第4回習近平氏の根底にある危機感 「アンチ普遍的価値」勢力で目指す覇権
中国の習近平(シーチンピン)指導部は、米欧が主導してきた「普遍的価値」に挑む姿勢をあらわにしています。中国には中国式の民主や人権があるとし、近年は中国の方から仕掛けて普遍的価値を相対化しようとする動きも活発です。防衛研究所中国研究室の山口信治主任研究官はこうした動きが、米中の「覇権競争」につながっていると指摘します。
――冷戦終結から30年余り経ちますが、米中のイデオロギーや価値観をめぐる闘争は近年、激しくなっているようにみえます。
習氏は共産党イデオロギーを非常に重視してきた人ですが、根底には強い危機感があるように感じます。米国が普遍的価値を浸透させることによって中国の共産党統治体制の転覆を図っている、つまり中国で「カラー革命」を起こそうとしているという考え方です。
対抗するには競争するしかない、という姿勢につながっているのだと思います。
「カラー革命」恐れる習近平氏
――習氏独特の考え方なのでしょうか?
米欧が平和的な手段で中国の体制転換を図っているという陰謀論は、毛沢東時代からありました。毛はこれを「和平演変」と呼びました。1989年には学生らによる民主化運動を軍が弾圧する天安門事件が起きますが、この時も党は、外国が学生らを手引きして「和平演変」を企てていたのだと主張しました。
その後、改革開放を重視する鄧小平のもといったんは「和平演変」への警戒心は薄まりますが、00年代には旧社会主義圏で民主化運動によって政権が倒れるカラー革命が起こります。10年以降はアフリカや中東で権威主義的な政権が相次いで倒れる「アラブの春」もありました。
このころ、胡錦濤政権の末期に、中国でも「普遍的価値は存在するか」という議論が盛んになったこともありました。しかし、中国でも11年、アラブの春に影響を受けて「中国ジャスミン革命」という民主化デモの呼びかけがありました。未遂には終わりましたが、一連のカラー革命を米国が自国に有利な国際環境をつくるための策略だと考えた党は、再び警戒心を強めていったのです。
【連載】中国新世 「超大国」を束ねる論理
イデオロギーや価値観をめぐる米中の対立は今後、どこへ向かうのでしょうか。記事後半で読み解きます。
――中国ジャスミン革命の翌年、習氏が党総書記に就任します。
習氏はもともとイデオロギー…