社長が声をかけあうサイト「どうだい?」開設1年で見えてきたもの

中小企業向けの保険に特化した営業活動を行う大同生命保険株式会社。同社では2022年3月から中小企業経営者向けのWebサービス「どうだい?」の運営を開始。同社の顧客である中小企業の「社長が声をかけあうサイト」となることを目指して開始から1年、会員数は3万人を超えた。サイト運営の現状と今後の展望について、同社の営業企画部エコシステム推進室(2023年3月時点)の眞鍋雅之さん、宮本陵太朗さんに話を聞いた。

コミュニティサイトづくりの出発点

なぜ保険会社がWebサービス「どうだい?」をつくることになったのか。最初にそのきっかけを聞く。

眞鍋さん「大同生命の主力マーケットは中小企業で、中でも経営者向けの保険は中小企業の事業継続にとって欠かせないものです。一方、社会環境が変化する中で、中小企業の経営者さまはこれまでにも増してさまざまな悩みや課題を抱えており、保険でカバーできる課題はごく一部に過ぎません。このような中小企業の経営者さまに対して『保険以外でもなにか役に立てることはないか?』と考えたのが発端です」

インタビュー中の様子
どうだい?企画・運営担当 眞鍋 雅之さん

サービス内容の検討を始めたのは2019年から。コロナ禍も相まって検討が一気に進んだ。リアルな交流の場が減った社会状況もあり、最終的にたどり着いたのは「社長が声をかけあうサイト」だった。

宮本さん「1902年創業の大同生命は、1970年代に中小企業向けの保険に特化した事業に大きく舵を切り現在があります。企業として新たなチャレンジを歓迎するという土壌がそもそもあって、今回の『どうだい?』もその延長線上にあると思っています」

インタビュー中の様子
どうだい?コミュニティマネージャー 宮本 陵太朗さん

「どうだい?」3つのサービス

中小企業の経営者への営業で培った大同生命のノウハウをもとにつくられたサイト「どうだい?」で行っているサービスは何なのだろうか。

眞鍋さん「大きく3つのサービスで成り立っています。1つは中小企業の経営者同士が気軽にやりとりできる雰囲気のコミュニティです。2つ目が経営者を対象とした事例記事で、経営者インタビューや企業経営専門家のコラムなどです。記事で取材した方に講師をお願いしてウェビナーも開催しています。そして3つ目は大同生命が中小企業向けに提供している経営者・従業員のヘルスケアや情報セキュリティ対策、公的支援のサポートに至るまで、さまざまな経営課題を解決するサービスの紹介です。『どうだい?』は大同生命の保険に加入している方はもちろん加入していない方でも無料でご利用いただけます」

経営者同士が声をかけあうコミュニティ

大同生命の中小企業への営業網による広報活動により「どうだい?」はユーザーを拡大。コミュニティに参加する経営者も増加している。そんなコミュニティにはさまざまな話題が取り上げられている。「経営におすすめの本は?」といったものから「辞めたいという社員をどう引き留めるか?」「自社のホームページのアクセスを上げるには?」、さらには誰に尋ねるともない「悩みを聞いてほしい」というものまで。その回答も専門的な立場のものから、「あなたの気持ちがわかります」という温かみのあるアドバイスまでがスレッドに並ぶ。

トップページキャプチャーショット
どうだい?トップページ

眞鍋さん「中小企業の経営者は、一人で営業からいわゆる総務的なことまで目を向けなくてはなりません。さまざまな問題に立ち向かうなかで、対等に相談できる人も少なく孤独なんじゃないか……そこで何かお手伝いできないだろうか、と考えたのが経営者同士が交流できる場の提供です。ユーザーの方からは『匿名で投稿できるので書きやすい』『読むだけで楽しい』といった声もいただいています。将来的には投稿を整理し、まとめてライブラリのようなものを作り、蓄積されたナレッジを共有できるようにしたいと考えています」

