管理職にとって、チーム全員が十分なパフォーマンスを発揮できる環境づくりは重要な課題である。しかし、時に、メンバーの労働パフォーマンスが低下しているのでは……と感じることはないだろうか。
そのメンバーが女性だった場合、周期的な心身のリズムに影響を受けている可能性があり、まずはそれを理解しておく必要がある。
月経前の1週間を中心に起こるさまざまな症状を「PMS(月経前症候群:げっけいぜんしょうこうぐん)」といい、なかにはPMSが理由で昇進の辞退や退職を考える人もいるほど、働く女性の心身に大きな影響を与えることがある。
この記事では、PMSについて情報に触れる機会の少ない男性管理職への理解を深め、適切な職場環境づくりやキャリアプラン構築のサポートが行えるよう、女性のヘルスケアとPMSの専門家である医師・小川真里子先生にお話をうかがった。
なお、男性はもちろん、周期的な不調に悩む働く女性にも有益な内容となっているので、女性が職場でよりパフォーマンスを発揮するためのヒントにもしてほしい。
さまざまな症状で女性を悩ませる「PMS」とは?
PMS(Premenstrual Syndrome)は日本語で「月経前症候群」といい、月経前3~10日の間にあらわれるさまざまな身体的・精神的な症状をさす。
「症候群」と名付けられてはいるが、PMSは女性ホルモンの正常な周期変動によって起きるものである。
現代社会は、PMSのさまざまな不調がより生じやすい環境で、働き盛りの女性にとって、QOL(Quality of life/生活の質)や労働パフォーマンスを下げてしまいかねない問題となっている。
具体的なPMSの症状は200を超えると言われており、以下はその例である。
■ おもなPMSの症状の例
もちろん、PMS以外の原因で上記のような症状が出ることもあり得るが、PMSの最大の特徴は月経前になると症状が出現し、月経が始まると症状がおさまる点と、毎月繰り返し症状が出る点である。
つまり、部下または同僚の女性がいつもではなく時々様子が違う、周期的に心身の調子が悪そうな様子がみられるという場合には、PMSの可能性を考えてみてほしい。
ただ、複合的に症状が出ることも多く個人差も大きいため、女性自身が自分の不調をPMSであると気付いていないケースも多いという。PMSがどのように労働パフォーマンスに影響するのか、小川先生に具体的な例を聞いてみた。
■ 職場において、PMSの影響はどのような形で現れるのでしょうか。
「まず、頭痛やだるさなど身体的な症状により業務がつらそうに見えることが挙げられます。そして、いつもよりイライラしている・感情的になりやすい・攻撃的・ミスが多い…といった精神的な変化があらわれることも多いですね。ただ、周囲に配慮してこういった変化をできるだけ隠そうとする女性が多いので、上司からは気のせいかな?という程度に思えるかもしれません」
しかし実際には、PMSなどの月経にまつわる不調で「仕事のパフォーマンスが半分以下になることがある」という女性は約5割*1、またPMS症状が重いと自覚している人のうち退職、昇進辞退を考えたことがある女性が5割以上という驚くべき調査結果*2もある。
部下への配慮や思いやりといった面はもちろん、職場全体のパフォーマンス向上のためにも、PMSについて「知らない」では済まされないといえるだろう。
PMSをやわらげる方法
毎月のようにつらい症状を繰り返し、仕事にもマイナスの影響を及ぼしてしまうPMS。症状をやわらげる方法はないのだろうか。小川先生によると、方法は大きく分けて2つあるという。
①生活習慣の見直し
毎日の生活習慣を変えることで、PMSの症状緩和に役立つ可能性がある。具体的には次のようなことで症状がやわらぐ女性が多いという。
- • 規則的な睡眠
- • 適度な運動
- • 喫煙を控える
- • 食生活の見直し(甘いものや刺激物の摂り過ぎ、食事を抜く、タンパク質不足、過剰なアルコール摂取を避ける)
「食生活の見直しといっても、すべてを実行するのはストレスが大きいかもしれません。まずは主食・主菜・副菜のごはんとおかずを組み合わせたバランスのよい食事を1日3回食べられるように目指してみて下さい」(小川先生)
②婦人科の受診
自宅での生活改善を行っても症状が続く場合や、市販薬で症状が軽快しない場合は、まずは婦人科を受診してみてほしい。医師の診断に基づいたアドバイスや適切な治療を受けることができる。しかし実際には受診をためらう女性も多い。その理由はいくつかある。
- • 「このくらいで受診するのは大げさでは」「自分がガマンすれば済む」と思っている
- • 婦人科の受診経験がなく、診察はなにをするのか、どんな薬が出されるのか分からず不安
- • 仕事が忙しく、受診する時間的余裕がない
- • 受診にかかる費用負担が心配
小川先生に、医師の立場から見た受診の実際を聞いてみた。
■ 実際に先生のもとを訪れた患者さんは、どのようなきっかけで受診されたのでしょう。
「たしかに、忙しさや遠慮から受診をためらう女性は多いです。その中でも受診にいたった理由としては、まず周囲から婦人科に行ってみたら?と後押しされたから……という方が多いですね。一度きちんと診てもらっては?と職場で声をかけてもらい、受診したという患者さんもいます」
「そのほか、雑誌やインターネットなどで女性の周期的な心身の不調がPMSによるものという特集も増えており、それを見て、自分も?と思った方が受診されることがあります。最近は企業が健康経営の一環で社員に向けヘルスケア情報を提供する事例も増えてきて、それをきっかけに受診する人もいます」
女性の健康分野の研究がどんどん進んでいる
最近、新しい論文が発表された。「γ(ガンマ)-トコフェロール」「γ-トコトリエノール」「エクオール」、「カルシウム」の4つの成分とPMSの関係だ。
