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熊本の野菜の魅力を世界や次世代へ 乾燥野菜に新たな価値を見いだした起業家が描く夢

熊本の野菜の魅力を世界や次世代へ 乾燥野菜に新たな価値を見いだした起業家が描く夢
HOSHIKO Links常務取締役の冨永詩織さん(HOSHIKO Links提供)
HOSHIKO Links常務取締役/冨永詩織

熊本の野菜を乾燥加工し、新たな価値を生み出すHOSHIKO Links(ホシコリンクス)の冨永詩織さん。農業の課題に触れたことをきっかけに、生産者の所得の維持・向上を目指して起業。独自のプロジェクトでは5年間で200tの規格外野菜を活用し、世界的に有名なレストランのシェフも注目する商品を生み出した。

食品ロス削減と健康的な食品提供を目指しながら、地元である熊本の野菜の良さを広めたいという思いを聞いた。(聞き手 編集部・池田美樹)

食の課題との出会いから起業へ

——食の世界に興味を持ち、乾燥野菜を扱うことになったきっかけを教えてください。

福岡でマーケティングの仕事をしていた時に、農協のコンペに参加する機会があり、そこで初めて農業の抱える課題に深く触れました。ちょうどその頃、食育基本法が施行され、食べることや食育という言葉が注目されるようになっていました。これらの経験から、食に関わる仕事に強い興味を持つようになりました。

福岡での仕事を辞めて熊本に帰ってきた後、熊本大同青果という青果卸の会社でお手伝いをすることになりました。現在のHOSHIKO Linksの親会社でもあります。

当時、地元の製粉会社へ行ったときに、新商品だと言ってまだ世に出る前の真っ白な米粉のロールケーキを出してくださったんですよ。それを見て「これに野菜の色をつけたら面白いのではないか」と思ったのが最初のひらめきでした。そこから野菜の活用方法について考え始めました。

熊本県は野菜の生産量が多く、県内消費を大きく上回る量を生産していますが、天候によっては価格が暴落することもあります。こういった農業の課題を日々目の当たりにしていました。そこで、「野菜を色として使うだけでなく、もっと有効活用できないか」と考えるようになりました。

そして、「作りやすい時期にたくさん作って乾燥させておけば、いつでも活用できる」というアイデアに至ったんです。これなら、価格暴落時の野菜も無駄にせず、長期保存も可能になる。さらに、粉末にすれば様々な用途に使えると考えました。

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生産者の畑に足を運ぶ冨永さん(HOSHIKO Links提供)

このアイデアを実現するため、2013年ごろに妹と短大時代の同級生、そして熊本大同青果と一緒に会社を立ち上げて、乾燥野菜のプロジェクトを始めました。

最初は自社の乾燥設備を持っていなかったんです。乾燥野菜業界の先輩企業である県内の吉良食品に協力をお願いし、工場に私たちの原料を持ち込んで乾燥加工をしてもらっていました。

その後、委託先の製造量に限界があった関係もあり、自社工場を建設することになりました。2018年の工場建設を機に会社組織「HOSHIKO Links」を設立し、熊本大同青果グループの1社として新たにスタートを切ったのです。それ以降、徐々に加工設備を整え、自社での乾燥野菜の生産量を増やしていくことができました。

規格外野菜から多彩な商品を開発

——現在の事業内容を教えてください。

現在は26人の従業員がおり、主に熊本県の野菜や果物を乾燥加工しています。トマトが主力製品ですが、それ以外にも10種類以上の野菜を扱っています。

例えば、タマネギ、ニンジン、コマツナ、キャベツなどの一般的な野菜から、地元の果物まで幅広く加工しています。乾燥野菜の製造・販売だけでなく、レトルト加工品や、粉砕した野菜を使った出汁(だし)パックの製造など、事業を拡大しています。

また、自社で加工できない野菜については協力会社に委託して製造するなど、多様な需要に応えられる態勢を整えています。協力会社とはお互いの得意分野をいかして連携し、良い関係を築いています。

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規格外のトマトは検品後、洗浄とトリミングをおこなう(HOSHIKO Links提供)
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自社工場で、トマトであれば24時間ほどかけて乾燥する(HOSHIKO Links提供)
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1tのトマトから50kgの乾燥トマトができあがる(HOSHIKO Links提供)

——代表的な取り組みに「トマトロジープロジェクト」があります。

規格外のトマトを活用する取り組みです。熊本県はトマトの生産量が全国1位で、2022年度では国内生産量の18.4%を占めています。しかし、形が悪かったり、傷があったりすると市場に出せません。そういったトマトを有効活用しようと始めました。

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傷の入った規格外のトマト(HOSHIKO Links提供)

2018年のプロジェクト開始から5年間で、約200tの規格外トマトを乾燥させて活用しました。ドライトマトのほかにも、地元の高校や異業種の企業と商品開発をしたり、産地ブランドを訴求したカレーやトマトの成分をいかしたオイルなどを商品化したりしました。

オイル製造後の残渣(ざんさ)はスイーツやせっけんになりました。捨てるところがないんですよ。

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製品として仕上げられた乾燥トマト(HOSHIKO Links提供)
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8種類の乾燥野菜をブレンドした「熊本県産はちべえトマトのキーマカレー」(HOSHIKO Links提供)

最近では、星野リゾートのブランドのひとつである「OMO5熊本」というホテルとコラボレーションし、トマトバターサンドやキーマカレーソースのパンなど、様々な商品開発もおこないました。

