インタビュー
スマホゲームの開発費は“平均”で1億超え。2014年オンラインゲーム市場の知られざる数字を,JOGAに直接聞いてみよう
2014年からは「PC&コンソールゲーム機 / スマートフォン&タブレット(ゲーム提供プラットフォームが共通) / フィーチャーフォン」とデバイスごとにカテゴリーを分け市場調査が行われており,各デバイスの市場を合わせた2014年国内オンラインゲーム市場の合計は前年比11%アップの9308億円に達するという。
聞こえてくる数字だけでも明らかに景気の良さそうなスマホゲーム市場や,衰退をささやかれがちなPCオンラインゲーム市場は,実際にデータで見てみた場合どのような動きになっているのか。JOGAの植田修平氏(日本オンラインゲーム協会 共同代表理事)と川口洋司氏(日本オンラインゲーム協会 事務局長)に直接話を聞いてみた。
日本オンラインゲーム協会 共同代表理事 植田修平氏 |
日本オンラインゲーム協会 事務局長 川口洋司氏 |
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。先日2014年度の市場調査レポートについてのプレスリリース(関連記事)を出されましたが,まずはそのあたりからおうかがいしたいと思います。
植田氏:
そのときのプレスリリースにも書きましたが,我々の調査によると2014年のオンラインゲーム市場は9300億円ほどになるんですね。それ以外にもいろいろな調査項目がありますが。
4Gamer:
なるほど。では順番に聞いていけば,オンラインゲームの市場動向も見えてきそうですね。
スマホゲームの市場規模は,昨対比30%増
4Gamer:
そもそも根本のところから始めてよいでしょうか。これから植田さんに聞こうと思っている各種のデータなんですが,それはどこでどのように調べたものなんでしょうか。
会員企業に提供していただいた「生データ」をベースにして,通信事業者など業界に関わる企業へのヒアリング調査,IR資料等総合的に調査したデータを元にしています。
4Gamer:
よくあるリサーチ会社の調査結果とか,インターネットを通じてプレイヤーにとったアンケートの結果などではない……?
植田氏:
ないですね。2004年から会員企業と機密保持契約を交わして,各社の情報をご提供いただいていますし,かなり多角的に調査しています。PCのオンラインゲームについては,サービスタイトルのデータベースも持ってますし。
4Gamer:
ええと,ちょっと待ってくださいね(といってJOGA会員企業を調べる)。……結構そうそうたる構成なんですが,これらの会社の「生データ」が反映されていると考えてよいんでしょうか。
植田氏:
そうですね。もともとは会員企業のビジネスのために始めた調査なんですが,埋もれてしまうのはもったいないなぁと思って,会員企業に提供した後,公開しているわけです。それを今回,こうしてインタビューでお話しているわけです(笑)。
4Gamer:
確かにそれはお世辞抜きにちょっと欲しいかも……。
植田氏:
そういってもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
ではまずは全体的なお話から聞かせてください。
先ほどのお話に“2014年の国内オンラインゲーム市場規模は9300億円”とありましたが,そもそもその数値は,そのまた前の年度と比べてどうなっているんでしょう。
植田氏:
昨年はなにせスマートフォンの市場が爆発的に伸びました。オンラインゲーム市場全体での伸びは11%に留まっていますが,スマートフォン市場に限って言うと,30%以上の伸びです。
4Gamer:
たった1年で30%伸びたんですか。
植田氏:
金額にすると,スマホだけで5500億円から7300億円まで伸びた感じですね。
4Gamer:
不調だと言われるPCオンラインゲームに関しては1100億円マーケットということですか?