PMSの身体的症状(むくみなど)や精神的症状(イライラなど)に対して、γ-トコフェロール、γ-トコトリエノール、エクオールおよびカルシウムの4つの成分を含む食品(γ-トコ複合食品)の摂取が、症状軽減に有用であることを示唆する研究論文が発表された。
耳慣れない成分名かもしれないが、「γ-トコフェロール」「γ-トコトリエノール」は、ビタミンEの仲間である。これらが肝臓で代謝されてできるγ-CEHCという物質がナトリウムをおだやかに体外に排出し、むくみを軽減すると考えられている。
「エクオール」は大豆イソフラボンから腸内細菌の働きによって産生される代謝物である。エストロゲンに似た構造を持ち、大豆イソフラボンそのものではなく、エクオールこそが女性の健康をサポートする鍵であることが知られている。
エクオールが体内で作れる人はPMSのリスクも低いことが分かっているが、大豆を食べて腸内でエクオールをつくれる人は、日本人の2人に1人、特に若い女性では5人に1人しかいないことも分かっている。
イライラを軽減するとして知られる「カルシウム」は、PMSのケアにも欠かせないが、日本では20~40代の女性の1日あたりの推奨量650mgに対し実際は400mg前後しか摂れていないことが問題となっている。
論文では、γ-トコフェロールおよびγ-トコトリエノールの代謝産物であるγ-CEHCの利尿作用(むくみの低減)やカルシウムの血中intact PTH低下作用(イライラの低減など)が、PMSの症状軽減の機序として報告されている。*3
【試験概要】
PMSのむくみの症状を自覚する健康な女性35人(20~41歳)を対象に、1日1回、夕食後に4成分を含む食品(γ-トコ複合食品)を摂った場合と、見た目が変わらない偽成分を含む食品(プラセボ)を摂った場合とで、PMS症状の程度を比較。本調査では、1日目から4日目までは自宅や職場など日常生活下で、5日目夕方からは実施施設にて安静に過ごした。
論文内でも注目されている、γ-トコフェロールとγ-トコトリエノールのメリットを医師の視点から小川先生に解説してもらった。
■ 「γ-トコフェロール」「γ-トコトリエノール」の良さはどんな点でしょうか。
「γ-トコフェロール、γ-トコトリエノールは、特に水分貯留(むくみ)のケアができる成分なのが良い点ですね。一般的なビタミンE(α-トコフェロール)とは異なる働きがあり、月経前にむくみを感じる人、身体症状・精神症状ともに気になる人には、まずはセルフケアの一環として手軽なサプリメントを使ってみるのも良い方法です。
男性管理職にもできるサポート方法とは
ここまでで「PMSについておおまかに理解できた」という方も多いのではないだろうか。
しかし、特に男性の管理職にとって、女性の部下に「今日はPMSで調子が良くないの?」と直接たずねたり、「PMSをやわらげるために○○をしてみては」と提案することはハードルが高いかもしれない。
そこで小川先生に、PMSの症状で悩む女性がより安心して働ける職場づくりに役立つ方法を聞いてみた。
■ 企業における女性のPMSへのサポートとして、良い事例やアドバイスがあればお願いします。
「医師の立場としては、PMSで困っている女性にはぜひ婦人科を受診してほしいと思います。直接受診をすすめにくい場合は、無理せず休暇やフレキシブルな勤務体制があればそれを利用するように声をかけるだけでも効果があるでしょう。また、女性管理職・同僚や産業医・保健師などに部下の職場での様子を伝え、受診をアドバイスしてもらう方法もあります。実際に、PMSによる不調で休職してしまっていた女性に、上司から無理なく勤務していいと伝えることで復職につながったケースもあります。少しだけ休憩できるスペースを設けるのも良い方法ですね。」
「企業は、従業員のヘルスケアの一環として、有休を取らなくても、少し休憩したり気軽に受診したりできるような社内制度づくりにぜひ取り組んでみてほしいですね。また、生活習慣を整えることもPMSの症状緩和に有効です。残業など労働状況の見直しもあわせて行なっていってほしいと思います」
より働きやすい職場づくりへ
今回は、おもに男性を含む管理職に向け、女性の労働パフォーマンスに影響を及ぼすPMSについての理解と、ヘルスケアに取り組みやすい職場環境づくりについて、専門家の提案に基づき解説した。
PMSで困っている女性はもちろん、男性も含めた全メンバーが正しい知識を持ち、対処したり、環境を整えたりしながら、女性がよりすこやかに活き活きと働き、高いパフォーマンスを発揮できる職場を目指していきたい。
大塚製薬では、研究開発で得られたノウハウを元に、女性の健康維持増進や生活の質の向上にむけた情報提供・健康啓発にも注力している。
その一環として運営している『PMSラボ』や『女性の健康推進プロジェクト』では、より詳しい女性のための健康情報を知ることができるため、ぜひアクセスしてみてはいかがだろうか。
- *1働く女性の健康増進に関する調査2018; 日本医療政策機構: 9, 21-22, 2018
- *2 女性の健康と仕事への影響に関する調査(2021年9月 大塚製薬調べ)
対象:20-44歳女性 管理職登用機会のあった正規雇用の会社員・公務員 1,001人のうち、
PMSを自覚し、日常生活に支障をきたすと回答した285人 - *3日本女性医学学会雑誌; 29(4): 578-587, 2022(一部改変)
監修:小川真里子(おがわ・まりこ)
東京歯科大学市川総合病院准教授。慶應義塾大学産婦人科を経て東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教・講師を歴任し、幅広く女性のPMSや更年期などの診療にあたる。
日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本心身医学会心身医療専門医、日本女性心身医学会認定医。