熊本のおいしいトマトの魅力を知ってもらう機会につながればと、このように、他企業や学校などとのコラボレーションも積極的に進めています。

——キッチンカー「ポポット」の活動も始まっています。

「ポポット」は、私たちの商品を直接お客様にお届けするためのキッチンカーです。より多くのお客様へHOSHIKOの商品や熊本のおいしいものを直接ご紹介する機会を持ちたいと考えて始めた活動です。

ポポットのロゴは野うさぎをモチーフにしています。野うさぎは新鮮な野菜や果物が大好きな草食動物で、前にしか進まないそうです。私たちも、こだわって時間をかけて作った商品を、お客様に手軽に食べていただき、おいしいと思ってもらえるよう前進し続けたいという思いを込めています。

現在、熊本県内だけでなく、他県にも出張して販売をおこなっています。先日は私自身もスタッフとして福岡県の糸島市まで出かけてきました。

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キッチンカー「ポポット」での出店の様子(HOSHIKO Links提供)

キッチンカーは、お客様の反応を直接見ることができるのが大きな利点です。また、地元の学校行事などにも参加し、子供たちに野菜のおいしさや熊本の素晴らしさを伝える機会にもなっています。

乾燥野菜の安定供給に向けた挑戦

——事業をおこなう上での課題はなんでしょうか。

最大の課題は原料の安定調達です。気候変動の影響で野菜の生育が不安定になっており、価格も上昇しています。自然との闘いの中で、安定してお客様に供給し続けることが難しくなっています。

例えば、最近の猛暑でコマツナが育たないといったことが起きています。以前は野菜が余っていた時期もありましたが、今は状況が変わってきています。製造計画の見直しをおこないつつ、熊本大同青果の自社農場での新たな作付けや産地開拓に取り組んでいます。

また、大手企業からの委託生産が増えてきたことで、これまで以上に厳しい品質管理を求められています。

例えば、大手小売業のプライベートブランド商品の製造を受託することになり、初めて工場を2交代勤務の態勢で動かしました。受注数は数十万パック、全15アイテムの乾燥野菜をすべて供給しています。うれしい半面、品質管理の責任の重大さを感じます。

一昨年には、食品製造の安全に関する国際認証「FSSC22000」を取得しました。製造工程の改良・改善や従業員の教育などにも力を入れ、不良品を出さないよう徹底した品質管理態勢づくりに努めています。お客様の期待を裏切らないよう気を引き締めて日々取り組んでいます。

熊本の野菜の魅力を世界や次世代に

——今後目指すことや目標を教えてください。

私たちの企業理念は、地元熊本の農業を支援しながら、食品ロスを削減し、健康的な食品を提供することです。生産者の思いや努力をお客様に伝え、つなげていくことが重要な役割だと考えています。

この理念に基づき、今後はさまざまな展開を考えています。まず、キッチンカー「ポポット」の事業を拡大し、首都圏でのお弁当販売や宅配、ケータリングなどもおこなっていきたいと考えています。より多くのお客様に、直接、熊本の野菜の魅力を伝える機会を増やしたいです。

また、最近、世界的に有名なレストラン「NOMA」のシェフが工場を訪れ、京都のポップアップレストランで私たちの乾燥野菜を使ってくださいました。その後も継続して発注をいただいています。このような評価を励みに、熊本の野菜の魅力を世界に発信していきたいと考えています。

さらに、農業との連携も強化していく予定です。現在、グループ全体で100haほどの農地を持っており、そこで作った農産物を使った新しい商品の開発も検討しています。同時に、地元の生産者との協力関係も深めていきたいと考えています。

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熊本県内の様々な生産者との連携を図っている(HOSHIKO Links提供)

食品ロス削減の取り組みとしては、トマト以外の規格外農産物の有効活用にも力を入れていきます。これは環境への配慮だけでなく、生産者の方々の努力を無駄にしないという思いもあります。

地域貢献の観点からは、将来的に子供たちが地元で育った野菜を食べて育っていける環境を作ることを目指しています。地域の食文化を守り、次世代に伝えていくという意味でも重要だと考えています。

最終的には、私たちの活動を通じて熊本の農業が活性化し、より多くの人が農業に興味を持ち、後継者が増えていくことを願っています。熊本の野菜が日本中、さらには世界中で愛されるようになることが私たちの大きな目標です。

——最後に、個人的な夢や今後のビジョンについて教えてください。

私個人としては、いつかは小料理屋を開きたいという夢があります。実は会社を始める前は店を開こうと思っていたんですよ。今でもその夢は捨てていません。会社の経営をしっかり軌道に乗せたら、小料理屋で料理を作りたいと思っています。

乾燥野菜や野菜の加工品のおいしさを直接お客様に伝える場所を持ちたいんです。熊本の野菜の魅力を通じて、多くの人に笑顔になってもらえるよう、会社としても個人としてもこれからも頑張っていきたいと思います。

 池田美樹
池田美樹 ( いけだ ・みき )
朝日新聞SDGs ACTION! 契約編集者。株式会社マガジンハウスで『Olive』『Hanako』『anan』『クロワッサン』などの雑誌編集者、米国テック会社のニュース編集者を経てフリーランスに。ウェルビーイング、テクノロジー、女性の働き方、旅などを主な取材テーマとする。
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