拡大する「きみの色」のメインキャラ3人。左からルイ、トツ子、きみ (C)2024「きみの色」製作委員会
すべてがおだやかでやさしい世界だが「なぜ?」が多い映画「きみの色」。山田尚子監督に聞いてみました。なぜ葛藤が薄い? なぜ「男性性」不在? ルイのセクシュアリティーは? ライブの衣装の意味は? あ、ネタバレありです。
まずは当たり障りのないストーリーの説明から。舞台は美しい海を望む町。主人公のトツ子はキリスト教系の女子高の生徒で、人の存在が「色」で見える体質の持ち主。校内の憧れの的である優等生きみの放つ美しい「青」に引かれるが、きみは突然退学。古書店でバイトするきみを見つけたトツ子は、居合わせた音楽好きの青年ルイを巻き込み3人でバンドをやろうといきなり言い出す――。
悩みを抱えた10代の男女がバンド活動を通じて絆を深め成長する物語で、ライブシーンがドラマのクライマックスに。こう書けば王道の展開ですが、実際に映画を見るとアタマに幾つもの「?」がともります。まず、3人の葛藤がいろいろな意味で薄いこと。
ほんわかしたトツ子は「人が色で見える」ゆえに周りとズレているというか浮いていることを悩んでいるようなのですが、高校の寮の同部屋の子も級友もみんな優しくて、仲良くやってます。深刻に困る場面もなし。仮病で修学旅行を休み寮にきみを泊めたのがバレて「反省文と奉仕活動」という処分を食らうのですが、トツ子の母は叱るどころか安心したように「かばってあげたくなるような友達が出来たんだね」と喜びます。いやいやお母さん、ご自分の娘さんのこと分かってますか? 誰とも仲良くやってますよ?とツッコみたくなります。このセリフを生かすなら、トツ子が孤立している描写があってしかるべきなのですが、映画はそう描きません。
物静かなきみは祖母とふたり暮…