缶コーヒー1本飲み切るくらいの時間で読める記事を

もう1つの柱がさまざまな切り口で書かれたお役立ち記事だ。特に、各種業界を牽引するトップ経営者へのインタビュー記事は充実している。記事づくりを担当する宮本さんは毎週編集会議を行って、メディアなどに広くアンテナを張り「これは」という経営者を探し、そして自分自身全国を飛び回り取材に同行している。

宮本さん「ドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)のモデルともなった、若くして山口県の水産業に飛び込み、大きな成果を上げた株式会社GHIBLI(ギブリ)の坪内知佳社長など、話題性のある経営者にいち早く目をつけ取材したこともあります。この記事は反響も大きく、坪内社長にはその後サイト主催のウェビナーにもご協力いただきました」

宮本さんの念頭に常にあるのは読者である経営者目線での記事づくり。そのなかには宮本さん自ら、「どうだい?」ユーザーである経営者にインタビューするコーナー「ハロー!どうだい?」もある。宮本さんの問いかけに対し工務店や美容院といった中小企業の実際を語る姿から、普段大手メディアで目にすることのないリアルな経営者像が浮かび上がる。

宮本さん「仕事の休憩中に、缶コーヒー1本飲み切るくらいの時間で気軽に読める記事を作るよう心がけています。インタビューのなかで『目から鱗だった』、『出来っこないと思っていたら出来ないよね』といった熱い感想を聞けることもありますね」

開設から1年で見えてきたこと

開設から1年が経った「どうだい?」。その間のサイト運営によって見えてきたことは何なのだろうか。

眞鍋さん「コミュニティでは、経営者同士でしかわかりえない経営者ならではの悩みというのをご投稿いただいているのではないかと思います。ご時世も受けてだと思いますが、企業の事業承継に関するものが目立ちますね。最近では2023年1月に、一橋大学を卒業したばかりの坂根千里さんが、20年以上続くスナックを先代ママから第三者承継の形で受け継ぎリニューアルオープンした、というユニークな事業承継の例を『2代目経営者の覚悟と本音――“共感”を軸に事業承継を決めた』というウェビナーとして開催しました。今後事業継承が進み、いずれ若手の経営者のユーザーも増えてくればコミュニティ内で面白い化学反応が生まれるのではないか、と思っています」

宮本さん「中小企業の経営者は比較的高年齢層の方が多く、ネットへの親和性が薄かった方もいます。ですから、まず『どうだい?』をきっかけにデジタル環境に慣れていただき、世界が広がっていくということを体感していただければと思います。そのためにユーザーインターフェースも常に見直しています。また、もともとネットに親和性の高い若手経営者にも興味をもってもらえるのではと捉えています」

サービス展開によってユーザーである中小企業の経営者に特有なさまざまな事情が浮き彫りになり、それに対応するように「どうだい?」も日々進化を遂げているようである。

経営のサードプレイス的存在に

「どうだい?」はサイトだけのサービスにとどまらず、その先も見据えている。最後に眞鍋さんと宮本さんに今後の展望について話を聞いた。

眞鍋さん「『どうだい?』があれば問題解決できるようなシステムにしていきたいと思います。そのためには今あるコミュニティだけではなくて、例えば社長さんが困っていることを解決するようなサービスや、ユーザー参加型、それこそリアルでお会いするきっかけづくりなども展開していきたい。一方で、さまざまなサービスを展開していく中でも、社長同士のやり取りから生まれる“ぬくもり”みたいなものは大事にしていきたいと考えています」

宮本さん「何よりも中小企業の経営にとって役に立つ、というのが大前提です。ですから『どうだい?』も、ユーザーである経営者の方々の生の声を聞きながら常に変化していくと思いますので、完成形というものは考えていません。ただ現在は、『どうだい?』が経営者にとって心地よいサードプレイスとなることを目標にしています。求められるものはユーザーのご要望によって全て違うので、そのためのサードプレイスをさまざまな形で提供したい。例えば、実際に事業拡大のお手伝いなどもできることがあれば、取り組みたいと思っています」

このサイトをきっかけに、いずれ経営者同士がリアルな環境で温かく「どうだい?」と声をかけあう日が来るのかもしれない。