【11月5日 MODE PRESS】
―「ボージョレ・ヌーヴォ」ってどんなワイン?

 今年のハロウィンもあっという間に終わってしまいましたが、六本木や渋谷の賑わいは、凄まじかったですね。街中に仮装した若者があふれていて、通常の服装では逆に肩身が狭いくらい。活気に満ちたイベントがあちらこちらで繰り広げられていたようでした。そんな光景を眺めていると、日本人は元来お祭り好きなのだと改めて実感させられます。

 さて、今月はまた違った祭典がもう間もなくやってきますが、その主賓が11月第三木曜日に解禁となるフランスの新酒「ボージョレ・ヌーヴォ」です。これは、フランスの大銘醸地ブルゴーニュ地方南部のボージョレ地区にて、その年に収穫したぶどうを仕立てて造られた新酒(=ヌーヴォ)のこと。もともとはその年のブドウの出来栄えを確かめるため、または収穫感謝祭のような意味合いで、地元で楽しまれていたワインです。そんなボージョレ・ヌーヴォも今や世界中に伝わり、ワインファンならずとも多くの人が解禁を心待ちにするようになりました。ご存じの通り、日本は日付変更線の関係で本国フランスよりも早いタイミングで新酒をいただくことができ、その特別感は我々のお祭り気分を更に高揚させてくれます。

 ボージョレ・ヌーヴォの味わいの魅力は、何といっても軽やかでチャーミングな果実味。マセラシオン・カルボニック製法(MC法※)というボージョレならではの製法によって、色素をキレイに抽出させながら、タンニン(渋み)を抑えたフレッシュ&フルーティーなスタイルに仕上げられています。その特徴は、ガメイというブドウの品種個性であるイチゴやフランボワーズといった可愛らしい赤系果実のニュアンスや、MC法によるキャンディーやバナナのような独特のアロマ。華やかで軽快なスタイルなので、ワインを普段あまり飲まない方でもスイスイと楽しめてしまうはずです。※MC法を使わない造り手もいます。

―玄人こそ、ヌーヴォを!

 しかし、様々なワインを飲み慣れている愛好家の中からは「たかがヌーヴォごときで、日本人は騒ぎすぎ」という声もちらほら聞かれます。ガメイのチャーミングさや軽やかさは、コート・ドール(“黄金の丘”と呼ばれるブルゴーニュの極上ワイン産地)のピノ・ノワールの深遠さに比べたら、やや子供っぽく感じてしまうのでしょう。寂しいことに、ワインが身近な存在になればなるほど、ボージョレ・ヌーヴォから疎遠になっていく傾向にあるようなのです。

 でもここで、この流れにちょっと一石を投じたいと思います。造り手が手塩にかけて育てたブドウがいよいよ形になったワイン。まさに生まれたてですから、フレッシュで初々しいのは当然です。その誕生の恵みを美味しく味わい、その喜びを人々と分かち合えてこそ、はじめて、真のワイン愛好家と呼べるのではないでしょうか?やはり、「真のワインラヴァーはボージョレ好き」であるべきだと思うのです。

 また、ボージョレ・ヌーヴォは「ワインの裾野を広げる」という重要な役割も担っています。ワインを全く飲まない方に興味を持つきっかけを与えてくれる、もはや日本のワイン産業にとっては、金額以上の価値のあるワインなのです。

―ヌーヴォを愉しむマリアージュ

 そして恵みの新酒の愉しみをより広げてくれるのがお料理とのマリアージュ。相性の幅は広く、「パスタやハムなどの前菜とともにカジュアルに楽しめる」とされていますが、私がオススメしたいのは、この時期からグッと美味しくなる「おでん」とヌーヴォの組み合わせです。実はこのマリアージュ、ちょうど昨年の解禁後に訪れた恵比寿の和食店『くずし割烹かのふ』にて、店主の香山さんに教えていただいたものです。味わったボージョレは自然派の旗手であるPhilippe Pacalet(フィリップ・パカレ)の『Beaujolais Vin de Primeur(ボージョレ・ヴァン・ド・プリムール)』。無農薬ぶどうを厳選し、極めてナチュラルな状態で醸造して仕上がった優しいワインの果実味は、おでんの滋味深い出汁の旨みと驚くほど調和します。更には、軽やかで心地よい渋みが、出汁をたっぷり吸いこんだ大根やお昆布に 上品な複雑味をもたらしてくれるのでした。ボージョレの新たな魅力を発見すると共に、秋の実りの喜びと本格的な冬の到来を実感させてくれる、季節感あふれるマリアージュとして、強く印象に残っています。

 たかがヌーヴォ、されどヌーヴォ――。チャーミングな味わいそのものもボージョレ・ヌーヴォの愛らしい個性ですが、マリアージュの魔法によっては、ワインに秘められていたもっと奥深い一面が感じられるかもしれません。その味わいは、あどけない少女がふと見せる大人っぽい表情のようにドキっとした魅力にあふれています。今月の第三木曜日は、生まれたばかりの新酒を祝福すると共に、ボージョレ・ヌーヴォのまた違った魅力を引き出すマリアージュを探ってみてはいかがでしょうか。【瀬川あずさ】

プロフィール:
聖心女子大学卒業後、施工会社の秘書を務め、飲食店の企画、設計、施工業務に携わりながら、レストラン巡りに没頭する。その後趣味が高じて、フードアナリストならびにワインエキスパート資格を取得。現在は、記者・ライター業、ワインスクール講師、飲食店メニュー開発などを務め、食を通じた豊かなライフスタイルを提案するべく活動中。
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