川口氏:
そうですね。2013年から12%減となります。
4Gamer:
さすがにちょっと減りましたねえ。
植田氏:
新規タイトルのローンチも,ここ何年かで少なくなってますしね。10年近くこういう統計を取ってますが,今までで一番低い数字です。パブリッシャもデベロッパも,新規プロジェクトの軸足を完全にスマートフォンに移していったためでしょうね。
4Gamer:
でもこれ,2013年時点ですでにスマートフォンの勃興は誰が見たって明らかだったわけじゃないですか。しかし,その時点ではそんなに減っていませんね。その前から動いていたプロジェクトがそのまま立ち上がったという感じ,なのかな。
植田氏:
おそらくそうでしょうね。PCオンラインゲームの開発は長くて3〜4年かかるものが普通にありますから,時期的に見て一昨年から昨年までは,比較的高い水準で新規タイトルが揃っていたと見ています。
4Gamer:
さすがに最近は,元々PCオンラインゲームをメインにやっていたところでさえ,スマホ向けゲームにシフトして,新規のPCオンラインゲームを出さないところも増えましたよね。
植田氏:
確かにPCオンラインゲームのマーケット自体は縮小していますが,継続タイトルは健闘してますよ。このグラフから分かるとおり,2013年より下がっているとはいえ,比較的高い水準で収益性が保たれているタイトルが多いんです。
4Gamer:
その場合の「継続タイトル」の定義は?
川口氏:
今回の調査結果で言うなら,2014年より前にサービス開始したタイトルのことを指します。
植田氏:
まぁとはいえ,実際のところ,継続タイトルは5年以上続いているものが大半を占めているのが現状ですけど。
4Gamer:
しかし255タイトルもあるんですね。
川口氏:
将棋とかチェスみたいなカジュアルなブラウザゲームなどはさすがに含んでいませんが,ストラテジーとかのブラウザゲームは入っています。
4Gamer:
この仕事をやってて言うのもなんですが,正直なところもっと少ないと思ってました。……これって見方を変えると,MMORPGが盛んだった2005年当時に比べて,PCオンラインゲームの選択肢は倍以上あるということなんですね。
植田氏:
そういうことになりますね。新規タイトルを含めたトータルの数を見ても,300タイトル以上がサービスを続けているわけで。実は去年は,その数がピークを迎えた時期でもありました。
4Gamer:
そうは言っても,クライアントタイプのPCオンラインゲームはさすがに減ってますよね。
植田氏:
やはり開発にかかるコストと時間がネックになっているでしょうね。海外からタイトルを買ってくるにしても,運営するにあたってのコストはかかりますから,そのあたりの影響もあると思います。
川口氏:
あと,海外で作られているタイトルも減っている,という理由もありますね。
4Gamer:
確かに今は買い付けるタイトルがありませんよね……。かつての頼みの綱だった中国や韓国も,みんなスマホに流れていますし。
でも悪意のある質問ではないんですが,これだけスマホがもてはやされている現状で,PCオンラインゲームをローンチするビジネス的メリットはなんだと思われます?
植田氏:
うーん……そこはやはり,コアユーザーの存在ですかね。継続タイトルがこれだけあることを考えても,そこは重要なファクターだと思います。PCオンラインゲームは“大変だ”というだけで,ヒットしないわけではないですからね。
4Gamer:
「FF14」(ファイナルファンタジーXIV)はもちろんとして,ちょっと前では「艦これ」(艦隊これくしょん -艦これ-)なんかもありますしね。
植田氏:
海外ではそれこそ「League of Legends」といったPCオンラインゲームが,文字どおり“爆発的”にヒットしてますし,Steamなどを見ていても以前より活発に動いている印象があります。PCオンラインゲームが完全にシュリンクしているということはなくて,やはりそこもコンテンツ次第なところがあるんじゃないでしょうか。
FINAL FANTASY XIV |
League of Legends |
4Gamer:
生き残ってくれると4Gamerとしても嬉しい限りです。
植田氏:
よくご存じかと思いますが,ゲーム業界というものは3〜5年くらいの周期でパラダイムシフトが起こっています。スマホもそろそろピークを迎えていて,ヒット作が生まれづらいという状態になってますし。
4Gamer:
確かにちょっと小休止している感じはありますね。
植田氏:
スマートフォンの市場にも特定のタイトルが定着するようになってきて,2〜3年続いているものもあります。そろそろゲーム業界にまた,大きな変革の機会が巡ってくるのかな,と思いますね。そのときに中心となるのがPCオンラインゲームなのか,コンソールなのか,スマートフォンなのかは分かりませんけど。
4Gamer:
まぁでも,今スマートフォン向けの新規タイトルを生み出してどこまで目立てるのかというと,ちょっと難しいものはありますよねえ。
植田氏:
目立たせるために採れる手段が,非常に限られたものになっちゃうんですよね。
4Gamer:
あと,昨年に比べてPCオンラインゲームの新作の話がちょこちょこ耳に入ってくるようになりましたし,なんとなくムーブメントが一周したのかな? という感はあります。一周というか,揺り戻しというか。
PCオンラインゲームの課金率が最も高いのは20代
4Gamer:
それにしても,255タイトルもよく続いているものですね……。この数字には本当に驚かされました。
植田氏:
続いているタイトルは,プレイヤーのコミュニティがしっかりしている傾向がありますね。
4Gamer:
そのあたりは昔と変わらないんですね。
これだけの数のPCオンラインゲームが維持されているということは,当然お金を払っているプレイヤーが大勢いて支えているということですよね。そのあたりは,何か特徴があったりするんでしょうか。
植田氏:
年代別の課金率を見てみると,PC,スマホ,フィーチャーフォンのプラットフォーム間で大きな変化はないんですが,どのプラットフォームであれ,20代から40代までの課金率が非常に高いという結果が出ています。
4Gamer:
想定どおりではありますが,割とキレイな山型なんですね。
植田氏:
小中高の世代と比べると,20代以上になると課金率が倍以上違いますね。
4Gamer:
純粋に可処分所得の金額がそのまま反映されている感じ……なのかな? でもPCに関しては,20代の課金率が一番高いんですね。ちょっと意外。
植田氏:
もう少し30代のほうに偏っているイメージでしたけどね。わずか2,3%の差とはいえ,30代よりも20代のほうが課金率は高いという結果になりました。
4Gamer:
PCとスマホに関しては,30代と40代の開きが結構ありますねえ。
川口氏:
これは,デバイスの所有率にある程度比例しているんだと思いますよ。
4Gamer:
なるほど。PCなんかも,最近では上の世代のほうは持っているけど,いまどきの若者は持ってないとよく聞きますね。
植田氏:
そういう意味では,PCオンラインゲームにおける40代の課金率はもう少し高いイメージを持っていたのですが,実際にふたを開けてみたらこんな感じでした。40代といえば,若いころにPCでオンラインゲームや海外のゲームを遊んでいた世代のはずですよね。
4Gamer:
まぁ私や植田さんなんかがそうですね(笑)。でも40代って,人によってはちょうど生活に変化が出てくる時期なのかもしれません。結婚して子供がそこそこ大きくなって,家庭の維持にまつわる金銭的/時間的コストも増えて,ゲームしてる場合じゃないかなぁ……みたいな。
植田氏:
ライフスタイルが変化するタイミング,というのは確かに考えられますね。
4Gamer:
年齢別のARPUはどうなっているのでしょうか。
植田氏:
このグラフはARPU※ではなくてARPPU※になっていますが,見てお分かりのように,昨年に比べて客単価がかなり高くなっています。
*ARPU=Average Revenue Per User(ユーザー1人当たりの平均売上金額),ARPPU=Average Revenue Per Paid User(課金ユーザー1人当たりの平均売上金額)
4Gamer:
うーん……ARPPUとはいえ7300円って。
植田氏:
課金の額の話になるとスマホの話題が多いですが,PCも結構あるんですよね。
これはあくまでも個人的な推測ですが,PCオンラインゲーム市場はイメージとして縮小傾向にあるとはいえ,プレイヤーのコアゲーマー化はどんどん進んできているんでしょうね。新規でプレイする“客単価の低いプレイヤーさん”が獲得できていなかったり,離脱していたり。
4Gamer:
単に数字が伸びたという意味では悪くない話ですが,もうちょっと広い視点で見るとあまりよくないことですね。新規を獲得できず,コアプレイヤーだけが残っている状況というのは。もうちょっとなんとかがんばってほしいなぁ……。
しかし伸び率で言ったら,スマホのほうが全然多いんですね。
植田氏:
ユーザー数も増えていますしマーケットも伸びています。加えてARPPUも伸びているということになりますよね。課金方式も多様化してますし。
4Gamer:
確かにお金を払う内容とその方式もどんどん多様化してますね。あれだけ巧妙にマイクロトランザクションのシステムを作られると,こっちもどんどん抵抗がなくなっていきます。
ARPPUこそ上がっているが……
植田氏:
JOGAでは2004年からレポートを出しているんですが,当初はPCのARPPUのデータしかありませんでした。そのときは4000円ちょっとくらいだった記憶がありますから,そこから10年かけて数百円ずつ上がってきているわけです。
それに比べるとスマホは,短いスパンで急激な上がり方ですね。
4Gamer:
4000円から10年かかって7300円……。一方でスマホは,1年でいきなり1500円も上がってるんですね。金額的には,月に1回10連ガチャを回して,10回分くらいのスタミナ回復を買ってる感じ……かな?
