「おむすび山」なぜ多い? 専門家に尋ねた
瀬戸大橋を渡って四国に入ると、円錐(えんすい)形の山がいくつも視界に飛び込んでくる。香川県の人たちが古くから慣れ親しんできた風景だ。このような「おむすび山」は、富士山のようでもあり、丸亀、坂出の両市にまたがる飯野山(標高422メートル)の別名は「讃岐富士」。県内に点在する山をまとめて「讃岐七富士」とも呼ぶ。
青森の津軽富士、鹿児島の薩摩富士など、ご当地富士は全国各地にあるが、香川の「富士」は「おむすび」にたとえられるほどシルエットが愛らしく、その数も多い。
香川の地質に詳しい長谷川修一・香川大学特任教授(65)に、その理由を尋ねた。
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――香川の「おむすび山」は、富士山と同じような火山なのでしょうか
火山ではありませんが、大昔の火山活動でできたものです。「おむすび山」の中心部は、地下のマグマが地表に出る際の通り道でした。マグマは固まって硬い岩(安山岩)になり、長い年月をかけて周囲の軟らかい岩(花崗岩(かこうがん))が削られ、今の山の形になったと考えられます。
――香川でも火山活動があったのですね
現在の四国に火山はありませんが、約1400万年前には、短期間の激しい火山活動がありました。「瀬戸内火山活動」と呼ばれ、今の瀬戸内海を中心に、愛知県から大分県にかけて、頻繁に噴火があったと考えられます。
県内でも飯野山や、小豆島、高松市と坂出市にまたがる五色台などで大量の溶岩が噴き出しました。屋島(高松市)の平らな山頂も、このときに流れ出た溶岩によって作られたものです。
香川は、他の地域と比べても特に激しい火山活動が起きました。そのため、おむすび山が並ぶ独特の景観が生まれたのでしょう。
――瀬戸内の島々は、おむすび山が海に沈んでできたのでしょうか
同じようにできたものもあります。天然記念物に指定されている東かがわ市の無人島、丸亀島もその一つです。五色台の沖にある大槌島、小槌島もおむすび山でした。後に標高の低いところに海水がたまって島になったと推測されます。
ほかの多くの島は、別の過程で形成されました。約300万年前、四国を南北に分ける大断層「中央構造線」が横に動いたのがきっかけです。横ずれの「しわ」として大地が隆起し、後の島になったと考えられています。
ちなみに、瀬戸内海ができるのはそれよりさらに後の時代。約1万年前に現在の形になったと考えられています。
――長い時間をかけて、今の香川の風景が形成されたのですね
溶岩の恵みがあるおかげで、古代に石器として使われたサヌカイトや、現代では高級石材として使われる庵治石など、石の文化も古くから栄えてきました。
この美しい景観と石の文化は世界的にも貴重で、私はユネスコ世界ジオパーク(地質遺産公園)に県全体が登録されることを目指しています。
その土地の地質を見れば、過去にあった災害も分かります。土地を学ぶことで、郷土の石や文化の理解を深めながら、防災について考える機会にもなればいいと思っています。
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専門は地質工学や地域防災。松江市出身で、東京大・大学院で地質学を学んだ。四国電力の研究職を経て2000年から香川大工学部(現・創造工学部)で教える。今年3月に定年退職し、現在は特任教授として、防災を担う人材を育てる学内の危機管理先端教育研究センター長を務める。
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