[論説]米の民間貿易の衝撃 国産への影響回避急げ
米穀卸が輸入しているのは米国産「カルローズ」。カリフォルニア州のオリジナルの中粒種で、これまで政府の売買同時契約(SBS)で輸入されてきたが、民間貿易での主食向けの輸入は異例とみられていた。民間貿易では1キロ当たり341円の高額な従量税を払う必要があるためだ。
だが、2024年4~12月で民間貿易の申請があった米は468トンに達し、データのある19年度以降、最多だった20年度(426トン)を上回り、過去最大を更新。既に輸入契約を結んだ米卸もあり、輸入量は一層、増える見込みだ。
米卸が相次いで民間貿易に踏み切った背景には、24年度のSBS入札が年間枠の10万トンを使い切った中で、外食やスーパーなどから値頃感のある米を求める声が強まっているためだ。
これまで民間貿易による「カルローズ」輸入は異例で、高い関税が“防波堤”の役割を果たしていた。だが、今後は防波堤を超えて輸入米が押し寄せる恐れがある。
国産米の値上がりは、肥料や資材などの価格が高止まりする中、価格低迷に苦しんできた稲作農家にとって適正な価格転嫁といえる。一方、値上がりの反動として民間貿易が増えれば、関税制度が根底から揺らぎかねない。
民間貿易が始まったのは、米を関税化した1999年度からで、初年度は取引が128件、輸入量225トンだった。農水省によると主に試験用や在留外国人向けで、タイ料理フェアで香り米が輸入されたこともあったが、SBSでは手当てできないためだった。直近の2023年度は197件、368トンだったが、今回は1件の取引で300~400トンが輸入され、実態は大きく異なる。
一方、民間貿易で輸入した米を消費者が受け入れるかは不透明だ。国産米と輸入米は食味など品質に格差がある。JAグループをはじめ産地は、「国消国産」や地産地消運動を通して国産米の魅力を一層、発信する必要がある。
米は主食で、改正食料・農業・農村基本法が掲げる食料安全保障の確保につながる。水田には洪水の防止など多面的機能もある。江藤農相は24日、政府備蓄米の貸し付けによる販売を検討すると表明した。備蓄米の条件付きの運用で、民間貿易での米輸入が国産の需給に影響を極力与えないようにすることが肝要だ。