植田氏:
ガチャといえば,スマホのゲームではパブリッシャさんがコラボアイテムに力を入れるようになってきてますよね。結果が出ているようでそれはいいんですが,でもこれ,PCオンラインゲームと同じ流れなんですよね……。
4Gamer:
そういえばそうでしたねえ。
植田氏:
打つ手がコラボ系に集中しすぎると,確かにARPPUはいったん上がりはしますが,ロングスパンで見るとマーケット自体はゆるやかにシュリンクしていくのではないかと。……仮説の域を出ませんが,かつてPCオンラインゲームがたどった道です。
4Gamer:
そうですね。そこは歴史が繰り返さないことを願うしかありません。
しかし意外とフィーチャーフォンもまだまだ元気ですよね。意外と,っていうと失礼ですけど,やはり周りに使っている人がいないので,いまいちピンと来ないんですよね。これってまだ,いわゆる“ソーシャルゲーム”が強いということでしょうか。
川口氏:
そうですね。ざっくり言うと,だいたい800億円くらいの市場でしょうか。
4Gamer:
きっとほぼ“ガラケーソーシャル”ですよね。まだ800億円もあるんですね。
このグラフを信じるなら,7000円というARPPUだけ見たらスマホより少し多くて,しかも前年より1400円も上がってるんですね。すごいな。
植田氏:
スマホ同様1年でここまで大きく上昇したデータは初めてですね。
4Gamer:
しかし全体的に,なんでこんな急激に上がったんでしょう? 個人の所得って1年くらいではそんなに変わらないはずなので,これはどこかから削られたお金がこっちに割り当てられているわけですよね。プレイヤーのみなさんが,そんなに多くのお金を投入している理由を,JOGAとしてはどのように捉えてますか?
植田氏:
難しいですね……。でもJOGAに集まったデータを眺めていると,プレイされるゲームが絞られてきているという印象はありますね。
4Gamer:
ということは投下されるお金が一極集中を起こしている?
植田氏:
ええ。いろんなゲームをまんべんなく楽しむよりも,一つのゲームに集中して遊ぶようになってきた気がします。それだけ真剣に遊ぶので,金額も上昇している……とそんな感じでしょうか。
4Gamer:
でも絞られてきているということは,裏を返すとマーケット全体としては,縮小傾向に至る前段階に入っている……とも言えませんか。
植田氏:
全体的な傾向ですとそういえるでしょうね。
4Gamer:
まぁセールスランキングを見ても,そこは割と明確ですけどね……。
植田氏:
とくにスマホは,ランキングという形で出ちゃうので,あれ結構酷なことですよね。ランキングというコンテンツ自体の良し悪しはいったん置いておくとして,あれだとどうしても上位のタイトルに集中しちゃう傾向が出ると思います。
4Gamer:
まぁ当然そうですよね。ましてや,ゲームに対する情報を前向きに熱心に検索する人がそうそう多いわけでもないですし。
植田氏:
これがPCオンラインゲームであれば,我々の知らないところで独特のコミュニティが出来ていて,その人達が何年もゲームを支えている……ということもありえますが。
4Gamer:
スマホではそれはまずありえないですよねえ。セールスランキングに出ないということは,イコール売り上げがないわけですから。
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