路上で、知らない誰かを褒める。そんな人がいる。
なぜ、他人に褒められたいのか。褒めることは何をもたらすのか。一緒に町に立ち、考えた。
昨年11月下旬、JR渋谷駅前。通称「褒めますおじさん」(43)は、「すごくほめます」と書いた段ボールを掲げ、真顔で立っていた。時が止まったかのように動かない。通行人の大半は目もくれずに通りすぎる。
1時間後、女子中学生(15)が足を止めた。おじさんは身ぶり手ぶりを交え、まくし立てるように言葉を連ねる。
「明るくて元気そう。心も広くて、リアクションもとってくれて優しい。人を引きつける能力がある」
1分近く、褒め言葉を浴び続けた中学生は「普段はまっすぐ褒められることがほとんどない」と満足げ。足元の集金用の箱に150円を入れ、去っていった。
おじさんは、若い頃からいろんな仕事を渡り歩いてきた。2021年12月30日。会社を辞め、所持金は600円になった。路上パフォーマンスに憧れていたが、手品や歌などの特技はない。「褒めることなら嫌な気持ちになる人も少ないのでは」と一念発起した。
心がけるのは、「盛りすぎない」こと。初対面では外見から始め、会話から内面も掘り下げていく。
自宅はなく、ネットカフェやビジネスホテルを転々としている。立つ場所は日替わり。スマホの通信料は払っていないが、フリーWiFiを利用してSNSで周知する。東京を中心にこれまで31都道府県に「出張」してきた。平均すると1日30人以上褒め、1万円稼ぐという。「相手が楽しんでくれれば、私もうれしい。だから3年続けて来られたんです」
「ぶんぶん神龍(じろん)」という芸名で、放送作家と芸人を志す都内の男性(24)は、2年ほど前からの「常連」だ。「おじさんは、生きる支えなんです。彼がいなければ、今の僕は生きていなかったかもしれない」
SNSで知り、興味本位で会いに行った。IT企業への就職を間近に控えていたが、失恋や吃音(きつおん)、幼少期のいじめが頭をかすめ、自信を持てなかった。初対面のおじさんは、真剣な瞳で向き合ってくれた。
かけられた褒め言葉、苦境で力に
「ITっていったら、まさに…
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- 【視点】
この記事を読んで、『法華経』の「常不軽菩薩品第20」で説かれている常不軽菩薩(じょうふきょうぼさつ)を思い出しました。不軽菩薩は、釈尊が過去世において修行した姿の一つです。自らを迫害する人々に対してさえも、「私は深くあなたを尊敬します。軽
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