ考えていたことが役立っているかもしれません。

▼記者 単行本のカバー裏におまけ漫画があったり、あとがき漫画があったりと、漫画本に対するこだわりも感じます。

★たみふる 私が、おまけがたくさん描いてある漫画が好きなんです。だから『付き合ってあげてもいいかな』も、漫画本として最大限楽しんでもらいたいという思いがあって、せっせと描き込んでいます。

 

【④主人公は、あなたたちでもある】目次へ戻る

 

▼記者 たみふるさんは2012年ごろから作品を発表しはじめ、2014年に芳文社の4こま漫画誌「まんがタイム」での連載『女神さまと呼ばないで!』で商業誌デビューされています。主人公の女の子「早乙女さん」は努力家で、周りから敬われる一方、遠巻きにされがち。そこに無遠慮にからんでくるのが、がさつな女の子「涼」です。その後、「となりのヤングジャンプ」で『空気人形と妹』(集英社)を連載しています。うぶな女子高生と、「夜の空気人形」が出合うお話で、どちらもコメディーテイストの漫画です。

★たみふる 『付き合ってあげてもいいかな』とは、ジャンルが異なりますよね(笑)。『空気人形と妹』も元々は、「コミティア」で一味違った物語を出したいと思って描いたものでした(笑)。

★記者 しゃべる空気人形のセリフが抜群にうまく、リズミカルな作品ですよね。

★たみふる ヤンジャンの編集者さんがすごく気に入ってくれて。私としては色物枠だったから、これでいいのかな…と思っていたら、連載が決まって。自分の中の語彙力を全力で投資して作っていました。

▼記者 笑いながら読みつつ、どこかに、たみふるさんの「タブーとされているものを打ち破りたい」という意志を感じました。

★たみふる そうですね。下ネタ系を揶揄した下ネタ系を目指していました(笑)。女の子がエッチな目に遭うサービスシーンがあっても、『空気人形と妹』ではそこに必ずギャグを絡ませて、全然サービスじゃないシーンにする、とかやっていました。

▼記者 一方の『女神さまと呼ばないで!』の早乙女さんと涼の関係性は、なんとなく、みわと冴子に通じるものがありますよね。こういう関係の2人が好きなのでしょうか。

★たみふる それは…、全く無意識でした。ただ、主人公として、大人しくて、それでいて意外としたたかっていうキャラクターが好きなのかも…。そう思うのは、思い出してみると小中高大を通じて、周りから一線を引かれているような子が、話してみると結構面白いことが多かったって経験が関係しているかもしれません。「こんな面白い子を、みんな知らないの?!この面白さを知ってもらいたい!」みたいな。そういう子を、プロデュースしたいみたいな気持ちが、漫画の主人公として現れたのかなと思います。

▼記者 女の子が好きなんですね。

★たみふる 元々は学校でしのぎを削り合う相手だったのに、漫画を通すと魅力的に見えるから不思議です。そして面倒くさければ面倒くさいほどいい(笑)。一筋縄ではいかない方が物語が面白くなるっていうのもあるんですが、人間の性格って一言では言い表せないじゃないですか。

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

▼記者 『付き合ってあげてもいいかな』も含めて、たみふるさんの漫画には、クールとかツンデレとか、パキッとそれだけで表現できるようなキャラクターは出てきませんね。

★たみふる はい。記号的にならないようにしています。

▼記者 だからこそ、みわと冴子、みわと環、冴子と優梨愛が別れるシーンでは、どちらが悪いとは言えない展開になっていて、それがとても切ないです。

★たみふる そうですね。現実の恋愛も、どっちかが悪いわけじゃなく別れる人たちが多いわけですから、どっちも悪いところがあって、しょうがなかったねと読んでもらえてうれしいです。恋愛って結構、どっちかが悪いから別れたんだと捉えられがちですから。それと、環や優梨愛たちを、読者さんに好きになってもらえるぐらいの魅力的なキャラクターにしてから、みわや冴子と別れさせるんですから、納得してもらえるようにするのに苦労しました。読者さんの感想を参考にしながら、慎重に考えました。

▼記者 『付き合ってあげてもいいかな』からは、現実の「普通の恋愛」を問い直したいという思いも感じます。

★たみふる 世間的に言われている恋愛のイメージが、人生の視野を狭めているんだとしたらもったいないなと思っていて。同性同士で付き合ったり、別れた後に友達に戻ったりすることが、世間からは「後ろめたいこと」としてイメージがつけられていると思うんですが。でもそれって誰が決めたの?あなたはその考えでいいの?って思っています。『付き合ってあげてもいいかな』は、みわや冴子たちからわき出る欲求を、みんなが潰したりしない世界にしたいと思って描いています。

▼記者 特に1~3巻では、みわと冴子の周りにいる人たちにスポットが当たっています。これも、その世界観を表現するためですか?

『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー
『付き合ってあげてもいいかな』ⓒたみふる/小学館 マンガワン・裏サンデー

 

★たみふる そうですね。同性が好きな人が周りにいることがファンタジーでなく、現実のあなたの隣にもいる、ということを表現したくて。異性が恋愛対象の読者の方にも物語に入り込んでほしくて、連載初期は特に意識して、サブキャラ視点の話を多く入れています。同性が恋愛対象の方も、異性が恋愛対象の方も、どちらもこの物語に無関係ではない。この物語の主人公はあなたたちでもある、というメッセージを込めて描いています。

▼記者 誰もが尊敬し合える社会になるといいですね。そのために、何が必要でしょうか。

★たみふる 「妄想力」ですかね。

▼記者 妄想ですか(笑)。

★たみふる はい(笑)。自分の経験で恐縮なんですが、嫌だな、と思う人と出会ったときに、相手の背景をとことんまで妄想します。そうしてるうちに怒りは落ち着いてくるし、少し相手に優しくなれるし、もしかしたら仲良くなることだってあるかもしれない。あと、創作している人なら創作のネタにもなるので一石二鳥かもしれませんね(笑)。

たみふるさん自画像
たみふるさん自画像

 

(取材・文 共同通信 川村敦)

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