第1回「君を部長にする気はない」 キャリア重ねた女性を阻んだ、昇進の壁
大手電機メーカーの研究職として働いてきた女性(59)がこの冬、定年を待たずに会社を去った。
新たな技術をたくさん開発し、ヒット商品にもつなげた。だが、どんなに実績を積んでも「昇進の壁」にはね返されつづけた。
昇進していく同期や年下の男性たちを横目に、待っていたのは「君にはそういう教育をしていない」という上司の言葉。
定年より先に、絶望がやってきた。
男性は次々と昇格 自分はいつまでも「ヒラ研究員」
進学校を経て国立大学の理学部を卒業し、1987年に大手電機メーカーに就職した。その前年に、雇用上の男女差別などを禁じる「男女雇用機会均等法」が施行。その適用を受けて採用された「均等法第一世代」だ。
女性が就職したメーカーでも、いわゆる総合職である「全社採用」は、前年までは男性限定。その全社採用の女性第一号のひとりとして、研究所に配属された。
同じ研究所配属の新人は、男性8割以上に対し、女性1割強。それでも、「均等法第一世代というのは、とくに意識していませんでした。高校も大学も男子が多い環境で、対等だという感覚でいましたから」。
働き始めると、周囲の男性が次々と、研究テーマをまとめる主任研究員に昇格していくのに、女性は「ヒラ研究員」に長く留め置かれる現実に直面する。5歳下の男性にも抜かれたとき、その男性に言われた。
「どんなモチベーションで働けるの?」
心が折れそうになった。
「男性の3倍働かないと評価されない」
「私、そんなにできが悪いんですか」と上司に聞いてみた。「優秀だと思っているよ」と返されるが、状況は変わらない。
かつて同級生だった男性が上司になり、なぜ昇進できないのか、思い切って詳しい説明を求めてみた。
「俺はちゃんと、いい評価を上にあげている。でも部長会で最終的に下げられてしまう。残念だけど、女性は男性の3倍くらい働かないと評価されないと思った方がいい」
均等法とは結局、入り口だけの均等だったのか――。
ともかく、研究開発にいそしんだ。学会でも精力的に発表を重ねるうち、学位取得を支援する対象に社内で選ばれ、在職しながら工学博士を取得する。ようやく、主任研究員に昇格した。
一連の実績が認められて引き抜かれ、40代で別の大手電機メーカーに転職する。
均等法「第一世代」として男性と同じスタートラインに立ったはずの女性。キャリアを重ねるごとに、理不尽な「壁」が立ちはだかります。縮まらない男女格差の「現在値」をみつめ、格差の構造を次世代に残さないためにできることを考える連載(全7回)の初回です。
「僕の薫陶を受けているからね」
新天地では「新技術を開発し、事業化まで進めてほしい」と期待された。
課長ポストにつき、一時は10人ほどの部下を率いた。海外向けや国内向けにと新商品を生み出し、メディアの取材も多く受けた。
それでも、課長以上の昇進は…
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男女格差が主要先進国で最下位の日本。この社会で生きにくさを感じているのは、女性だけではありません。性別に関係なく平等に機会があり、だれもが「ありのままの自分」で生きられる社会をめざして。ジェンダー〈社会的・文化的に作られた性差〉について、一緒に考えませんか。[もっと見る]